【実録】歩数9万歩・アクティブ650分超え!酪農家の過酷なリアルをFitbitとGoogle Healthで可視化し、一人作業の熱中症を防ぐ

2026-09-23 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

島根県出雲市で川上牧場を営んでいる、酪農家の川上です。

皆さんは、「夏の牛舎」で働いたことがありますか?

屋根には容赦なく日差しが当たり、大型送風機が何台も回っている。

牛舎の中には何十頭もの牛がいて、牛自身も大量の熱を出しています。

そこに高い湿度が重なると、ただ立っているだけでも汗が止まらない。

そんな中で、

朝夕の搾乳。

餌やり。

餌寄せ。

除糞。

敷料の交換。

牛の治療。

機械の修理。

堆肥の運搬。

これを毎日やります。

生き物が相手なので、

「今日は暑すぎるから休みます」

とは、なかなかいきません。

そして川上牧場の場合、かなりの作業を一人で行っています。

これが夏になると、本当に怖い。

暑いことそのものより、

「もし一人で作業中に倒れたら、誰が気づくのか」

という問題があります。

牛の体調は見るのに、自分の体調は「感覚」だけだった

最近の酪農では、牛のデータをものすごく細かく取るようになりました。

発情していないか。

反すうが減っていないか。

乳量が落ちていないか。

寝ている時間はどうか。

分娩の兆候はないか。

川上牧場でも、AIやカメラなどを使いながら、できるだけ牛の異常を早く見つけられる仕組みを作っています。

牛については、

「昨日より動きが少ない」

「いつもと違う」

「この時間なのに立っていない」

という変化をデータで見ようとしている。

ところが、あるときふと思いました。

牛の健康状態は一生懸命データ化しているのに、牛を世話している自分自身については、ほぼ何も測っていない。

「今日は疲れたな」

「ちょっと暑いな」

「昨日あまり寝てないな」

全部、感覚です。

これ、よく考えるとおかしいんですよね。

牛に対しては、

「感覚だけで判断したらダメ。記録を見よう」

と言っているのに、自分自身には、

「まだいける」

「あと少しだから」

「昔からやってるから大丈夫」

で済ませてしまう。

そこで使い始めたのが、Google Fitbit AirとGoogle Healthです。

2026年5月からFitbitアプリはGoogle Healthへ移行し、Fitbit Airでは歩数、心拍数、睡眠、アクティビティ、心拍変動、呼吸数、血中酸素ウェルネスなどを確認できるようになっています。

画面を見て驚いた。「9万歩」と「650分超え」

実際に記録を取ってみると、自分でも驚きました。

Google Healthに並んでいた数字の一つが、

歩数9万歩超。

さらに、

アクティブゾーン時間650分超。

普段は、

「今日はよく歩いたな」

くらいしか考えていません。

でも、数字になると見え方が全然違います。

搾乳室と牛舎を往復して、

餌を運んで、

牛を追って、

堆肥を運んで、

工具を取りに戻って、

また牛舎へ行く。

一つ一つは「運動をしている」という感覚ではありません。

仕事をしているだけです。

でも、それが一日、そして一週間積み重なると、とんでもない活動量になる。

酪農家はジムに行かなくても、朝からずっと動いていることがあります。

しかも夏は、それを暑い環境でやっています。

ここが重要です。

「650分動いた」という意味ではない

ただ、この650分という数字には注意が必要です。

Fitbitの「アクティブゾーン時間」は、単純なストップウォッチではありません。

心拍数が中強度のゾーンに入っている1分は1分として、高強度やピークの心拍ゾーンに入ると、実際の1分に対して「2分」として加算されます。

つまり、

アクティブゾーン時間650分=650分間ずっと激しく運動していた

という意味ではありません。

ここはかなり大事です。

でも逆に言えば、

「仕事をしていただけなのに、心拍数が高い状態として判定される時間がこれだけ積み重なっている」

とも考えられます。

僕にとって重要なのは、他人と数字を競うことではありません。

「9万歩だからすごい」

「650分だから健康だ」

という話でもありません。

見るべきなのは、

自分自身の普段の数字と比べて、今日は負荷が高すぎないか。

ここです。

夏の一人作業で一番怖いのは「まだいける」

農作業の熱中症は、決して珍しい事故ではありません。

農林水産省によると、令和6年の農作業死亡事故は287人。そのうち熱中症による死亡は59人でした。

59人。

これは、数字だけで流していい話ではありません。

農業には、

「あとこの畝だけ」

「あとこの牛だけ」

「この作業が終わってから水を飲もう」

がたくさんあります。

酪農も同じです。

搾乳途中で、

「暑いので帰ります」

とはできません。

治療している牛がいれば最後までやります。

餌が足りなければ持っていきます。

機械が止まれば直します。

だからこそ怖いのが、

「あと少しなら大丈夫」という自分の感覚です。

熱中症になると、判断力そのものが低下していくことがあります。

つまり、

「自分は大丈夫」

と思っている本人の判断が、すでに正しくない可能性がある。

一人作業では、それを横から

「ちょっと顔色悪いぞ」

と言ってくれる人がいません。

だから、自分以外の何かに「見てもらう」という発想が必要だと思っています。

Fitbitは「熱中症を診断する機械」ではない

ここは誤解がないように強調しておきます。

Fitbit Airを着ければ熱中症にならない、という話ではありません。

Fitbit Airが

「あなたは今、熱中症です」

と診断してくれるわけでもありません。

Google自身も、心拍数や皮膚温などのウェルネス情報は医療目的の診断・治療をするものではないとしています。

また、Fitbit Airで確認できる「皮膚温」は深部体温そのものではありません。

睡眠時の手首の皮膚温が、自分自身の基準値からどう変化したかを見る指標です。

だから僕は、Fitbitを

「熱中症を見つける装置」ではなく、「自分の変化に気づくための補助線」

として使っています。

ここはものすごく重要だと思っています。

僕が見たい数字は「今日の心拍数」だけではない

では、何を見るのか。

僕が面白いと思っているのは、一つの数字ではなく、いつもの自分との差です。

例えば、

・昨日の活動量はいつもより多くなかったか

・安静時の心拍数は普段と違わないか

・睡眠時間は足りているか

・心拍変動に大きな変化がないか

・暑い日の作業で心拍数が上がり続けていないか

・何日も負荷の高い日が続いていないか

こういうものをまとめて見る。

一日だけなら頑張れてしまいます。

でも、

「暑い日が3日続いた」

「睡眠不足が続いている」

「毎日活動量が高い」

となると、疲労は積み上がっていきます。

僕が一番怖いのは、疲れている状態そのものではなく、

疲れていることに慣れてしまうこと。

農家はこれ、本当にあると思います。

毎日忙しいと、それが普通になってしまう。

「体が重いのも普通」

「寝不足も普通」

「夏にフラフラするのも普通」

となってしまう。

でも、数字は

「いつもと違うですよ」

と教えてくれることがあります。

熱中症対策は「水を飲む」だけでは足りない

もちろん、ウェアラブル端末を着けるだけでは意味がありません。

基本はやっぱり基本です。

暑さ指数を確認する。

水分・塩分を補給する。

日陰や冷房のある場所で休む。

ファン付きウェアや冷却用品を使う。

睡眠をしっかり取る。

そして、一人作業をできるだけ避ける。

農林水産省も、単独作業を避けることを推奨しており、一人で作業せざるを得ない場合には、家族などと30分ごとに連絡を取ることを対策例として挙げています。

これは酪農でもかなり重要だと思います。

僕なら今後、

「今日は暑いから連絡頻度を増やそう」

「昨日の疲労が大きいから、昼の作業を減らそう」

「心拍数が高い状態が続いたから、一度牛舎から出よう」

という判断に、ウェアラブルのデータを使っていきたい。

つまり、

データで熱中症を診断するのではなく、データを“休む判断”に使う。

これです。

酪農DXは「牛だけ」を便利にするものではない

これまで「酪農DX」というと、

自動搾乳。

発情発見。

分娩監視。

餌やりの自動化。

牛群管理ソフト。

そういう「牛側」の技術が中心でした。

もちろん、それも重要です。

でも僕はこれから、

「農家自身の安全を守るDX」

も大きなテーマになると思っています。

例えば、

牛舎内の温湿度。

WBGT。

作業者の心拍数。

歩数。

睡眠。

活動量。

こういった情報がつながれば、

「今日の午後は作業負荷を落とした方がいい」

「この時間帯は危険だから一人作業を避けよう」

「昨夜の回復状態が悪いので、予定を組み替えよう」

という判断ができるようになるかもしれません。

さらに、AIカメラやスマートフォン、連絡ツールとつなげていけば、

牛だけではなく、

「牛を世話している人間が無事かどうか」

まで見守る農場ができる。

僕は、こっちのDXもかなり大事だと思っています。

「頑張れる人」ほど、数字に止めてもらう

農業の世界には、ものすごく頑張る人がたくさんいます。

雨でも働く。

暑くても働く。

朝早くても働く。

牛が具合悪ければ夜中でも牛舎へ行く。

それは農家の強さです。

でも同時に、危うさでもあります。

特に一人で経営していると、

自分が倒れた瞬間、

搾乳する人がいなくなる。

餌をやる人がいなくなる。

牛を見る人がいなくなる。

つまり、農場にとって一番重要な設備は、最新のトラクターでもAIカメラでもなく、

自分自身かもしれない。

だから、自分のメンテナンスも仕事の一つです。

牛には、

「今日は調子悪そうだから治療しよう」

と言える。

なら自分にも、

「今日は数字が悪いから少し休もう」

と言える農家にならないといけない。

僕自身、まだまだできていません。

9万歩を見ても、

「おお、歩いたな」

とちょっと嬉しくなってしまいます。

650分を見ても、

「めちゃくちゃ働いたな」

と思ってしまう。

でも、本当に見るべきなのはそこではない。

「これだけ動いた翌日に、ちゃんと回復しているか」

こっちです。

牛を守るために、まず自分が倒れない

酪農家は、牛の健康にはものすごく敏感です。

餌を食べているか。

反すうしているか。

乳量が落ちていないか。

呼吸が速くなっていないか。

いつもと違う牛がいないか。

毎日見ています。

だったら、自分自身にも同じことをしていい。

昨日ちゃんと寝たか。

今日の心拍数はどうか。

活動量が高すぎないか。

暑い中、無理をしていないか。

いつもの自分と何か違わないか。

牛を大切にすることと、自分を大切にすることは、別の話ではありません。

自分が倒れないことも、牛を守る仕事の一部です。

Google Fitbit Airを着けて一番変わったのは、健康になったことではありません。

「自分の体も、牛と同じように観察していいんだ」

と思えるようになったことです。

気合いと根性だけでは、夏は乗り切れません。

データを使う。

休む。

人とつながる。

危ないと思ったら作業を止める。

これから暑い時期の農業を続けていくうえで、こういう判断も立派な農業技術だと思っています。

牛の命を守りながら、自分の命も守る。

その両方があって初めて、酪農を続けていけます。

これからも川上牧場では、牛のデータだけではなく、「働く人のデータ」も酪農DXの一部として考えていきたいと思います。

皆さんの仕事では、

「頑張りすぎていることを、自分より先に教えてくれる仕組み」

何かありますか?

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