世界で牛乳が増え、日本で減る理由|最新酪農ニュース深掘り
2026-09-26 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
今回は、質問が尽きたことから生まれたニュース特集でした。日本の減産とアメリカ・中国・ニュージーランドの増産を並べると、牛乳は世界からなくならなくても、作られる場所と価値の作り方が変わっていくかもしれない、という大きな問いが見えてきます。
この回の要点
- 日本の生乳生産は9か月連続の前年割れで、減少が何年続くかが重要だと指摘されています
- アメリカはビーフオンデイリーで乳牛を残す経営判断が進み、乳牛が33年ぶりの水準に増えています
- 中国は国内生産を伸ばし、脱脂粉乳の輸入を減らす一方でチーズやバターの輸入を増やしています
- ニュージーランドは乳価が数か月で大きく動くなか、乳タンパクなど高付加価値分野へ投資しています
- 日本の課題は牛乳を作り続ける仕組みの弱さで、日本で牛乳を作る意味を考える必要があると語られています
配信の全文(podyの記事より)
質問が尽きた土曜日、何を話す?
配信日は9月26日の土曜日で、シルバーウィークの週末です。島根県出雲市は朝から雨で、最高気温は24度。川上さんは2週間に1回のお休みの日で、子どもと出かける予定を雨でどうしようか迷っていると話しています。
仕事は午前中に済ませ、夕方はヘルパーさんに牧場をお願いして子どもと出かけるつもりだそうです。
この回の大きな変化は、リスナーからの質問がついに尽きてしまったことです。そこで川上さんは、いつもの質問回答ではなく、自分で選んだニュースを話す「気になるニュースのコーナー」に切り替えると宣言します。
川上 質問をお願いします。質問をお願いします。
川上 土曜日でね、お休みで、なんか面白い牛の話聞きたいなって思ってる方、今日は申し訳ないです、本当に。独断と偏見で本当にガチガチの話してきますんで。
島根ミルクフェアでロブロックスの牧場体験?
川上さんは前日に会議があり、10月10日に島根県の家畜市場で開かれる「島根ミルクフェア」の流れがすべて決まったと報告しています。島根県の大きな牛乳イベントで、川上さんもブースを出します。
川上さんのブースでは、子ども向けのゲームロブロックス ── ユーザーが自分でゲームや世界を作って公開し、ほかの人と遊べるオンラインゲームプラットフォーム。子どもを中心に世界中で利用されていますの中に牧場を作り、ゲームで遊びながら酪農を体験できるようにしたそうです。
ミルクフェアには、バター作り体験や模擬搾乳体験、島根県の牛乳のブース、キッチンカーもそろうとのこと。「島根ミルクフェア」で検索すると専用サイトも見られます。会場では「リアル川上」に声をかけてほしい、と呼びかけていますよ。
ほかにも、配信を文字起こしして再構成したnote記事とメンバーシップ、Instagramの「#ミライの牛乳」のデジタルアート、週1回まとめ記事が届く公式LINEの案内がありました。デジタルアートの売り上げは、子ども食堂への牛乳支援や、小中高での食育活動の費用にあてる予定だそうです。
AIに集めさせたニュースは手抜きなのか
コメントでの質問も来なかったため、ここからニュースのコーナーが始まります。川上さんは、AIに毎週月曜日に海外の酪農ニュースを集めさせ、気になるものをまとめてGoogleドライブに保存する仕組みを作っているそうです。
さらに、これまでの配信の文字起こしやnote記事、川上さんとのやりとりをもとに「川上ならどう分析して話すか」をAIに台本にしてもらい、今回はそれを読み上げる形です。つまり、この回のニュース解説の本文はAIが書いた台本で、川上さんの受け止めや補足が途中に挟まる構成になっています。
川上 全然手抜きじゃないですよ。全然ここまでするのにすごい時間がかかってるんですよ。本当に。
川上さんは、ファンに5分で描いた絵を売った画家の逸話を引き合いに出し、そこに至るまでに大きなコストがかかっているのだと冗談まじりに説明しています。
日本の生乳、1.3%減をどう見る?
台本のテーマは「世界では牛乳が増えているのに、なぜ日本では減っているのか」です。日本の減産、アメリカ・中国・ニュージーランドの増産は、1つずつ見ると別々のニュースですが、並べると牛乳を作る国そのものが変わっていくように見える、という問題提起から始まります。
日本については、農畜産業振興機構の国内需給データが紹介されます。2026年6月の日本の生乳生産量は約62万トンで、前年より1.3%減。これで9か月連続の前年割れです。
2026年6月の日本の生乳需給
約62万トン
生乳生産量(前年比1.3%減)
9か月連続
生乳生産の前年割れ
3.1%減
業務用向け(飲用向けは1.2%減)
北海道も都府県も減り、牛乳など飲用向けの量も業務用向けも前年を下回っています。
台本は、1.3%という数字だけ見ると大したことがないように思えても、酪農は工場のように来月から10%増やすといったことができない産業だと指摘します。牛を妊娠させて子牛を産ませ、育成牛を2年間育てて、ようやく搾れるようになるからです。
そのため、一度失った生産能力は戻すのに何年もかかります。台本の結論は、1年で何%減ったかより、減少が何年続いているかを見るほうが大事だ、というものです。
アメリカで乳牛が33年ぶりに増えたのはなぜ?
日本と正反対の動きをしているのがアメリカです。2026年6月のアメリカの乳用経産牛は967万7000頭で、前年より2%増え、33年ぶりの高い水準だと紹介されます。生乳生産量も前年より2.3%増えています。
川上 33年ぶりですよ。で、この大きい生産量の中の2.3%なんで、めちゃめちゃでかいですね、この数字はね。
台本が理由の1つに挙げるのは、好景牛不足と肉用牛との交雑です。乳牛に肉用牛を交配し、生まれた子牛を肉用として売るビーフオンデイリー ── 乳牛に和牛などの肉用種の精液を交配し、生まれた交雑種の子牛を肉用として販売する手法。乳牛の副収入を増やす方法として米国で広がっていますというやり方です。
川上 これ、日本では当たり前なんですけど、アメリカで流行り始めたのが本当にここ数十年ぐらいなんですよね。
肉用子牛の価値が高いと、生産性の落ちた乳牛を淘汰するより、残して子牛を産ませたほうが儲かります。川上さんの補足では、これまで価値が低いとされていた牛を残すことで、経営全体の利益が上がる形になっているそうです。
アメリカで乳牛が増えている流れ
肉用子牛の価値が上がる
肉用牛不足で、乳牛から生まれる交雑種の子牛が高く売れる
↓
淘汰を先送り
乳牛を処分するより、残して子牛を産ませるほうが得になる
↓
経産牛が維持・増加
結果として乳牛の頭数と生乳生産量が増える
台本は、アメリカの酪農家が牛乳の値段だけで経営を考えていない点を重視します。牛乳、子牛、肉、餌、繁殖、淘汰までを1つの経営として見ているからです。日本にも和牛受精卵やF1がありますが、世界の酪農を見るときに乳価だけを見ても経営の強さはわからない、と述べています。
中国は乳製品を「量」から「価値」で輸入し始めた?
台本の中で川上さんが一番気になったと紹介するのが中国です。2026年上半期の中国の生乳生産量は1909万トンで、前年同期比2.4%増とされています。
人口の多い中国は、海外から乳製品を大量に買う国というイメージがあり、世界の乳製品価格を見るうえでも大きな存在です。ところが、その中国で国内の生乳生産能力が上がっています。
中国の輸入の中身も変わってきています。2026年上期の中国の脱脂粉乳の輸入量は前年より約21%減りました。一方で、チーズの輸入は24.8%増、バターの輸入は39.1%増です。
川上さんは「AIでやった解釈」と断ったうえで、中国が牛乳を量で輸入する時代から、自国で作れるものは自国で作り、欲しい乳製品だけを海外から買う状態に変わっているのではないか、と紹介しています。
中国の乳製品輸入の変化(台本の解釈)
BEFORE
人口を支えるため、脱脂粉乳など大量の原料乳製品を海外に頼る
↓
AFTER
原料は国産に置き換え、チーズやバターなど需要が伸びる商品を輸入する
この流れが続けば、乳製品の輸出国にとって、中国は「とにかく牛乳を売ればいい市場」ではなくなるかもしれない、と台本は見ています。
ニュージーランドの乳価は数か月でどれだけ動く?
次は、世界を代表する乳製品輸出国のニュージーランドです。2026/27年度のスタートとなる6月の生乳生産量は前年より4.6%増え、14か月連続で前年を上回り、6月としては過去最高でした。
ニュージーランドの巨大乳業会社フォンテラ ── ニュージーランドの酪農家が出資する協同組合型の乳業会社。同国の生乳の大半を集め、世界最大級の乳製品輸出企業として知られていますは、生産者に払う乳価の予想を短期間で何度も動かしています。
フォンテラの2026/27年度予想乳価(1kgあたり)
5月
9.75ニュージーランドドルでスタート
7月
9.25ニュージーランドドルへ引き下げ
9月21日
全粉乳や脱脂粉乳の価格が持ち直し、9.50ニュージーランドドルへ引き上げ
台本は、牛乳が増えすぎれば値段が下がるのは当たり前だとしながらも、たった数か月でこれだけ動くのは牛を飼う側にとってとんでもないことだと述べます。
牛の生産サイクルは年単位なのに、市場価格は数週間から数か月で動く。このズレにも酪農という産業の難しさがある、というのが台本の見立てです。
1リットルの生乳からいくらの価値を作れるか
フォンテラは9月24日に決算も発表し、2025/26年度の最終的な乳価は1kgあたり9.69ニュージーランドドルでした。今後は、世界の企業向けの乳原料や高付加価値商品を成長分野として強化していく姿勢を示しています。
台本が特に注目したのは乳タンパクです。報道によると、フォンテラは今後3年間で約10億ニュージーランドドルを投じ、南島の乳タンパクの製造能力を広げるとしています。
台本は、世界最大級の乳業企業が牛乳をタンパク質、乳脂肪、機能性素材、食品原料、外食向け商品などに分け、どこに一番価値があるかを考えていると指摘します。これからは、1リットルの生乳からいくらの価値を作れるかの競争になるかもしれない、という見方です。
ニュージーランドでは環境政策も変わりつつあります。国全体の温室効果ガスの中で農業の割合が大きく、特に牛や羊などの反芻動物から出るメタンの存在が大きいため、酪農は気候変動政策の中心にあります。
最近は、二酸化炭素と生物由来のメタンを分けて扱うスプリットガス ── 寿命の長い二酸化炭素と、比較的短期間で分解されるメタンを別々の目標で管理する考え方。農業由来のメタンの扱いをめぐって議論されていますの考え方や、農家への直接の排出課金より技術で減らす方向へ政策が動いているそうです。
台本は、環境対策というと「牛を減らそう」となりがちでも、世界の牛乳需要がなくならない限り、別の国で牛が増えるだけかもしれないと指摘します。
それよりも、飼料効率を上げる、繁殖成績を良くする、病気を減らす、長命連産にする、メタンを減らす技術を使うなど、1リットルあたりの環境負荷を下げるほうが本当の意味での削減につながる可能性がある、という結論です。
日本の酪農の問題は「作れないこと」ではない?
台本は最後に、各国の動きをまとめます。EUでも2026年は生乳出荷量が増える見込みで、チーズやホエー、バター、脱脂粉乳の増産が予想されているそうです。
各国の生乳生産の動き
国・地域
生産の動き
注目点
日本
9か月連続の前年割れ
需要も減っている
アメリカ
乳牛が33年ぶりの水準
ビーフオンデイリーで淘汰が減る
中国
国内生産が増加
脱脂粉乳の輸入減、チーズ・バターの輸入増
ニュージーランド
過去最高水準
乳タンパクなど高付加価値へ投資
EU
2026年は増加見込み
チーズやバターなどの増産予想
台本の結論は、世界から牛乳がなくなっているわけではなく、牛乳を作れる国がむしろ生産能力を上げている、というものです。そのうえで、日本の酪農の問題は牛乳が作れないことではなく、作り続ける仕組みが弱くなっていることではないか、と問いかけます。
日本の牛の乳を出す能力は世界と比べても高く、飼養管理、繁殖、衛生管理の技術もあります。それでも、餌や燃料、機械が高く、人がいません。新しく酪農を始めるには何億円も必要で、やめた牧場を誰かが引き継ぐ仕組みもまだ整っていないと台本は述べます。
世界の人口が増え、タンパク質の需要が伸びても、その牛乳を日本で作っているとは限りません。台本は、日本の酪農を守るだけでなく、日本で牛乳を作る意味を考える必要があるとして、いくつかの例を挙げます。
・小さな農地でも成り立つ酪農
・地域の食品副産物を使う酪農
・都市の近くで行う酪農
・再生可能エネルギーと組み合わせる酪農
・教育や観光、研究まで含めた牧場
・AIやロボットで1人でも管理できる牧場
日本の酪農が世界と競う道は、アメリカやニュージーランドのような巨大化ではなく、まったく別の酪農の形を作ることかもしれない、と台本は結びます。そして「2050年、あなたが飲んでいる牛乳はどこで作られているのか」という問いを投げかけています。
台本を読み終えた川上さんの本音は?
台本を読み終えた川上さんは、自分の言葉で感想を語ります。日本国内では「牛乳が売れない」「もっと飲んでもらおう」という議論が続いていますが、その間に海外では安くておいしい乳製品が作られ、輸出も進められている、と危機感を示しています。
これはかなりやばいんじゃないかなと思ったりします。 ── 川上
川上 今ね、もう余ってる余ってるって言うんですけども、海外に持っていく方法、全力で皆さん考えた方がいいんじゃないかって思ったりします。
ただし川上さんは、世界市場で戦えば乳価が安定しなくなるという難しさにも触れ、ヨーロッパの例を挙げています。それでも、日本の歴史を見ると黒船のような外からの要因で大きく変わってきたことが多いので、そうならないようにしたいと話しています。
最後は「こんな配信毎回しちゃいますよ」と笑いながら、改めて質問を募集。Kindle本『酪農未経験者のために 遺伝改良と飼料設計編』と、そのデータを読み込ませたFarmEcho AI、黒毛和牛の近交係数 ── 血縁の近い牛同士を交配したときに、遺伝子がどれだけ重なるかを示す値。高すぎると病気や発育不良のリスクが高まるため、交配計画で確認しますを調べられるアプリ「和牛交配チェック」を紹介しています。アプリの登録者は60名を超え、年内に100人を目指しているそうです。
まとめ
今回は、質問が尽きたことから生まれたニュース特集でした。日本の減産とアメリカ・中国・ニュージーランドの増産を並べると、牛乳は世界からなくならなくても、作られる場所と価値の作り方が変わっていくかもしれない、という大きな問いが見えてきます。
- 日本の生乳生産は9か月連続の前年割れで、減少が何年続くかが重要だと指摘されています
- アメリカはビーフオンデイリーで乳牛を残す経営判断が進み、乳牛が33年ぶりの水準に増えています
- 中国は国内生産を伸ばし、脱脂粉乳の輸入を減らす一方でチーズやバターの輸入を増やしています
- ニュージーランドは乳価が数か月で大きく動くなか、乳タンパクなど高付加価値分野へ投資しています
- 日本の課題は牛乳を作り続ける仕組みの弱さで、日本で牛乳を作る意味を考える必要があると語られています