7年間話してきたことが、探せない。だから「川上牧場 酪農データバンク」を作りました
2026-09-14 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
822回の音声配信を、必要な人が必要なときに取り出せる場所へ
「乳房炎の話、前に配信でしていましたよね?」
そう聞かれたら、私はたぶん、
「はい、話したと思います」
と答えます。
でも、そのあとに、
「この回です」
とURLを渡すことができませんでした。
話した記憶はある。
けれど、どの回で話したのかが分からない。
このことが、ずっと気になっていました。
7年積み上げたつもりのものが、積み上がっていなかった
私は2019年5月から、毎朝、音声配信を続けています。
島根県出雲市で、乳牛を約80頭飼っている酪農家です。
搾乳をして、餌やりをして、牛が食べている間にその日にあったことを話してきました。
牛舎の様子。
牛乳の値段の裏側。
研修生に聞かれたこと。
消費者の方から届いた質問。
台本はありません。
その日に考えたことを、そのまま話してきました。
気がついたら、822回になっていました。
100回、200回くらいまでは、どの回で何を話したのか、なんとなく覚えていました。
でも、600回を超えたあたりから、頼りになるのは自分の記憶だけになりました。
そして、その記憶もあまり当てになりません。
研修生に、
「それ、前に配信で話しましたよ」
と言っても、その回を見つけられない。
結局、その場でもう一度説明することになります。
消費者の方から、
「バターは、なぜ高いんですか?」
という質問が来る。
以前、ていねいに答えた回があるはずなのに、それを探して渡せない。
だから、また一から説明する。
コメント欄で、
「前にも同じ質問がありましたね」
と言われて、
「そうだったと思います」
としか答えられないこともありました。
7年分の音声がある。
でも、必要なときに取り出せない。
書き溜めた日記が、ページ番号も目次もないまま、段ボールに入っている。
私にとっては、そんな状態でした。
Podyで、話したことが記事になった
転機になったのが、Podyというサービスです。
Podyは、ポッドキャストを記事にしてくれるサービスで、けんすうさんが作られたものです。
音声を渡すと、AIが文字にして、読み物の形にしてくれます。
これで、671本を記事にすることができました。
驚いたのは、ただの文字起こしではなかったことです。
話が変わるところで章が切られ、見出しがつきます。
私が話した言葉は、発言として引用の形で残ります。
専門用語が出てくると、その場に短い解説が添えられます。
「パーラーって何だろう」
と読者が止まらずに済むように、言葉の意味が補われています。
最後には、その回の要点もまとめられています。
自分が話したことを、自分で読み返して、
「ああ、そういうことを言っていたのか」
と思う。
そんな妙な体験をしました。
しゃべっているときは、自分が何を話しているのか、実はよく分かっていないものです。
その場では思いついたことを話しているだけでも、文字になると、話の流れや考え方が見えてきます。
自分の中にあったものが、初めて外から見えるようになりました。
記事になっても、まだ探せない
ただ、Podyで記事になったことで、すべてが解決したわけではありません。
671本の記事があっても、探せないのです。
一本一本の記事は読めます。
でも、
「乳房炎について話した回を、まとめて見たい」
と思ったときには、671本を上から順番に開いていくしかありません。
段ボールの中身が、日記から本になっただけでした。
本にはなった。
でも、目次がない。
困りごとは、半分しか解決していませんでした。
822回を横断して検索できる場所を作った
そこで、もう一歩進めることにしました。
Podyが作ってくれた記事に、noteに書いた記事と、手元にあった文字起こしを合わせて、822回分を横断して検索できる場所を作りました。
それが、
「川上牧場 酪農データバンク」
です。
川上牧場 酪農データバンク
出雲の酪農家が毎朝の配信で話してきたことを、822本ぶん読める形にまとめました。就農の準備や牛の健康から、牛乳のふしぎまで
kawakamidairyfarm-png.github.io
登録も必要ありません。
料金もかかりません。
開けば、そのまま読めます。
検索窓に言葉を入れると、記事のタイトルだけでなく、本文の中身まで探すことができます。
この記事を書いている時点では、たとえば次のような検索結果が出ます。
・「乳房炎」→ 90件
・「給食」→ 115件
・「バター」→ 83件
・「資金」→ 41件
・「後継者」→ 23件
「乳房炎」で90件も出てくるのか、と自分でも驚きました。
7年分というのは、そういう量なんだと思います。
タイトルだけではなく本文まで検索できるので、
「あのとき、たしかこんな言い回しをした」
という記憶からでも、たどり着ける可能性があります。
もちろん、自動の文字起こしなので誤変換もあります。
「酪農」が「楽能」になっていたりします。
そういう表記の違いや誤変換は、検索するときにある程度拾えるようにしました。
まだ完璧ではありません。
それでも、記憶だけを頼りに探していたときよりは、ずっと見つけやすくなりました。
なお、noteのメンバーシップ限定記事や有料記事は、ここには載せていません。
無料で読めるものを置いています。
たとえば、「乳糖不耐症」で検索すると
具体例を一つ紹介します。
「乳糖不耐症」で検索すると、26件出てきます。
その中に、次の配信があります。
「乳糖不耐症」は治るのか?腸内環境と牛乳の関係
「乳糖不耐症」は治るのか?腸内環境と牛乳の関係|川上牧場 酪農データバンク
「乳糖不耐症」は治るのか?腸内環境と牛乳の関係 おはようございます。 川上牧場の川上です。 今日は6月4日、木曜日です。
kawakamidairyfarm-png.github.io
牛乳を飲むと、おなかがゴロゴロする。
だから、牛乳は自分の体に合わない。
そう思って、飲むのをやめた方もいると思います。
この回では、それを「乳糖不耐症」という言葉だけで終わらせず、腸内環境との関係や、牛乳を飲むときに起きていることについて話しています。
私は酪農家なので、牛乳を飲んでほしい立場の人間です。
その点は差し引いて読んでいただいて構いません。
ただ、現場で見聞きしてきたことと、調べたことは、できるだけ正直に並べたつもりです。
こういう配信が、822回のどこかに埋まっていました。
以前なら、私自身も見つけられなかったものです。
今は、言葉を入力すれば、そこに近づけます。
中身を壊さずに残すまでに、少し失敗した
Podyが作ってくれた記事の構造は、できるだけそのまま残しました。
数えてみると、現在のデータバンクには次のような要素があります。
・章の見出し 1,983個
・私の発言の引用 1,789個
・用語の解説 683個
・回ごとのまとめ 1,012項目
一つひとつ人が付けていたら、何年かかったか分かりません。
ただ、最初からうまくできたわけではありません。
取り込むときに、私はこの構造を一度こわしてしまいました。
見出しも、発言の区切りも、用語の解説も、全部同じ大きさの文字でつながった、長い文章の壁になっていたのです。
自分のスマホで読んでみて、
「これは読めないな」
と思いました。
そこで作り直しました。
今は、章ごとに見出しが立ち、私の発言は引用として表示され、用語の解説は別の箱に分けています。
スマホで文字が詰まりすぎていないか。
一覧が長すぎて、いつまでもスクロールが終わらない状態になっていないか。
自分で触っては、AIに直してもらう。
それを何日も繰り返しました。
私はプログラムが書けません。
でも、使ってみて感じた違和感を伝えることはできます。
「このボタンは、初めて来た人には分かりにくい」
「この文章は、スマホでは詰まりすぎている」
そう伝えながら、少しずつ形にしていきました。
この流れを「放牧」と名付けました
ポッドキャスト。
Pody。
データバンク。
この流れを見ていて、酪農家として、どうしても浮かんできた言葉がありました。
「放牧」です。
手元にあるものを、いったん外に出す。
外の力に触れさせる。
そこで形を変え、育って、また戻ってくる。
そして、必要な場所に集めていく。
音声も同じでした。
しゃべった言葉を自分の中だけに抱えていたら、時間とともに流れていきます。
それをPodyという外に出したら、記事という形になって返ってきました。
その記事を集めて、一つの場所にまとめたら、必要な人が探せるものになりました。
抱え込んでいたら、何も起きませんでした。
手放したものが、別の人や仕組みの力を借りて、少し豊かになって戻ってくる。
だから、この流れを「放牧」と呼ぶことにしました。
先日、Xでこの話を書いたところ、Podyを作られたけんすうさんご本人から返信をいただきました。
自分が毎朝話してきたものが、思いがけない人のところまで届いたようで、うれしかったです。
二つの入口を用意しました
このデータバンクには、二つの入口を用意しています。
一つは、酪農をやってみたい人のための入口です。
酪農を始めるには、資金はいくらかかるのか。
資格は必要なのか。
農家の家に生まれていなくても、酪農家になれるのか。
研修生から届いた質問や、これまでの配信で話してきた内容を、読む順番を意識してまとめています。
私は非農家の出身です。
10歳のときに、ゲームの『牧場物語』をきっかけに酪農家を志しました。
だから、酪農を知らない人が最初に何を知りたいのかは、ある程度分かるつもりです。
自分が分からなかったこと。
遠回りしたこと。
誰も教えてくれなかったこと。
そういうものを、少しずつ残しています。
もう一つは、牛乳を飲む人のための入口です。
牛乳の原価はいくらなのか。
なぜバターだけ高くなるのか。
雄の子牛はどうなるのか。
消費者の方から届いた質問に、現場から答えた配信を集めています。
実は、この二つ目の入口は、後から足しました。
このサイトをライブ配信で紹介したとき、視聴者の方から、
「一般の人でも触っていいんですか?」
と質問をいただきました。
言われてから画面を見直すと、確かに、最初に目に入るのは就農を目指す人向けの話ばかりでした。
牛乳を飲む人のための入口が、どこにも見えていなかったのです。
作った本人には、それが見えていませんでした。
その日のうちに直しました。
今は、開いてすぐに、どちらの入口も見えるようにしています。
「そもそも誰に向けて発信してんの?」
もう一つ、以前いただいたコメントを紹介します。
内容の件で、わかる人にはわかりますが、素人さんにはわからない話ですよねー。そもそも、誰に向けて発信してんの?
痛いところを突かれたと思いました。
酪農の話は、どうしても専門的になります。
牛群検定。
乳脂肪率。
近交係数。
現場で使っている言葉を、そのまま使えば、外の人には壁になります。
でも、専門的な話をしないと伝えられないこともあります。
私の配信は、寄せられた質問に答える形で成り立っています。
誰に向けて話しているのかと聞かれたら、まずは質問をくれた人に向けて話しています。
これは今でも変わりません。
ただ、その質問に答えた音声が流れて消えてしまうなら、質問をくれた人に届いても、その後に同じ疑問を持った人には届きません。
それでは、結局、誰にも届いていないのと同じではないか。
そんなことを考えるようになりました。
データバンクは、その問いへの答えでもあります。
一度した話が、そこに残る。
必要な人が、必要なときに取り出せる。
「わかる人にはわかる話」を、わかりたい人の側から探せるようにする。
そのための場所にしたいと思っています。
これからやりたいこと
この記事を書いている時点で、サイト上で全文を読めるのは641本です。
Podyでは671本を記事にすることができました。
その記事と、noteに書いた記事、手元にあった文字起こしを整理して、現在のデータバンクに掲載しています。
822回全体で見ると、まだ記事化や掲載準備ができていない回が約180本あります。
こちらは、記事ができ次第、順次追加していきます。
やりたいことは、まだあります。
研修生に、
「まずは、これを読んでおいて」
と渡せる読む順番を、もっと整えたい。
学校の授業や、企業の方が酪農の現場を調べるときの土台にも使えるようにしたい。
牛乳を飲む人が、ふと湧いた疑問をそのまま入力して、答えに近づける場所にしたい。
7年分の音声は、もう手元にあります。
あとは、それを取り出しやすい形にしていくだけです。
音声配信を続けている方へ
もし毎日、または毎週、音声配信を続けていて、
「過去の回が、誰にも探せない」
と感じているなら、同じ発想は使えると思います。
音声を記事にする。
記事を一つの場所にまとめる。
本文を検索できるようにする。
それだけでも、過去の発信の使われ方は変わります。
私は特別な技術を持っていません。
持っていたのは、7年間、毎朝話してきた音声です。
続けることと、積み上がることは、同じではありませんでした。
積み上げたものを、必要な人が取り出せる形にする。
その作業をして初めて、過去の自分の言葉が、今の誰かの役に立つ可能性が生まれます。
同じ質問に、毎回ゼロから答えなくてもよくなりました。
「それは、この回で話しています」
と、URLを一つ渡せばよくなりました。
これは、思っていた以上に大きな変化でした。
7年前の自分に、これを渡してやりたいと思います。
よかったら、気になる言葉から検索してみてください。
酪農のことでも、牛乳のことでも、まずは一つ、思いついた言葉を入れてもらえたら嬉しいです。
川上牧場 酪農データバンク
川上牧場 酪農データバンク
出雲の酪農家が毎朝の配信で話してきたことを、822本ぶん読める形にまとめました。就農の準備や牛の健康から、牛乳のふしぎまで
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配信822回・全文641本。
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