海外にはない日本独自の畜産はある?世界の「風土が育てた飼い方」を比較する

2026-09-23 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

TikTokの リスナーさんから、

こんな質問をいただきました。

「海外にはない、日本で独自に進化したような 飼育方法などはありますか?」

「その逆もあれば知りたいです」

面白い質問だと思ったので、 しっかり調べました。

8月最初の日の牧場から

今日は8月1日、土曜日。

最高気温34度、一日晴れの予報です。

8月に入りました。

昼間に外に出るのは、 正直、命の危険があるくらいの暑さです。

今日は酪農ヘルパーさんが来てくれる日です。

8月はイレギュラーで、 2週間ずつの勤務になるので、

今回は来ていただけることになりました。

なので、朝の仕事をパパッと終わらせて、 子どもと出かけてこようと思っています。

夏休みの休日を、 少し満喫してきます。

その前に、ひとつだけ。

熊本の地震のあと、 九州の酪農家さんが軽油不足に直面しているそうです。

発電機を動かすだけでも、 一日にすごい量の軽油を使います。

換気扇が半分しか回っていない牧場もある、 というニュースを見ました。

この暑さで、換気が半分。

想像すると、きついです。

先に結論を言います

調べた結論から書きます。

完全に日本にしかない飼育方法、 完全に海外にしかない飼育方法は、

実は、ほとんどありません。

技術そのものは、 かなりの部分が共有されています。

では、何が「その国らしさ」を作るのか。

僕の考えはこうです。

品種。 餌。 肥育期間。 格付け。 料理。 地域文化。

これらがひとつのシステムとして 組み合わさったとき、

はじめて、非常に日本的になったり、 非常にフランス的になったりする。

技術単体ではなく、 組み合わせなんです。

黒毛和牛の霜降りは、餌だけでは決まりません

いちばん分かりやすいのが、黒毛和牛です。

「霜降りは、いい餌をやるからできる」

そう思われがちですが、 そんなに単純ではありません。

霜降りには、 複数の要因が重なります。

遺伝的な能力。 性別。 月齢。 エネルギーの摂取量。 健康状態。 肥育期間。

この全部です。

どれかひとつが欠けても、 狙ったところには行きません。

稲作との循環が、日本らしさの核心です

そして、僕が日本らしさの核心だと思っているのが、 稲作との循環です。

お米を作ります。

すると、稲藁が出ます。

その稲藁を、牛が食べます。

牛から出た糞尿を堆肥にして、 田んぼに戻します。

この循環が、 日本では長いあいだ行われてきました。

畜産だけで完結していないんです。

田んぼがあるから、 牛の餌がある。

牛がいるから、 田んぼに肥料が戻る。

この形は、 日本の風土から生まれたものです。

日本は「結果」を細かく見る国です

もうひとつ、日本らしい部分があります。

枝肉の評価システムです。

歩留まり。 肉質。 脂肪交雑。 肉の色。 シマリとキメ。

最終的な肉の質を、 これだけ細かく評価する仕組みは、

かなり日本的だと思います。

それと、個体識別番号。

一頭ずつ番号がついていて、 生産履歴が追えるようになっています。

ここまで管理している国は、 そう多くありません。

まとめると、こうなります。

日本は、結果の品質を細かく見る。

ヨーロッパは、 土地と工程の再現性を強く守る。

同じ「良いものを作る」でも、 守っている場所が違うんです。

格付けが、日本の牛を作ってきました

もう少しだけ、 枝肉の評価の話を続けさせてください。

結果を細かく評価するということは、

何を目指して牛を作るかが、 はっきりするということでもあります。

脂肪交雑を細かく見る仕組みがあるから、

その方向に向けて 遺伝改良が進んできました。

餌も、肥育の期間も、 そこに合わせて組み立てられてきた。

評価の仕組みが、 牛の作り方そのものを決めてきたんです。

だから、 黒毛和牛はああいう牛になった。

これは、良い悪いの話ではありません。

ただ、 「何を測るかが、何を作るかを決める」

という構造は、 知っておいて損はないと思います。

もし評価の軸が変わったら、 作られる牛も変わっていきます。

イベリコ豚は、どんぐりだけの話ではありません

では、海外の例を見ていきます。

まずスペインの、イベリコ豚です。

最高級のベジョータは、 デエサと呼ばれる放牧地で育てられます。

コルク樫や樫の木が点在する、 広大な土地です。

そして、 モンタネーラという時期があります。

秋から冬にかけて、 豚が森の中を歩きながら、

どんぐりや草を食べる時期です。

季節に合わせた放牧ですね。

さらに、 品質を黒、赤、緑、白のラベルに分ける制度があります。

イベリコと一言で言っても、 飼い方も品質も違うんです。

ここで、大事な話をします。

普通の豚にどんぐりを食べさせたら、 同じハモンイベリコになるのか。

なりません。

必要なのは、

品種の遺伝的な特性。 成長期間。 運動量。 脂肪を蓄える能力。 そして、塩漬けと熟成。

これが全部そろって、 はじめてあの味になります。

餌は重要です。

でも、餌だけで品質が決まるわけではない。

黒毛和牛とまったく同じ構造です。

フランスのブレス鶏は、期間を分けています

次に、フランスのブレス鶏です。

フランス東部の限られた地域でしか 生産できません。

原産地呼称によって、 厳しく保護されています。

公式の基準を見ると、

指定された品種を使い、 一定期間の放牧と、その土地の穀物を組み合わせて飼育し、

出荷前には エピネットという区画で仕上げをします。

日本の養鶏と比べて、 いちばん違うと感じたのはここです。

放牧の期間と、 仕上げの期間を、明確に分けている。

前半は、運動を引き出す。 後半は、肉質を調整する。

そして面白いのが、 ブレス地方の乳製品文化と結びついていることです。

クリーム煮。 バターを使った調理。

鶏の育て方と、 その土地の料理がつながっています。

塩の湿地で育つ、プレサレのヒツジ

モンサンミッシェル周辺の、 プレサレというヒツジもあります。

塩分を含む湿原で放牧されます。

プッチネリア、トロスカール、オビオン。

こうした塩性湿地の植物が、 ヒツジの主な餌になります。

ここで、ひとつ注意が要ります。

「海の塩分が直接、肉に蓄積している」

という説明は、 慎重に扱ったほうがいいと思います。

味の違いは、 もっと複数の要因が重なった結果です。

植物の種類。 運動量。 成長の速度。 脂肪の組成。

ただ、 海水が入る湿地そのものを使う畜産は、

日本ではほとんど見ません。

イタリアのキアニーナ牛は、真逆に進化しました

イタリアのキアニーナ牛も、面白いです。

もともとは、 農耕や運搬に使われていた牛です。

だから、筋肉質で、体が大きい。

ここで、黒毛和牛と比べてみてください。

黒毛和牛は、 筋肉の中に脂肪を入れて、

柔らかさと香りを作る方向に進化しました。

キアニーナは、 大きな骨格と、赤身の力強さを生かす方向に進化した。

真逆なんです。

そして、料理も対照的です。

厚いティーボーンステーキを、 高温で表面を焼きます。

内部は加熱しすぎない。

仕上げにオリーブオイル。

牛の特性に合わせて、 料理のほうが発達していった結果だと思います。

正直に言うと、酪農の技術に日本独自のものは少ないです

さて、ここからが本題かもしれません。

「日本にしかない乳牛の飼い方はあるのか」

正直に答えると、 断言できるものは、多くありません。

つなぎ飼い。 フリーストール。 TMR。 自動搾乳。 性判別精液。 受精卵移植。

これらは全部、 海外で生まれた技術です。

僕らは、それを使わせてもらっています。

では、日本の独自性はどこにあるのか

では、日本に独自性はないのか。

あります。

組み合わせ方です。

日本の酪農は、 こういう条件の中で動いています。

狭い土地。 高い湿度。 酷暑。 輸入飼料への依存。 水田の副産物。 家族経営。

この条件下で、 複数の技術を組み合わせている。

そこが独自なんです。

特に、地域資源の使い方です。

稲WCS。 飼料用米。 稲藁。 豆腐粕。 醤油粕。 酒粕。 食品工場の副産物。

これを、 栄養設計に合わせて組み込んでいく。

この技術は、 かなり日本的だと思います。

田んぼがあって、 豆腐屋があって、醤油蔵があって、酒蔵がある。

その副産物が牛の餌になる。

こういう国は、 そんなに多くありません。

うちの餌にも、地域のものが入っています

地域資源の話は、 うちにとっても他人事ではありません。

コロナのあと、 ひとつの餌に頼るのはリスクだと感じました。

それで、 組み合わせる形に変えました。

輸入の飼料と、国産の飼料。

そこに、 酒粕やもやし粕といった地域の資源を混ぜていきます。

中途半端に見えるかもしれません。

でも、その中途半端さが 強みになることがあるんです。

どれかひとつが止まっても、 全部が止まらない。

さっき「日本の独自性は組み合わせ方だ」と 書きましたが、

それは国の話だけではなくて、 一つの牧場の中でも同じだと思っています。

副産物を使うのは、安いからではありません

ひとつ、誤解されやすいところがあります。

豆腐粕や醤油粕を使うのは、 安いからでしょう、と思われがちです。

たしかに価格の面もあります。

でも、それだけではありません。

副産物には、難しさもあるんです。

出る量が、季節で変わる。 水分が多くて、傷みやすい。 成分が、ロットごとに揺れる。

つまり、 使いこなすのに技術が要るんです。

栄養設計に合わせて、 どれをどれだけ入れるか。

牛の反応を見ながら、調整していく。

ここができる牧場と、 できない牧場があります。

だから僕は、 これを日本の技術だと思っています。

安く済ませる工夫ではなく、 その土地にあるものを使い切る技術です。

海外から学びたいのは、ここです

最後に、 海外を調べていていちばん感じたことを書きます。

イベリコ豚は、 森を守ることが商品の価値になっています。

プレサレのヒツジは、 湿地を守ることが商品の価値になっています。

ブレス鶏は、 地域の品種、放牧地、餌、仕上げ方法を守ることが価値になっています。

つまり、

肉やチーズだけを売っているのではなく、

その土地を維持する仕組みまで含めて 売っているんです。

日本にも、素材はあります。

棚田。 里山。 水田。 地域の食品副産物。 農業文化。

全部あります。

でも、 最終的な牛乳やお肉の価値と、

地域の環境の物語を、

まだ十分につなげられていない地域が 多いと感じます。

ここは、僕自身の課題でもあります。

「その土地でしか作れない」は、守るのが大変です

最後にもうひとつだけ。

海外の例を見ていると、 うらやましく見えます。

森を守ることが価値になる。 湿地を守ることが価値になる。

でも、あれは 簡単に真似できるものではありません。

品種を決めて、 土地を決めて、 餌を決めて、 仕上げの方法まで決める。

そして、それを守り続ける。

守り続けるということは、

「効率のいいやり方があっても、やらない」

と決めることでもあります。

これは、相当にしんどいはずです。

日本でそれをやろうとしたら、

地域の農家がまとまって、 長い時間をかけて合意を作る必要があります。

だから僕は、 「日本もやればいいのに」とは簡単に言えません。

ただ、 方向としては学べると思っています。

自分の牧場の牛乳が、

この地域の何を守っていることになるのか。

そこを言葉にできるかどうか。

そこからだと思います。

今回のポイント

・完全に日本にしかない、海外にしかない飼育方法は、実はほとんどない

・その国らしさは技術単体ではなく、品種・餌・肥育期間・格付け・料理・地域文化が一つのシステムになったときに生まれる

・黒毛和牛の霜降りは餌だけでは決まらない。遺伝、性別、月齢、エネルギー摂取量、健康状態、肥育期間が重なる

・日本らしさの核心は稲作との循環。米→稲藁→牛→堆肥→田んぼ ・枝肉評価(歩留まり・肉質・脂肪交雑・肉の色・シマリ・キメ)と個体識別番号による履歴管理は日本的

・日本は「結果の品質」を細かく見る。ヨーロッパは「土地と工程の再現性」を守る

・イベリコ豚は、普通の豚にどんぐりを与えても同じにはならない。品種・成長期間・運動量・脂肪蓄積能力・塩漬けと熟成が必要

・ブレス鶏は放牧期間と仕上げ期間を明確に分ける。プレサレは塩性湿地そのものを使う。キアニーナは赤身の方向に進化した

・酪農の技術(つなぎ・フリーストール・TMR・自動搾乳・性判別精液・ET)はすべて海外発祥

・日本の独自性は組み合わせ方。狭い土地・高湿度・酷暑・輸入飼料依存・水田副産物・家族経営という条件の中で、稲WCS、飼料用米、稲藁、豆腐粕、醤油粕、酒粕などの地域資源を栄養設計に組み込んでいる

・海外は「土地を守ることが商品価値になる」構造を作っている。日本は素材はあるが、まだ物語につなげられていない

最後に、あなたに質問です。

あなたの住んでいる地域に、 その土地でしか作れない食べものはありますか。

それは、 なぜその土地でしか作れないのでしょうか。

コメントで教えてください。

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