R7年研修生と配信 #13
2025-09-14 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://open.spotify.com/episode/0I286LBpn4IEPpdUtdkxi0?si=VJeBWpAVTjW_3PUwwkpCSA
2025年9月7日。今日は川上牧場に研修生が来てくれた日。真夏の暑さが少し和らいだ出雲の午後、作業の合間の休憩時間に収録したこの配信、第13回目です。テーマは「放射性セシウム」…のはずが、牛の行動から牛舎の構造、餌やりの哲学、SNSの落とし穴まで、まさに“酪農のリアル”がぎゅっと詰まった回となりました。
🐮 研修生との会話、はじまりは「子牛の哺乳について」
冒頭は研修生からの「子牛の哺乳」についての質問。しかし話題は牛の行動特性に広がります。
ミルクを手であげていたときは人懐っこかった子牛が、自動哺乳機に切り替えた途端、人に警戒するようになる。この変化に驚いた研修生に、川上さんは放牧牛の子育ての話を交えながら「母牛と子牛の距離感」を解説。
「お母さん牛は出産すると、子牛を少し離れた茂みに隠して、授乳の時だけ行ってあげるんです」
人間の愛着と動物の本能は別物。
人に慣れていても、それは“安全だから”であって“好き”とは限らない。そんな牛の目線で物事を捉える大切さが語られました。
👁️ 牛の見えている世界
「牛ってどれくらい目が見えるの?」という素朴な疑問に、川上さんの答えは明快。
・色覚は弱く、基本的に白黒。
・視野は270度と広く、真後ろも見える。
・でも上下の視野が狭く、足元や高低差が苦手。
牛が「溝を怖がる」のは、まるで断崖絶壁に見えているからだとか。
だからこそ牛舎の構造や動線は、牛の目線で設計する必要があります。
「後ろに溝がある牛舎は“お尻合わせ式”。反対に“頭合わせ式”の牛舎もあるよ」
牛の動き、牛舎の構造、それぞれにメリット・デメリットがあり、作業のしやすさとも密接に関わっています。
🛠️ 古い牛舎と現代の運用
今の牛舎は川上さんの父の代からあるもの。
昔の構造をどう生かすか、どう活用するかが今の課題。
「昔は“牛一頭で大学に通わせられる”って時代だった。今は“剥離多売”。たくさん飼っても利益は少ない」
だからこそ今ある牛舎をどう改造して、少しでも効率を上げるかがポイント。
・パイプラインの傾斜角度
・搾乳機械の導線
・餌やりのスペースと作業効率
こうした細かい改善の積み重ねで、持続可能な運営を実現しているとのこと。
🐄 牛舎を建てる?現実的な壁
研修生から「牛舎を新しく建てたいならどうすれば?」という問いには、厳しい現実も語られました。
・周囲の住民の理解
・インフラ整備(水道・道路)
・自治体との調整
特に「水道の配管」は問題になりがち。
牛の頭数が増えると水の使用量も爆発的に増加。配管のサイズが合わなければ、自費で整備しなければならないケースもあるとのこと。
「補助金が出るのは“新築”が多い。“改修”にはなかなかつかない」
💡 自動化の未来
川上さんが目指すのは「一人でも200頭飼える酪農」
・哺乳ロボット
・自動餌やり機
・自動清掃システム
すでにニュージーランドや岡山の例では、ロボットが働き、人は数時間しか牛舎に入らないスタイルが実現されています。
「でも、それが“楽しい”かどうかはまた別」
働き方の理想形と、“牛と向き合う酪農”のバランスをどう取るか。
📈 経営判断と“餌”の哲学
コロナ禍、原油高、円安、情勢不安——。 餌代は3倍になり、電気代も月18万円に到達。
かつては「いい餌を与えて、たくさん搾る」スタイルでしたが、
いまは「コストを抑えながら品質を守る」方針に転換。
「安い餌でも、工夫次第でちゃんとした牛は育てられる」
ただし「体型」や「毛艶」にははっきり差が出る。
・いい餌:背中は平ら、体幹が美しい。
・安い餌:腹が出て、背が丸まる。
「美しさ」と「経営」のはざまで揺れながらも、川上さんは現実的な道を選んでいます。
🐃 SNSの“善意”と現場のズレ
SNSで見かけた「股が裂けた牛にシップを塗っている動画」について。
投稿者の“牛を助けたい気持ち”は本物。
しかし、専門知識の不足からかえって牛を苦しめてしまうことも。
・牛の皮膚は厚い
・脂肪も分厚い
・塗るシップはほぼ効かない
「本人に悪気はない。でも“知らない”ってことは罪にもなる」
かわいそう、助けたい、と思ったらまずは調べること。
学ぶこと。現場のプロが語る“リアルな倫理”です。
✍️ まとめ:正解は一つじゃない
今回の配信は、酪農の「表と裏」「理想と現実」を研修生との対話で描き出す回になりました。
・牛との距離感の築き方
・牛舎の物理的限界と行政の壁
・自動化と人の仕事の意味
・餌の選択と美しさ
・SNSの善意と現場の乖離
そのどれにも「正解」はありません。
でも、川上さんの言葉には一貫して
「現場の牛の幸せを考える」軸があります。
「牛を見れば、その人の経営の哲学がわかる」
13回目の配信は、酪農を志すすべての人に向けた、学びと問いが詰まった回となりました。
次回も研修生との対話から、また新しい視点が生まれることでしょう。お楽しみに!
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