ホイップクリームだけのケーキは、なぜ美味しくないのか?酪農家が「乳脂肪と植物油脂の違い」を解説します
2026-09-10 配信|川上牧場 酪農データバンク
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「川上さんは、ケーキを作ったことはありますか?」
YouTubeのコミュニティに、こんな質問が届きました。いつもコメントをくださる方からです。
質問の内容はこうでした。どこのご家庭でも、スポンジとクリームを買ってきてデコレーションくらいはしたことがあると思う。先日、友達が「ホイップクリームだけを使ってケーキを作った」という話を聞いた。でも、なんだか美味しくなかったらしい。植物性のマーガリンが動物性のバターと同じだと思って使うと「あれ、美味しくない」となるのと似ている気がする。そういえば、好きだったバタークリームのケーキも最近見かけなくなった。川上さんは何クリーム派ですか?
ケーキの話なので、今日は軽い気持ちで読んでもらえたらと思います。ただ、この質問、実は「ケーキはなぜ美味しいのか」という食品科学の話につながっていて、酪農家としても話したいことがたくさんあります。
僕は島根県出雲市で酪農をしています。牛乳には乳飲料、加工乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳といろいろ種類があって紛らわしいですが、生クリームも同じで、いろいろな種類があります。せっかく家族の誕生日や記念日にケーキを作るなら、美味しく食べたいじゃないですか。なので今回は、牛乳とクリームの種類の話を、まとめてお話しします。
結論:ホイップクリームだけで美味しいケーキを作るのは、難しい
まず結論から言うと、ホイップクリームだけで美味しいケーキを作るのは難しいです。
なぜかというと、ケーキの美味しさは、スポンジ、クリーム、バター、卵、砂糖、果物。これら全部のバランスで決まるからです。
スポンジだけ食べても、少し物足りないですよね。それは「ケーキ」というより「スポンジ」です。逆に、ホイップクリームだけ食べても、途中で飽きます。でも、この両方を合わせると、驚くほど美味しくなる。これは料理全般に言えることだと思います。
なので、「ホイップクリームだけのケーキが美味しくなかった」のは、まずバランスの問題がひとつ。そしてもうひとつ、多くの方が勘違いしやすいポイントがあります。
スーパーの「クリーム」は3種類ある
スーパーの売り場には、実は3種類のクリームが並んでいます。
ひとつは、純生クリーム。牛乳から作られる、乳脂肪のクリームです。
ふたつめは、植物性ホイップ。ヤシ油やパーム油などの植物性油脂が主原料です。
みっつめは、その両方を混ぜたコンパウンドクリーム。
植物性のものは、軽くて扱いやすく、価格も安い。だから業務用ではよく使われています。ただ、香りやコクは、やはり純生クリームのほうが強いと言われています。
質問の中に「マーガリンはバターの代わりにならない」という話がありましたが、これもまったく同じ構造です。バターは牛乳から作られる乳脂肪で、マーガリンは植物油を加工して作った食品です。どちらが良い・悪いではなく、味や香りが違う、ということです。
クロワッサンを思い浮かべると分かりやすいと思います。バターのクロワッサンは、焼き上がった瞬間から香りが違います。あれは、乳脂肪ならではの香気成分、つまり香りの成分があるからです。
紛らわしいのは、牛乳も同じです
この「名前が似ているのに中身が違う」問題は、実は牛乳売り場でも毎日起きています。
牛乳のパックには、「牛乳」のほかに、乳飲料、加工乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳といった種類があります。どれも白くて、同じような形のパックに入っていて、同じ棚に並んでいる。でも、原料や作り方が違います。
クリームも同じです。「生クリーム」「ホイップ」「クリーム」と、パッケージの表の言葉だけを見ていると、どれも同じものに見えます。でも、牛乳から作られた乳脂肪なのか、植物油脂なのか、その両方なのかで、味も香りも仕上がりも変わります。
質問をくださった方のお友達は、たぶん「クリームはクリーム」だと思って、手に取ったものをそのまま使ったのだと思います。それは全然悪いことではなくて、売り場の並び方を見れば、誰でもそうなると思います。だからこそ、「3種類ある」と知っているだけで、次に選ぶときの見え方が変わるはずです。
僕が普段お話ししている「裏の表示を見てください」というのは、こういうことです。表の名前ではなく、裏の原材料を見る。それだけで、牛乳もクリームも、何を買っているのかが分かります。
なぜ乳脂肪は美味しいのか
では、なぜ乳脂肪は美味しいのでしょうか。
牛乳の乳脂肪には、400種類以上の脂肪酸が含まれていると言われています。400種類です。さらに加熱すると、甘い香りやコクを生み出す香気成分がたくさんできます。
だから、バターも、生クリームも、チーズも、それぞれ独特の風味を持っています。植物油には植物油の良さがありますが、乳脂肪とは香りの作られ方そのものが違う。ここが、今回の質問の答えの核心だと思います。
「ホイップクリームだけで作ったケーキが美味しくなかった」のは、腕の問題でも、気のせいでもなく、おそらく使ったのが植物性ホイップで、バランスも乳脂肪の香りも足りなかったから。そう考えると、すっきりするのではないでしょうか。
川上さんは何クリーム派ですか?
最後に、質問への直接の答えです。
やっぱり生クリーム、純生クリームは美味しいです。飲めますから。純生クリームを飲む。さすがに今は歳のせいでそこまでではないですが、昔はホールケーキを2個食べていたくらいです。
もちろん、植物性クリームにも軽くて食べやすいという魅力があります。酪農家だから言うわけではなく、牛乳から作られる乳脂肪の香りやコクは、やっぱり特別だと思っています。
質問の中に、「好きだったバタークリームのケーキを最近見かけなくなった」というお話もありました。なぜ減ったのか、その理由まで僕は詳しく分かりません。ただ、バタークリームというのは、まさに乳脂肪の香りとコクをそのまま味わうクリームです。あれが好きだったという方は、たぶん乳脂肪の香りが好きな方だと思います。だとすれば、純生クリームのケーキも、バターをしっかり使った焼き菓子も、きっと同じように楽しめるはずです。「バタークリームがないから」と諦めずに、裏の表示で乳脂肪のものを探してみてください。
最近はケーキ屋さんでも、純生クリーム、植物性、コンパウンドを、それぞれの特徴を生かして使い分けています。食べ比べてみると意外と違いが分かるので、面白いですよ。
食品に「正しい」はない。「得意な役割」がある
ここまで読むと、「じゃあ植物性ホイップはダメなんだ」と受け取られるかもしれません。でも、そうではありません。
食品には、どちらが正しいというより、それぞれ得意な役割があります。
植物性ホイップは、軽くて、扱いやすくて、安い。だから業務用で選ばれる。たくさんの人に、手の届く値段で、安定してスイーツを届けるには、この性質がとても大事です。純生クリームは、香りとコクが強い。だから記念日のケーキや、香りを楽しむお菓子で力を発揮する。コンパウンドは、その中間で、両方の良さを取ろうとしたもの。
バターとマーガリンも同じです。マーガリンがバターの代わりにならないのは事実ですが、それは「マーガリンが劣っている」という意味ではなく、「役割が違う」という意味です。
なので、今回の質問への答えを一言でまとめると、「ホイップクリームだけで作ったケーキが美味しくなかったのは、クリームが悪かったのではなく、そのクリームの得意な役割と、作りたかったケーキが合っていなかったから」ということになります。
この違いを知ると、ケーキやパン、お菓子を食べる楽しみが少し増えると思います。ケーキ屋さんで「このクリームは何だろう」と考えてみたり、コンビニスイーツの裏の表示を見てみたり。そういう小さな発見が、食べることをもっと面白くしてくれます。
コンビニスイーツと、国産乳製品の話
ケーキといえば、ホールケーキも一つ5,000円を超えるようになってきましたよね。今までのサイズを買おうと思うと、家族で食べられないような小さいものになってしまう。めちゃくちゃ高くなりました。
うちでは子どもの誕生日は、決まったケーキ屋さんで買います。大山乳業の乳製品を使ってくださっているお店で、これが本当に美味しい。大山乳業のロールケーキはインターネットでも注文できるので、一度食べてみてほしいです。
そして、ローソンの生クリームのロールケーキ。スプーンで食べるあれ、美味しいですよね。実はあれも生クリームだけではなく、コンパウンドや植物性のものも入っているんです。でも美味しい。コンビニスイーツは、本当にすごいなと思います。
ここで、酪農家としてひとつだけお願いがあります。
牛乳の消費が伸びないと、生乳は加工に回って、国産のバターや生クリームが増えます。それ自体は悪いことではないのですが、乳製品の需要は12月に一気に伸びる一方で、その12月に間に合わせようとすると、この夏の時期に作っておかないといけない。ところが夏は牛乳の需要と供給のバランスが崩れやすい。安定して食べてもらえる状態を作るのが、本当に難しいんです。
だから、クリームやバターを買うときは、ぜひ裏の表示を見て、国産のものを選んでいただけたら嬉しいです。
少しだけ補足すると、牛乳というのは「今日たくさん売れたから、今日たくさん搾る」ということができません。牛は毎日同じように乳を出しますし、乾乳や分娩のサイクルも決まっています。12月にケーキ用の生クリームがたくさん必要だからといって、12月だけ牛乳を増やすことはできない。だから夏のうちに搾った牛乳を、バターや生クリームに加工して、冬に備えるわけです。
ところが、その夏は、暑さで牛の乳量が落ちやすく、一方で学校給食が止まって飲用の需要も落ちる時期です。搾る側も飲む側も、夏はバランスが崩れやすい。この「作る時期」と「食べる時期」のズレを埋めるのが、乳製品への加工であり、それを安定させるのが、皆さんが日常的に国産の乳製品を選んでくれることなんです。
ケーキの話から、少し牧場の事情まで広がってしまいましたが、ホイップクリーム一つの裏側にも、こういう一年のサイクルがあることを知ってもらえたら嬉しいです。
三連休の牧場から
今日は海の日で三連休の最終日ですが、牛乳は毎日搾っています。酪農家も牛も、休まず働いています。学校給食が止まっているこの時期は、土曜日も日曜日も月曜日も、皆さんに牛乳をしっかり飲んでもらいたい時期です。
そして、自動給餌機が壊れたまま、三連休に突入しています。世の中は連休ですが、うちは手で配合飼料をやりながら、本当に一生懸命やっています。マジでやばいです。
出雲市は昨日36度、今日も34度。海に行く方も、出かける前にコップ一杯の牛乳を飲んでいってください。熱中症対策になります。そして出先では、国産牛乳を使ったアイスクリームを、しっかり食べていただけたらと思います。
こういう素朴な、日常に関わる質問、大歓迎です。スーパーやコンビニで「あれ?」と思ったことがあれば、どしどし送ってください。できる限り調べて、お答えしていきます。
【YouTubeで同じ配信を聞く】 ホイップクリームだけでは美味しくない?ケーキと乳製品の意外な関係
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毎日飲んでいる牛乳。
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