日曜日恒例コメント返し!「牛は撫でられたい」そのコメントに酪農家が本気で答えます
2026-07-12 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
こんにちは。島根県出雲市で酪農をしている川上です。
今日は7月12日、日曜日。
最高気温は34℃の予報です。
朝から「今日は海に行ったら気持ちいいだろうなあ」なんて考えながら、僕は牛舎にいます。
日曜日は毎週、育成牛舎の掃除をする日。
今日はそれに加えて、人工授精を1頭。生まれた子牛の処置やワクチン、来週の家畜市場に出す子牛を洗ったりと、市場へ向けた準備もあります。
そんな日曜日に続けているのが、毎週恒例の「コメント返し」です。
YouTube、TikTok、X、note、音声配信などに届いたコメントを読みながら、普段の配信では話しきれなかったことを、少しゆっくり考えてみる時間です。
今週もいろいろなコメントをいただきました。
「牛乳に旬があるなんて知りませんでした」
「北海道に何かあったら、日本の牛乳はどうなるんでしょう」
「牛乳を飲んだら身長は伸びるんですか?」
「生まれた子牛の名前は何になりましたか?」
どれも面白いコメントだったのですが、その中に、僕がしばらく考えてしまったコメントがありました。
それがこちらです。
「人間が手をかけてこそ生まれるものがあると私は思います。牛だって声をかけられたいし、撫でられたい。人間にしかやってあげられないことがある。」
未来型の牛舎や、AI、ロボット、スマート農業について紹介した投稿にいただいたコメントでした。
たぶん、多くの人がこの意見に共感すると思います。
でも僕は、少し違う考え方をしています。
「牛は撫でられたい」に、僕ならこう答える
先に結論を言います。
僕は、なるべく牛に人間が介入しない方がいいと思っています。
こう書くと、
「牛に愛情がないの?」
「牛と触れ合わない酪農なんて寂しくない?」
と思われるかもしれません。
もちろん、牛が嫌いだから触らないわけではありません。
むしろ逆です。
牛が牛として暮らせる時間を、なるべく邪魔したくない。
僕が考えているのは、そういうことです。
人間から見ると、撫でる、声をかける、近くにいるという行為は「愛情」に見えます。
でも、それを牛側から見たらどうでしょう。
すべての牛が、
「今日は川上さんに撫でてもらいたいなあ」
と思っているとは限りません。
人懐っこく、自分から近づいてくる牛もいます。
触られることを嫌がらない牛もいます。
一方で、人が近づくと少し距離を取る牛もいます。
牛にも個体差があります。
実際、乳牛への穏やかな接触について調べた研究では、撫でることによって人への警戒が小さくなることが報告されています。一方、人を怖がっている牛では、最初から無理に触れるよりも、牛自身が人との距離を選択できる状況も重要だと考えられています。
つまり、
「牛は撫でられるのが好き」でもなければ、「牛には触らない方がいい」でもない。
もっと大切なのは、
その牛がどう感じているかを見ること。
僕はそう思っています。
「手をかける」と「大切にする」は、同じではない
ここは、酪農を考えるうえですごく面白いところです。
人間はどうしても、
手をかける
=愛情がある
=良い飼い方
と考えやすい。
でも、本当にそうでしょうか。
例えば牛舎で、人間が一日中牛を動かしていたらどうでしょう。
こっちへ移動させる。
餌を食べさせる。
搾乳へ連れていく。
また戻す。
何かするたびに人間が近づく。
人間側は「しっかり管理している」と思っていても、牛からすると、
「また人間が来た」
かもしれません。
だから僕は、
人間が牛のために何かをすることより、人間が何もしなくても牛が快適に暮らせる環境を作ることの方が重要なのではないか
と考えています。
餌を食べたいときに食べられる。
水を飲みたいときに飲める。
横になりたいときに横になれる。
暑ければ涼しい場所へ行ける。
他の牛との関係を保ちながら、自分のペースで生活できる。
僕が作りたいのは、そんな牛舎です。
僕が牛舎にあまりいない理由
僕はできるだけ、牛舎に長時間いることを目的にしないようにしています。
もちろん仕事はします。
餌も見ます。
牛の状態も確認します。
治療が必要なら治療します。
人工授精もします。
分娩で助けが必要なら介助します。
でも、
「牛のためには人間がずっとそばにいた方がいい」
とは思っていません。
むしろ理想は、
人間がいなくても牛舎が穏やかに回っていること。
牛が餌を食べている。
別の牛は寝ている。
反芻している牛がいる。
水を飲みに行く牛がいる。
それぞれが好きなことをしている。
そこに人間が必要以上に割り込まない。
僕にとっては、そういう状態の方が「うまく飼えている」に近いんです。
AIやロボットは「牛から人を遠ざける技術」なのか
ここで出てくるのが、AIやロボットです。
最近は、
自動搾乳ロボット
自動給餌機
発情センサー
反芻センサー
活動量計
カメラによる行動解析
など、さまざまな技術が酪農に入ってきています。
こういう話をすると、
「酪農まで無人化するの?」
「機械ばかりになったら動物との関係がなくなる」
という意見もあります。
僕は少し違う見方をしています。
テクノロジーは、人間が牛を見なくてよくなるためではなく、“人間が本当に必要なときだけ介入できるようにする技術”なのではないか。
例えば、24時間牛の横に立っていなくても、センサーが活動量の変化を知らせてくれる。
発情らしい動きがあれば通知が来る。
反芻が落ちれば異変に早く気づける。
カメラがあれば、人間が牛舎へ入らなくても様子を確認できる。
これは「牛を見なくなる」のではありません。
むしろ、
牛を見る方法が変わる。
ということです。
技術ですべての病気を防げるわけでもありませんし、センサーだけで牛の福祉すべてを判断できるわけでもありません。
研究でも、酪農技術は福祉改善に役立つ可能性がある一方、一つの技術だけで牛の状態全体を把握できるわけではないことが指摘されています。
最後に判断するのは、やはり人間です。
だから僕は、
人間の仕事をなくしたいのではなく、人間にしかできない仕事へ人間を戻したい。
と思っています。
「何もしない」は、一番難しい管理かもしれない
ここは誤解してほしくないところです。
介入しないことと、放置することは全く違います。
何もしなくてもいい状態を作るには、
餌
水
換気
暑熱対策
ベッド
牛の動線
牛群構成
繁殖
疾病予防
をかなり細かく整えておかなければいけません。
環境が悪いまま、
「牛の自由に任せています」
と言ったら、それはただの放置です。
僕が目指しているのは逆です。
徹底的に環境を整えた結果、人間が介入する必要がなくなる。
そんな状態です。
少し変な話ですが、
「よく世話をしている牧場ほど、人間が忙しく動き回っている」
とは限らないと思っています。
最高の管理とは、
問題が起きてから一生懸命対応することではなく、
そもそも問題が起きにくい環境を作っておくこと
なのかもしれません。
「牛が自分で選べる」という考え方
そして最近の酪農研究を見ていて、僕が面白いと思う言葉があります。
agency(エージェンシー)
日本語にすると、「主体性」や「自分で選べること」に近い概念です。
2026年に発表された自動搾乳システムに関するレビューでも、牛が「いつ搾乳に行くか」をある程度自分で選択できることが、牛の主体性を考えるうえで重要な論点として扱われています。
僕は、この考え方がこれからの酪農ではかなり重要になると思っています。
人間が全部決めてあげる。
人間が全部やってあげる。
ではなく、
牛が選べる環境を人間が作る。
撫でてほしい牛なら近づいてくればいい。
距離を取りたい牛なら離れていていい。
寝たい牛は寝ればいい。
搾乳ロボットなら、ある程度自分のタイミングで搾乳へ向かえる。
人間が愛情を「与える」のではなく、
牛がどう過ごすかを「選べる」。
僕はこちらの方が、これからの動物との付き合い方として面白いと思っています。
それでも「人が手をかけた牛乳」を飲みたい人はいる
もちろん、これは僕の考え方です。
「毎日名前を呼びながら牛を撫でて育てています」
そんな牧場の牛乳を飲みたい人もいるでしょう。
それも素晴らしいと思います。
これから牛乳の消費が減っていく中では、
「どんな牧場で作られた牛乳なのか」
まで選ばれる時代になっていくかもしれません。
人と牛との濃い関係を大切にする牧場。
放牧を大切にする牧場。
地域の飼料を使う牧場。
最先端技術を使って牛の自由を増やそうとする牧場。
いろいろあっていい。
僕はその中で、
「なるべく人間が介入しなくても、牛が自分のペースで快適に暮らせる牧場」
を作ってみたい。
そういう酪農家です。
もしかすると、
「そんな牧場は応援したくない」
と思う人もいるかもしれません。
それでも構いません。
ただ、僕はちゃんと美味しい牛乳を搾りますので、そこはなんとか応援してもらえると嬉しいです(笑)。
コメント返しを続ける理由
今週いただいたコメントは、
「牛乳に旬があるなんて知らなかった」
「北海道に何かあったら牛乳はどうなる?」
「牛乳を飲めば身長は伸びる?」
「牛は撫でられたいんじゃないか?」
一見すると全部違う話です。
でも共通しているものがあります。
それは、
僕たちが当たり前だと思っていることを、一度疑ってみること。
牛乳は一年中スーパーに並んでいる。
だから工業製品のように一年中同じだと思ってしまう。
牛は人間が飼っている。
だから人間に触ってもらうことが幸せだと思ってしまう。
でも、少し違う方向から見てみると景色が変わります。
僕がこの配信やnoteを続けている理由は、答えを押しつけたいからではありません。
牛や牛乳や酪農について、
「そういう見方もあるのか」
と思ってもらえる入口を作りたいからです。
今回のコメントも、僕一人では考えなかった問いでした。
コメントをくださった「はちさん」、ありがとうございました。
最後に、ひとつだけ皆さんにも聞いてみたいです。
もし牧場を見学するとしたら、
「人が一頭一頭にたくさん触れる牧場」と、「人がほとんど介入せず牛自身が行動を選べる牧場」――あなたはどちらを見てみたいですか?
正解を決めたいわけではありません。
その理由の方を、ぜひ聞いてみたいです。
こういうコメントから、また次の日曜日の配信を作っていきます。
それでは今日も、美味しく楽しく牛乳を。
みんな牛乳飲んでね。
また来週。
情報|川上牧場🐮メンバーシップ|川上哲也
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