川上牧場研修【牛群検定(移動13カ月推移・体細胞情報・授精状況)】
2021-04-20 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
牛群検定の1枚目は、体細胞と授精状況の数字から牧場の健康状態と繁殖方針を読み解く道具です。数字の意味とルール、そして報告の癖まで理解して、推移で全体をとらえることがポイントでした。
この回の要点
- 体細胞は体細胞平均とリニアスコアを見比べ、群全体の問題か個体の問題かを切り分ける
- 体細胞の高い牛の割合は更新率と比べて判断し、更新で追いつかないと農場全体の体細胞は下がらない
- JMRは待機期間を過ぎると1日ごとに増え、種付けや妊娠鑑定でゼロにリセットされる繁殖アクションの指標
- 受胎率100パーセントや入力ルールの違いなど、数字だけでは読めない報告の癖に注意する
- 1枚目の推移で牧場の長所と短所をつかみ、原因は個別データで確認していく
配信の全文(podyの記事より)
そもそも牛群検定を音声で残す理由
この回は、川上牧場の川上さんが研修生を受け入れる中で、搾乳前の休憩に交わす質問への回答をそのまま録音したものです。研修生だけでなく、酪農に興味のある人や現場で働く人にも届けたいという意図で配信されています。
川上 研修生に教えるのも兼ねて、noteに音声としても残しています。搾乳前の休憩にいつもやっている、研修生の質問に答える会話をただ録音しているだけ。
今回のテーマは、検定成績表の移動13カ月成績のうち、体細胞情報と授精状況です。時間があれば授精のさらに細かい部分まで踏み込む、という流れで進みます。
牛群検定 乳牛1頭ごとの乳量や乳成分、体細胞数などを定期的に測定・記録し、飼養管理や繁殖の改善に役立てる制度です。データをもとに牧場ごとの課題を見つけられます。
体細胞の3つの数字と乳量損失率の意味
体細胞の欄は、大きく3つに分かれています。体細胞平均と、その横の括弧にリニアスコアがあり、そこから搾乳牛の頭数比率が、少ない・中くらい・多いの順に並んでいます。
注目したいのが「新規」という項目です。今月から体細胞がポンと上がった牛が何頭いるかを示していて、新しく乳房炎になった牛の数を把握できます。
もう1つが乳量損失率です。乳房炎になると炎症で乳腺細胞が傷み、抗生物質や薬で治療しても完全には修復できないという前提があります。
川上 乳腺細胞が痛むんですよね。痛んだのを抗生物質や薬を使ったとしても、その炎症が起こった部位を完全に修復することは不可能なので。
つまり乳房炎になった時点で、その牛の能力は最高まで治っても80〜90パーセント程度に落ちてしまう、と川上さんは説明します。この損失を積み上げて乳量に換算したのが乳量損失率、乳代に換算したのが乳代損失率です。
この数字は、乳房炎を出さない治療をすればどれだけ利益が増えるかを示す目安になります。乳房炎にならないよう頑張ってください、というメッセージが込められた数字です。
乳房炎 乳房が細菌などに感染して炎症を起こす病気です。乳量や乳質が落ち、酪農経営に直接影響するため、予防と早期発見が重視されます。
体細胞平均とリニアスコアの見比べ方
新規で体細胞が上がった牛が出ているということは、その月に何か原因があったと考えられます。研修生は、増えた牛には何かしら原因があるのでは、と確認しています。
研修生 新規で出てるってことは、その時に増えたってことだから、やっぱり何かしら原因があるような。
川上 そうですね。なるべく新規の牛を出さなければ、長期的に見ればちゃんと治ってますし、ちゃんとした搾乳ですよ、というのがわかる気がします。
続いて川上さんは、体細胞平均とリニアスコアの違いを説明します。体細胞だけで見ると、飛び抜けて多い牛が1頭いればバルク全体は跳ね上がってしまいます。
一方でリニアスコアは、群として体細胞の傾向をとらえる数字です。リニアスコアが8前後の高い牛が1頭いても、他が1や2ばかりなら平均は3点台まで下がる、というイメージです。
リニアスコア 体細胞数を対数変換して扱いやすくした指標です。極端に高い1頭に引っ張られにくく、牛群全体の体細胞の傾向を見るのに向いています。
バルク 搾った生乳をまとめて冷却・貯蔵するタンク、またそこにたまった生乳全体のことです。1頭の異常でも全体の数値に影響します。
この2つを見比べることで、体細胞が高いのが牛群全体の問題なのか、特定の1頭の問題なのかを切り分けられます。川上さんが特に危ないと考えるのは、体細胞平均は低いのにリニアスコアが全体的に高いケースです。
川上 体細胞スコアが低いんだけど、リニアスコアが全体的に高いみたいなことになってるところの方がちょっとやばいなと思います。
頭数が少ない牧場ほど1頭の影響が大きい
体細胞の見方は、牧場の規模によっても変わってきます。頭数が多い牧場では、変な牛が1頭いても平均に引っ張られて影響が薄まります。
川上 頭数が多い、50頭ぐらいの規模だと、頭数が1頭ぐらい変なやつがおったとしても、平均に引っ張られていくので。
逆に頭数が少ない牧場ほど、1頭の異常が数字全体に大きく響きます。研修生も、少ない方が1頭の影響が大きいと理解を示しています。
研修生 確かに少ない方が、こう、大きいやつというか。
体細胞数を小・中・大と階級別に分けた欄を見るときは、その月単体ではなく1年など全体の平均で傾向をとらえるほうがわかりやすい、と川上さんは話します。
更新率と比べて体細胞をどう判断するか
体細胞の判断には、更新率も関わってきます。川上牧場の場合、良い牛の平均が61パーセントで、更新率が4割という前提です。
つまり悪い牛を淘汰して更新しても、また4割は健全な牛が上がってくるので、多少の入れ替わりは許容範囲だと考えられます。問題は、更新率で追いつかないほど体細胞の高い牛が多いときです。
川上 高いやつ、228万以上のやつが17パーセントって書いてありますけど、ここが更新率を超えていたらちょっとやばいかなと。
更新率を超えて体細胞の高い牛が占めていると、悪い牛を出しても農場全体の体細胞は下がらない、という状態になります。
更新率 牛群のうち1年間で入れ替わる牛の割合です。淘汰した牛の代わりに育成牛などが入ることで、群の能力や健康状態を維持・改善していきます。
川上さんは、この状況を感染症とワクチンにたとえます。病気の牛が少数派なら経済は回るけれど、牛群全体を占めてきたり更新でも追いつかなくなると、根本的な解決に向かわない限り体細胞は落ちない、という考え方です。
新規感染牛がないように飼うと、あと頭数も、それに伴って少ない方がいいかなと。 ── 川上
授精状況の欄と肉牛交配率のチェック
ここからは授精状況の欄に移ります。左から受精頭数、肉牛交配率、平均受精回数、3回以上率、初回受精の受胎率と開始日、そしてJMRという数字が並びます。
肉牛交配率は、種付けした頭数のうち肉牛(F1や黒毛和牛など)が占める割合です。研修生が、なぜこの項目があるのかと尋ねると、川上さんは計画的に交配できているかのチェック項目だと答えます。
川上 肉牛交配率がいっぱいいると、おやおや、あなたのとこホルスタイン残してないけど大丈夫ですか、っていうね。
F1 乳牛(ホルスタイン)に黒毛和牛などを掛け合わせた交雑種のことです。肉用として販売され、乳牛の後継牛を残すか肉牛を作るかは経営判断になります。
乳牛と和牛を正しく報告する場合、本来は略号式のストロー番号で入力する必要があります。ただ川上牧場では、いろんな会社の種を使うため管理しやすいようにF1をカタカナで入力しています。
川上 うちの場合だとカタカナで種雄名を書いてるんですけど、これはエラーとして見なされます。牛群検定上では。
つまり正確な数字を出すには、決められた略号式でちゃんと入力する必要があります。とはいえ多くの牧場では、この肉牛交配率から、自分のところに後継牛を何パーセント残しているかを逆算して読める、という使い方ができます。
受精回数と「3回以上」が示すもの
平均受精回数は、1頭あたり何回種付けしたかを示します。少ない回数でバシッと当てるのか、数を打って当てるのか、ここにも牧場の個性が出ます。
川上牧場は「数打ちゃ当たる作戦」で、3回以上種付けした牛が非常に多いのが特徴です。川上さん自身が受精を担当しているため、回数が増えても外部委託の経費が上がるわけではない、という事情があります。
川上 うちの飛び切りやべえなって思うのは、この3回以上がめちゃくちゃ多いんですよね。平均が3回以上って。
一方で研修生は、3回以上という数字がその牛の母体としてのコンディションや、種の弱さを示す指標になるのでは、と問いかけます。
川上さんも、受精回数が多いということは、本来ちゃんと排卵していなかったり妊娠できる状態になっていなかった可能性が読み取れる、と認めます。そこから繁殖に影響する乳タンパクの数字が回復しているかを見て、原因を疑うこともあるそうです。
JMR Japan Management Report(牛群検定の管理指標)の略で、ここでは繁殖のアクションが起きているかを示す数字として使われています。値が小さいほど積極的に繁殖管理をしていることを表します。
初回受精の受胎率と開始日で読める攻め方
次は初回受精の受胎率と、分娩後何日目から初回受精を始めたかの開始日です。1回で妊娠が成立するのが理想なので、受胎率は100パーセントに近いほど良いとされます。
開始日は、分娩してから何日目に種付けした結果かを示します。川上牧場は早い牛だと平均38日ほどで、年間平均でも50日と、かなり早いのが特徴です。
川上 普通は60日、70日ぐらいが平均です。うち年間平均でも50ですからね。
一般的には分娩後70日目に初回を行う牧場が多い中、川上牧場では70日までに2回ほど種付けしてしまう、という攻めの姿勢です。分娩後30日や20日台で種付けすることもあるといいます。
研修生は、この開始日には牧場主の個性が出るものの、熱い思いがあれば必ず妊娠するわけではないので、どう経営していきたいかが読めるところだと整理しています。
育成牛の初回授精と早期分娩の考え方
次に、未経産牛(まだ出産していない育成牛)の授精開始期間です。一般には13〜16カ月で種付けすると、初産分娩を迎えるのがおよそ26カ月、遅くとも30カ月以内が平均とされます。
未経産牛 まだ一度も出産していない若い雌牛のことです。適切な時期に初回授精を行うことで、早く搾乳牛として稼働させられます。
川上牧場では、より早く産ませて早く搾ったほうがいいという考えから、11〜12カ月ごろに種付けしています。これはアメリカの発想に近いと川上さんは話します。
川上 うちはそれで、大体11カ月から12カ月ぐらいで種付けしてもらってますね。
研修生も、効率を考えればもっと早くできるのは当たり前かもしれない、と受け止めています。ここでも、数字の並びから牧場が牛の成長に合わせているのか、それとも迷っているのかが読み取れます。
数字が一定であることの意味
授精開始期間の数字が、11・12・13と連番のように推移していれば、牛の成長に合わせて種付けしている印象を受けます。逆に飛び飛びの数字になると、方針に迷いがあるのではと疑ってしまう、という話です。
川上さんは、受精カレンダーであらかじめ組んでしまう牧場が多いため、この項目にとらわれすぎる必要はないと言います。むしろ、ここは数字が一定である方が自然だと整理しています。
研修生 なんかここはある意味、数字が一定な方が、じゃないとおかしいところ。
川上 そうです、そうです。
JMRの計算ルールをかみ砕く
いよいよ中心となるJMRの説明です。前提として、VWP(自発的待機期間)という考え方があります。分娩後、初産牛で80日、経産牛(2産以降)で60日は種付けできない、というのが定説です。
VWP Voluntary Waiting Period(自発的待機期間)の略です。分娩後、体が回復し次の妊娠に適した状態になるまで、意図的に種付けを待つ期間のことです。
この60日または80日を1日過ぎるごとに、JMRが1ずつ増えていきます。たとえば初産牛なら、81日目にJMRが1になり、日が経つほど増えていきます。
川上 60日とか80日を1日過ぎたら、一日過ぎたらですよ、一日過ぎたらJMRが1増えます。
そして種付けをすると、そのタイミングでJMRはゼロにリセットされます。90日目に種付けすれば、10ではなくゼロに戻る、という仕組みです。妊娠鑑定を行った場合もゼロになります。
研修生 そのカウントがリセットされるんですね。
つまりJMRは、繁殖のアクションが起きているかどうかを計算した数字です。値がゼロや1、小数点台で回っている牧場は、繁殖をガンガン攻めているということになります。
逆にJMRが60などになってくると、種付けしてから60日間何もしていない牛がたくさんいる、という状態を意味します。研修生は、これをゆっくりやっていく方針とも言えるのでは、と受け止めています。
JMRが動く仕組み
分娩
初産牛は80日、経産牛は60日の待機期間に入る
↓
待機期間を1日超過
1日ごとにJMRが1ずつ増える
↓
種付けまたは妊娠鑑定
その時点でJMRがゼロにリセットされる
システムの入力と数字の落とし穴
JMRには入力システムの都合による誤差もあります。川上牧場では、繁殖ウェブシステムに入力すると今月の授精記録がJMRに反映されず、成績表上とウェブ上で数字が食い違うことがあるそうです。
川上 その繁殖ウェブシステム、ウェブ上でやると15とかです。システム上の問題なんですけど。
移植した牛などはうまく反映されないこともあり、JMRの数字がずっと同じで安定しているのは、種付けが前後しながらも進んでいる状態とも読めます。逆に一定でないと、間隔を考えて種付けできていない印象を与えます。
研修生は、繁殖に無関心で自然のなるままに飼っている牧場でも、こうした数字を見れば授精回数を増やす相談ができるのでは、と発展させています。川上さんも、乳量や繁殖の相談を受けたときにここを見る、と応じます。
川上 ちょっと繁殖の数字悪いんだよねっていう相談を受けた時は、ここら辺見て、もうちょっと授精回数増やしてみましょうか、そういう相談ができるかなという気がしますね。
受胎率100パーセントの怖さと報告の癖
数字を鵜呑みにできない例として、受胎率100パーセントの話が出ます。何回か種付けしても、妊娠した回だけを報告する牧場があるため、受胎率がずっと100パーセントに見えてしまうことがあるのです。
研修生 その100パーセントは100パーセントで怖いですもんね。ずっと100パーは。
だからこそ、どこでカウントされ、どこでリセットされるかというルールを理解しておくことが大事だ、と2人は確認します。データを何年も残していく中で、報告の仕方が数字の信頼性を左右します。
AT検定とA4検定、公式データの線引き
報告の正確さに関わるのが、検定の種類の違いです。AT検定は検定員が立ち会って確認するため、サンプルの取り方や時間が正確に担保されます。
AT検定 検定員が立ち会って乳量やサンプルを確認する公式の牛群検定です。データの信頼性が高く、種牛成績などの公式記録として扱われます。
一方、検定員が立ち会わない自家検定(A4検定)のデータは、種牛成績などの公式記録には使われません。川上さんは、仮に自家検定で世界記録級の牛が出ても公式にはならない、と説明します。
川上 A4検定で世界記録が出た牛がもしうちにいたとして、それの世界記録は公式にはならないです。
ただし川上さんは、それでも自家検定には一理あると言います。あくまで自分の経営をよくするための牛群検定だからです。公式かどうかより、自分の牧場をどう良くするかに使えるかが本質だ、という立場です。
川上 でもそれも一理あるんですよ。自分の経営をよくするための牛群検定なので。
1枚目だけで牧場の長所と短所を読む
今回は成績表の1枚目だけを見るというルールで進めてきました。川上さんは、2枚目3枚目を見れば理由はすぐわかると言いつつ、まずは推移を見て全体をとらえることの大切さを強調します。
川上 それにしても推移を見て、全体を捉える。そんな感じがいいんじゃないかなと思いますね。
研修生は、同じ個体を見ている平均なので、すべての数値がつながっていないとおかしい、という感覚を口にします。ある数字が下がれば別の数字が上がるはずだ、という見方です。
研修生 下がったから何かの数値が上がらなあかんし、何かが上がってんねんから、何かの数値も一緒に上がってないとおかしいし。
川上さんは、移動13カ月の中段でその農場の長所と短所がパッと見えて、原因は個別で見ていくとわかるという読み方をしていると締めくくります。
移動13カ月でこの農場の長所と短所がパッと見えて、その原因は何なのかっていうのが個別で見ていくとわかる。 ── 川上
まとめ
牛群検定の1枚目は、体細胞と授精状況の数字から牧場の健康状態と繁殖方針を読み解く道具です。数字の意味とルール、そして報告の癖まで理解して、推移で全体をとらえることがポイントでした。
- 体細胞は体細胞平均とリニアスコアを見比べ、群全体の問題か個体の問題かを切り分ける
- 体細胞の高い牛の割合は更新率と比べて判断し、更新で追いつかないと農場全体の体細胞は下がらない
- JMRは待機期間を過ぎると1日ごとに増え、種付けや妊娠鑑定でゼロにリセットされる繁殖アクションの指標
- 受胎率100パーセントや入力ルールの違いなど、数字だけでは読めない報告の癖に注意する
- 1枚目の推移で牧場の長所と短所をつかみ、原因は個別データで確認していく