水泳選手やダイバーは“牛乳でゴーグルを洗う”って本当?酪農家が調べてみた

2026-09-11 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

「牛乳でゴーグルを洗う」という噂を、酪農家の川上さんが事実と憶測に切り分けた回でした。牛乳を売りたい立場だからこそ、確認できたことだけを伝える姿勢が印象的です。

この回の要点

  • 水泳選手やダイバーが牛乳でゴーグルを洗う、という標準的な方法を裏付ける信頼できる資料は確認できなかった
  • 一般的に紹介される曇り止めは、専用品・薄めたベビーシャンプー・唾液で、PADIもこれらを紹介している
  • ダイビングマスクは「新品の事前処理」と「潜る前の曇り止め」を分けて考える必要がある
  • 牛乳は食品であり、曇り止めとしての効果を科学的に断言できる根拠は今回は確認できなかった
  • 牛乳を持っていくなら、ゴーグルに塗るより飲むほうが根拠がある、というのが川上さんの結論

配信の全文(podyの記事より)

リスナーからの「牛乳でゴーグル」質問にびっくり

今回の配信は、リスナーから届いた質問がきっかけです。川上さんいわく、耳を疑うくらいびっくりした内容だったそうです。

その質問というのが、水泳選手やダイバーがゴーグルを洗うときに牛乳を使う、というもの。まことしやかに言われている噂のようですが、川上さんも全然知らなかったと話します。

川上 水泳選手とかダイバーさんが、ゴーグルを洗う時に牛乳を使うという、そんなまことしやかに言われてる言葉があるみたいです。知らなかったんで、ちょっと調べてみました。

消費者からこうした質問をもらうと、牛乳の意外な使い方を調べるきっかけになる、と川上さんは前向きに受け止めています。今回はこの噂を酪農家目線で検証していきます。

口蹄疫が空港で検出されたニュース

乾杯の前に、川上さんは畜産・酪農業界でピリッとしたニュースに触れます。牛の口蹄疫が、空港で初めて検出されたという話です。

口蹄疫 牛や豚などの偶蹄類がかかる、非常に感染力の強い家畜の伝染病。発生すると畜産業に大きな被害が出るため、水際での防止がとても重要とされています。

海外旅行先でハムやベーコンなどの加工品を買って日本に持ち帰ろうとしたとき、ウイルスが検出される場合があるそうです。今回は空港などで止めることができたため、大きな問題にはなりませんでした。

川上 これ、マジかと思ったんですけど。家畜伝染病、本当に怖いんで。しっかり気をつけていただけたら嬉しいなと思います。

家畜伝染病についてよくわからないという人は、川上牧場のホームページや公式LINEにある「酪農データバンク」から調べられる、と案内しています。

今日の牛乳で乾杯、品質が戻ってきた話

お知らせのあと、川上さんはいつものように牛乳で乾杯します。この日は、牛の調子が良くなってきて牛乳の品質が上がってきた、という嬉しい報告がありました。

川上 牛の調子が良くなってきて、牛乳の品質が上がってきましたよ。先日検査があったんですけど、もう元に戻ってきましたね。

一方で、乳量はもう少し戻したいところだそうです。牛の餌をみんなで調整していく必要がある、と現場の課題も率直に話しています。

リスナーからは「濃い」というコメントも。夏場のあっさりした牛乳から、冬場の濃い牛乳へと少しずつ変わっていく季節の違いも味わってほしい、と川上さんは語りかけます。

そもそもゴーグルはなぜ曇るのか

ここからが本題です。まず川上さんは、そもそもゴーグルやダイビングマスクがなぜ曇るのか、その正体から説明していきます。

ダイビングマスクの内側には暖かく湿った空気があり、レンズの向こう側は水です。レンズの表面が冷やされると、水蒸気が細かな水滴になってレンズに付着します。これがいわゆる結露です。

この小さな水滴が光を錯乱させるため、白っぽく曇って見えるというしくみです。

そこで一般的な曇り止めは、水滴を全部なくすのではなく、細かな水滴としてバラバラに付きにくくして、薄い水の膜として広がりやすくするという考え方を使っています。そのために使われるのが界面活性剤です。

界面活性剤 水と油のように混ざりにくいものをなじませる働きを持つ成分。石けんや洗剤などに使われ、水を膜のように広げたり、汚れを落としたりするのに役立ちます。

ダイバーが実際に使っているのは何か

では、ダイバーは実際に何を使っているのか。ここが重要なポイントだと川上さんは言います。

世界的なダイビング教育団体であるPADIが紹介している代表的な方法を見ると、市販の曇り止め、薄めたベビーシャンプー、そして唾液、つまりマスクに唾をつける方法だそうです。

PADI Professional Association of Diving Instructors の略。世界的に広く知られるダイビングの教育・認定団体で、ダイビングの講習やライセンス発行を行っています。

PADIも、唾液はダイバーの間で一般的に使われてきた方法として紹介しているとのこと。ここに牛乳は出てきません。

複数のダイビング関連資料を確認しても、一般的に紹介されるのはこうした曇り止めばかり。そこで川上さんは、まず現時点での結論を示します。

ダイビング業界で牛乳が標準的な曇り止めという事実は、確認できませんでした。 ── 川上

ダイビングで一般的に紹介される曇り止め

用語

市販の曇り止め

専用に作られた製品

用語

薄めたベビーシャンプー

PADIが紹介する方法

用語

唾液

ダイバーの間で一般的に使われてきた方法

「完全に嘘」とも言い切らない慎重な姿勢

では牛乳で洗うは完全に嘘なのか。ここで川上さんは、あえて慎重な言い方をします。

今回確認できなかったからといって、世界中の水泳選手やダイバーで牛乳を使った人が一人もいない、とは言えないという立場です。個人的な習慣だったり、特定の競技者や地域で行われたことだったり、別の道具の手入れと話が混ざった可能性もある、と考えます。

つまり、牛乳を使う人が絶対にいないと否定する根拠もない。でも、水泳選手やダイバーは牛乳で洗うという一般論にできるほどの信頼性の高い根拠は、今回のリサーチでは見つからなかった、ということです。ここは分けて考えたいと川上さんは強調します。

酪農家として牛乳が気になる、でも科学的には言えない

とはいえ、酪農家としてはやっぱり牛乳が気になる。ここからが面白いところです。

牛乳は約9割近くが水分ですが、残りには乳タンパク質、乳脂肪、乳糖、ミネラルなどいろいろな成分が入っています。だから、ただの水とは表面への作用が違うのでは、と思えてきます。

ただし、ここで牛乳のカゼインがレンズをコーティングして曇り止めになる、といった説明をするのは危険だと川上さんは釘を刺します。

今回調べた範囲では、牛乳をゴーグルやマスクに使った場合、どの乳成分がどの程度曇り止めとして働くのかを裏付ける十分な実証資料は確認できませんでした。だから科学的事実としては言えない、というのがポイントです。

そもそも牛乳はゴーグル用洗剤でも曇り止め剤でもなく、タンパク質や脂肪を含む食品です。乾けば残留物が残る可能性もあり、きちんと洗わなければ衛生面も気になります。曇り止め加工された最近のゴーグルなら、コーティングへの影響もわかりません。

川上 最初から曇り止め加工されている製品もあります。それを牛乳が効くらしいっすよって自己流でゴシゴシ洗うのはおすすめできません。

新品の処理と潜る前の曇り止めは別の話

調べていて川上さんが面白かったのが、ダイビングマスクでは「新品を使い始める前の処理」と「潜る直前の曇り止め」が別の話として扱われている点です。

新品のマスクは、製造時にレンズ表面へ残った物質が曇りの原因になることがあります。PADIでは、新しいマスクの事前処理として、非ホワイトニング系の歯磨き粉によるクリーニングを紹介しているそうです。

その後、毎回潜る前には専用の曇り止めやベビーシャンプー、唾液などを使う、という流れです。ただし材質やメーカーによって注意点が違うので、製品の取り扱い説明を優先してください、とのこと。

つまり、何で洗うかだけでなく、そもそも何のための処理なのかを分けて考える必要がある、というわけです。

ダイビングマスクの2段階の処理

新品の事前処理

非ホワイトニング系の歯磨き粉でレンズ表面をクリーニング

↓

潜る前の曇り止め

専用の曇り止め・ベビーシャンプー・唾液などを使う

なぜ噂は「本当っぽく」感じるのか

牛乳でゴーグルという話がなぜ広まったのか。その理由は現時点ではわからないため、川上さんは憶測を事実のように話すことは避けます。ただ、この質問はとてもいい例だと言います。

SNSで「プロの選手は〇〇をやっている」「海外では常識」「昔からこうすると言われている」と言われると、ものすごく本当っぽく感じてしまう。しかも今回は牛乳という身近な食品です。

脂肪やタンパク質が膜を作るのでは、と、もっともらしい説明まで簡単に作れてしまいます。でも調べてみると、確認できるのは専用品やベビーシャンプー、唾液で、牛乳については確かな根拠までたどり着けませんでした。

理屈が作れそうと、実際に確認されているは別ということですよね。 ── 川上

牛乳を売りたいからこそ、効果を足さない

酪農家としては、オリンピック選手も牛乳でゴーグルを洗っている、なんて話があれば最高の宣伝になる、と川上さんは本音ものぞかせます。

栄養として素晴らしく、料理にもお菓子にも使えて、さらに曇り止めまでできる。そんな食品ならすごい、と。それでも、確認できたことだけを言うという姿勢は崩しません。

だからこそ川上さんは、牛乳を売りたいからといって、牛乳にない効果まで付け足したらダメだと言い切ります。これは酪農家としても大事なところだと語ります。

噂を発信するときの向き合い方

✓

DO(やるべきこと)

確認できた事実と、確認できなかったことを分けて伝える

✗

DON'T(避けるべきこと)

売りたいからと、根拠のない効果を付け足す

結論と、一次情報の呼びかけ

改めて今回の結論です。一部の人が行った可能性までは否定できないものの、水泳やダイビングで一般的・標準的に推奨されている方法だと確認できる証拠は見つかりませんでした。

信頼できる資料で確認できる代表例は、専用の曇り止め、薄めたベビーシャンプー、唾液。牛乳については効果があると断言できる科学的根拠を、今回は確認できなかった、というのが川上さんの答えです。

川上 水泳やダイビングの前に牛乳を持っていくなら、ゴーグルに塗るよりまず飲んでほしい。牛乳はその使い方ならちゃんと根拠がありますからね。

最後に川上さんは、一次情報の呼びかけをします。実際に競泳選手から教わった、ダイビングショップでやっていた、この選手が使っていた、という情報があればぜひ教えてほしい、と。

誰がどの競技で何の目的で使っていたのか、そこまでわかればさらに追いかけて調べてみたい、と締めくくります。素朴な疑問を掘り下げると、牛乳そのものだけでなく身の回りの科学まで見えてくる、という配信でした。

まとめ

「牛乳でゴーグルを洗う」という噂を、酪農家の川上さんが事実と憶測に切り分けた回でした。牛乳を売りたい立場だからこそ、確認できたことだけを伝える姿勢が印象的です。

  • 水泳選手やダイバーが牛乳でゴーグルを洗う、という標準的な方法を裏付ける信頼できる資料は確認できなかった
  • 一般的に紹介される曇り止めは、専用品・薄めたベビーシャンプー・唾液で、PADIもこれらを紹介している
  • ダイビングマスクは「新品の事前処理」と「潜る前の曇り止め」を分けて考える必要がある
  • 牛乳は食品であり、曇り止めとしての効果を科学的に断言できる根拠は今回は確認できなかった
  • 牛乳を持っていくなら、ゴーグルに塗るより飲むほうが根拠がある、というのが川上さんの結論