母乳は冷凍できるのに、なぜ牛乳は冷凍しないの?酪農家が科学的に解説します

2026-07-21 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

母乳は冷凍できるのに、なぜ牛乳は冷凍しないの?酪農家が科学的に解説します

先日、noteにこんなコメントをいただきました。

「母乳は冷凍することが多い。湯煎解凍して赤ちゃんに飲ませるけれど、確かに牛乳はしないところが不思議ですね」

「美味しさに関係するのもさることながら、コスト面でも余計にかかってしまうからかなと思いました」

ありがとうございます。

実はこの少し前に、「冷凍牛乳ってなぜないの?」という配信をしていました。

そのときは、牛乳を凍らせて解凍すると脂肪分が分離してシャバシャバになってしまう、という話をしました。

あわせて、凍らせた牛乳をアイスコーヒーに氷の代わりに入れると、薄まらずに最後まで美味しい、という飲み方も紹介しました。

そこに届いたのが、今回のコメントです。

母乳は冷凍して、湯煎で解凍して、赤ちゃんが問題なく飲んでいる。

なのに、なぜ牛乳はしないのか。

言われてみれば、確かに不思議です。

僕も知らなかったので、調べてみました。

これがとても勉強になったので、今日はその話をします。

結論。母乳も牛乳も、冷凍すれば品質は変わります

まず結論から言います。

母乳も牛乳も、冷凍すれば品質は変化します。

ここ、意外と知られていません。

「母乳は冷凍しても全く変わらない」

というわけではないんです。

つまり、母乳と牛乳の違いは、

「冷凍しても平気なもの」と「冷凍したらダメなもの」

という違いではありません。

同じように変化するのに、片方は冷凍する。

片方は冷凍しない。

その差は、成分の差ではなく、目的の差でした。

母乳を冷凍すると、実は何が起きているのか

では、母乳を冷凍すると何が起きているのでしょうか。

調べると、こんな変化が報告されています。

脂肪が分離する

ビタミンCなど、一部の栄養素が少し減る

免疫成分も、長期間の保存では少し低下する

そしてもう一つ。

リパーゼという脂肪分解酵素の働きで、石鹸のような香りや、金属っぽい風味になることがある

この最後の一つが、僕には特に驚きでした。

実際、海外では

「冷凍した母乳を、赤ちゃんが飲まなくなった」

という相談も少なくないそうです。

つまり、母乳も味は変わる。

これは研究でも確認されていることです。

それでも母乳を冷凍するのはなぜか

では、味が変わると分かっていて、なぜ母乳は冷凍するのでしょうか。

理由は、とてもシンプルでした。

赤ちゃんにとって母乳は、栄養だけの食べ物ではないからです。

免疫物質や成長因子など、その時期の赤ちゃんにとって、とても重要なものを含んでいます。

だから、多少風味が変わったとしても、

「保存して、必要なときに届けられる」

というメリットのほうが、圧倒的に大きい。

だから世界中で、冷凍保存が推奨されています。

ここが一番のポイントです。

母乳の冷凍は、品質を保つためにやっているのではありません。

赤ちゃんに母乳を届けることが最優先だから、冷凍しているんです。

目的が違うわけですね。

搾ってから届けるまで、僕らがやっていること

これは、牧場で牛乳を扱っているときにも、実は毎日考えていることです。

搾った牛乳は、すぐに冷やします。

冷やして、温度を保ったまま出荷する。

そこで僕らがやっているのは、「増やす」ことでも「良くする」ことでもありません。

搾った瞬間の状態を、どれだけそのまま届けられるか。

それだけを考えています。

牛乳って、手を加えれば加えるほど、元の状態から遠ざかっていく食品なんです。

だから、なるべく何もしない。

冷やして、運ぶ。

シンプルですが、これがいちばん難しい。

母乳の冷凍も、突き詰めれば同じ話だと思います。

理想は、搾りたてをそのまま飲ませること。

でも、それができない場面がある。

そのときに、何を捨てて、何を守るのか。

母乳は「風味」を捨てて「届けること」を守った。

牛乳は「保存の自由度」を捨てて「味」を守った。

どちらも、諦めた上での選択なんですよね。

牛乳は「商品」だから、事情が違う

一方で、市販の牛乳はどうでしょうか。

牛乳は、商品です。

皆さんがスーパーで手に取る牛乳には、

「いつ買っても、同じ美味しさ」

が求められています。

ところが冷凍すると、こうなります。

乳脂肪が分離する

タンパク質の構造も変わる

解凍後はざらつきが出て、舌触りが変わる

味も香りも変化して、いつもの牛乳ではなくなる

もちろん、飲めなくなるわけではありません。

料理に使うことはできます。

でも、「そのまま飲む牛乳」としては、品質が落ちてしまう。

だから日本では、冷蔵での流通が選ばれています。

同じ「白い液体」でも、母乳は届けることが最優先で、牛乳は美味しさを保つことが最優先。

その違いが、保存方法の違いになっているわけです。

もう一つの理由は、日本の物流のすごさ

そしてもう一つ、大きな理由があります。

日本の物流が、非常に発達していることです。

牧場で搾られた牛乳は、殺菌されて、低温のまま全国へ運ばれ、数日以内には店頭に並びます。

つまり、冷凍保存をしなくても、十分に品質を維持できる仕組みがすでに完成しているんです。

ここで、もし冷凍流通にしたらどうなるか。

冷凍設備がいる

冷凍倉庫がいる

解凍設備がいる

エネルギーコストもかかる

つまり、コストは確実に増えます。

そのうえで、品質は下がる。

だったら、冷蔵で届けたほうが美味しくて、コストも抑えられる。

今の日本では、この方法が一番合理的なんです。

コメントで「コスト面でも余計にかかってしまうからかな」と書かれていましたが、まさにそのとおりでした。

さすがだなと思いました。

冷凍した牛乳は、料理でなら生きる

とはいえ、家で牛乳を凍らせてしまうこともありますよね。

賞味期限が近いから、とりあえず冷凍庫へ。

それを解凍して飲むと、口当たりがザラついて、正直あまり美味しくありません。

でも、捨てないでください。

料理にはしっかり使えます。

シチューに使う

味噌汁に、凍らせた牛乳を少し入れる

お味噌汁に牛乳、と聞くと驚かれるかもしれませんが、これは「乳和食」といって、意外と合います。

お手軽に試せるので、冷凍してしまった牛乳があれば、ぜひやってみてください。

そして、この時期にいちばんおすすめなのが、アイスコーヒーです。

凍らせた牛乳を、氷の代わりに入れる。

普通の氷だと、溶けるほどコーヒーが薄くなっていきますよね。

でも牛乳の氷なら、溶けるほどカフェオレに近づいていく。

冷たさは保ったまま、味は薄くならない。

むしろ、だんだん美味しくなっていきます。

暑い日の午後に、これはかなりいいです。

冷凍した牛乳は「失敗」ではなく、使いどころが違うだけなんですよね。

「余ってるなら冷凍すればいいのに」について

牛乳の話をしていると、時々こう言われます。

「牛乳が余っているなら、冷凍しておけばいいじゃないか」

気持ちはすごくよく分かります。

捨てるくらいなら、凍らせて取っておけばいい。

そう考えるのが自然だと思います。

でも、ここまでの話をふまえると、そう単純ではないことが見えてきます。

まず、冷凍した牛乳は「そのまま飲む牛乳」には戻りません。

解凍すればざらつきが出て、風味も変わる。

つまり、凍らせた時点で、飲用の牛乳ではなく加工用の原料に近いものになります。

そして、そのための設備が必要になる。

冷凍する場所、保管する場所、解凍する場所。

そのすべてに電気が要ります。

搾った瞬間から冷やし続けている牛乳を、さらに凍らせて、また溶かす。

そのコストをかけて、品質は下がる。

だから現実には、余った生乳はバターや脱脂粉乳、チーズなどに加工されます。

凍らせて保存するのではなく、形を変えて保存する。

こちらのほうが、はるかに合理的なんです。

「冷凍すればいい」という発想が間違っているわけではありません。

ただ、牛乳という食品は、すでにもっと洗練された方法で保存されている。

そういうことなんだと思います。

赤ちゃんは、けっこうすごい

そして、話を戻すと。

冷凍した母乳を、赤ちゃんが問題なく飲んでいるというのは、あらためて考えるとすごいことです。

もしかしたら、

「なんか今日のミルク、いつもと違う」

と思いながら飲んでいるのかもしれません。

だから、もしお母さんが

「今日はちょっと飲みが悪いな」

と感じたときは、

「冷凍したからかな」

と思ってあげてもらえたらと思います。

そして、それでも飲んでくれる赤ちゃんに、ありがとうと思ってもらえたら嬉しいです。

食品は「できる・できない」ではなく「何を優先するか」

今回の質問に、一言で答えるとこうなります。

母乳も牛乳も、冷凍すれば品質は変わる。

ただ、母乳は「赤ちゃんへ届けること」が最優先。

牛乳は「美味しさをそのまま届けること」が最優先。

この目的の違いが、そのまま保存方法の違いになっている。

食品は、「できる・できない」で決まるのではありません。

「何を優先するか」で、最適な方法が決まります。

牛乳が余っているなら冷凍すればいいじゃないか、という話も時々聞きます。

でも、そう単純ではない。

そのことを、あらためて考えさせてくれる質問でした。

こういう、生活の中でふと思った素朴な疑問。

本当にありがたいです。

スーパーやコンビニで「あれ?」と思ったことがあれば、どしどし送ってください。

調べて、お答えしていきます。

今日の牧場から

今日は7月21日、三連休明けの火曜日です。

最高気温は34度。

昨日に引き続き、暑い一日になりそうです。

正直に言うと、やる気が出ません。

自動給餌機が壊れたままで、配合飼料を手でやりながら、

「もう何やってんだろう」と思いながら仕事をしています。

先日から調子が悪かった牛も、亡くなってしまいました。

今日は業者さんに引き取りの処理をしてもらいます。

明日は産業廃棄物の廃プラの回収日なので、その準備も。

さらに、補助のトラックもまた不調です。

本当に、悪いことは続きますね。

なんで、と思いながら仕事をしています。

それでも、牛乳は毎日出ます。

夏休みに入って、学校給食が止まりました。

子どもたちは、家の食事だけで栄養を取らないといけません。

そこに牛乳です。

熱中症対策にもなって、栄養も取れる。

それが1本300円しないくらいで買える。

本当にすごい食品だと思います。

ぜひ、ご家庭に常備していただけたら嬉しいです。

三連休明けの、やる気の出ない体に染み渡る牛乳。

これがまた、うまいんですよ。

お知らせ:酪農DXサミット第2回を企画しています

最後にひとつ、お知らせです。

今、地域交流牧場全国連絡会のほうで、酪農DXサミットの第2回を企画しています。

だいたい12月ごろを予定しています。

音声配信を聞いてくださっている方に、いちばん早くお伝えしておきます。

僕も何かお話しできると思います。

12月になれば、AIのレベルはさらに上がっているはずです。

正直、前回よりもかなり大きな規模で、もっとすごいことをやりたいと思っています。

詳しいことが決まったら、この配信でお伝えしていきますので、ぜひ聞いていただけたら嬉しいです。

今回のポイント

母乳も牛乳も、冷凍すれば品質は変化する

母乳は脂肪の分離、一部の栄養素の減少、リパーゼによる石鹸のような風味の変化が起こることがある

それでも冷凍するのは、風味より「赤ちゃんに母乳を届けること」が優先されるから

牛乳は商品なので、「いつ買っても同じ美味しさ」が優先される

日本は冷蔵のまま数日で全国に届く物流が完成しているので、冷凍する必要がない

冷凍流通にすると設備もエネルギーもコストが増え、そのうえ品質は下がる

冷凍してしまった牛乳は、シチューや乳和食など料理で活かせる

食品は「できる・できない」ではなく「何を優先するか」で最適な方法が決まる

あなたは、牛乳を冷凍したことはありますか?

飲んでみて「これは違うな」と思った経験があれば、ぜひ教えてください。

音声配信でも、一緒に調べながら答えていきたいと思います。

【YouTubeで同じ配信を聞く】

母乳は冷凍できるのに、なぜ牛乳は冷凍しないの?酪農家が科学的に解説します

【podyでより詳しく見やすく知れます】

【牛乳のむ?牧場配信】記事で読む・要約・聞きどころ - pody

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