川上牧場研修【牛群検定成績(検定日乳量階層・月別分娩予定頭数)】
2021-04-23 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
この回は、牛群検定成績の泌乳曲線と月別分娩予定頭数の具体的な読み方から始まり、数字を「テストの点」ではなく経営の道具として使う姿勢まで、幅広く語られた回でした。
この回の要点
- 泌乳曲線とLP(泌乳持続性)で群全体をつかみ、体細胞や乳脂肪の急な変化から餌を見直す
- 同じ作業を続けてこそデータは生き、1日単位で変えることと1年続けることを切り分ける
- 血液プロファイリング・成績表・分娩予定頭数を秋に見て、翌年の作戦と餌を決める1年サイクル
- 50頭規模なら月4頭・年間更新20頭が目安。分娩の山谷や頭数の凸凹を導入と販売で調整する
- 成績表はランクづけのテストではなく、「何をしたいのに、これができていない」を見る道具として使う
配信の全文(podyの記事より)
搾乳前の休憩でやる「牛群検定のお勉強」
この回は、川上牧場が研修生向けに続けている音声記録の1つです。搾乳前の休憩に、研修生からの質問に答える会話をそのまま録音するスタイルで進んでいきます。
今回のテーマは牛群検定成績の1枚目、下段にある「検定日乳量階層」と「月別分娩予定頭数」です。夕方が休みということで、朝のうちに勉強しようという流れで始まりました。
牛群検定 乳牛1頭ごとの乳量や乳成分、繁殖状況などを定期的に検査・記録し、成績表としてまとめる仕組みです。群全体の傾向や個体の状態を数字で把握するために使われます。
泌乳曲線とLPで群全体をつかむ
川上さんがまず注目するのは泌乳曲線です。グラフの線がどう推移しているかで、群全体の状態をつかむと話します。
検定日乳量階層は、分娩からの日数を21日以下、22〜50日、100日、200日、300日以上と区切ってグラフ化したものです。頭数や標準乳量、平均乳量が階層別に並びます。
川上 一番自分が使ってるのはやっぱ泌乳曲線ですね。このグラフになる線がどういう推移になっているのかっていうので、群の全体を捉えるという感じでやってます。
グラフの一番上にある「MAX」はピーク乳量で、その群で一番出た乳量の平均値です。「DAY」はそこに至るまでの日数、「MID」は平均を指します。
そして川上さんが特に見ているのが「LP」、泌乳持続性の数字です。LPが高いほど、乳量が落ちにくい牛群だと一目でわかります。
川上 他の牛群検定成績と比べてみて、うちのLP95っていうのは「え?」ってざわつくんですよ。僕はここを改良してるので。
泌乳持続性(LP) 分娩後にピークを迎えた乳量が、その後どれだけ落ちにくく高い水準を保てるかを示す指標です。この値が高いと、餌を変えずに安定して搾れる期間が長くなりやすいとされます。
LP95という数字は、どう作られたのか
研修生は、LPの数字を上げようと思ったらどこを上げるのかと尋ねます。
Q
LPの数字を上げようと思ったら、どこを上げるんですか。
A
回答
川上さんによると、泌乳持続性が高い牛を選ぶこと、そして寿命の高さがカギになります。泌乳持続性が高い牛は寿命が長いと言われるため、海外の指標であるネットメリットのあたりを上げていくと、LPも高くなっていくとのことです。
川上 泌乳持続性が高い牛をやるのと、まあ大体泌乳持続性が高い牛っていうのは寿命が高いと言われているので、そこら辺を上げていくと、この数字が高くなるよという。
ただし、一概には言えないと川上さんはくぎを刺します。乳量とのバランスを見ないと、乳量が出過ぎて餌が追いつかず、泌乳曲線がグジュグジュに崩れてしまうからです。
川上 自分の飼いやすいやつで乳量がこれぐらい出るからこれぐらいにしようかなみたいな。いろいろ考えた結果がこれです。大成功ですね。私自身の改良方針です。
その結果、川上牧場では産んでから乾乳にするまでずっと餌を変えずに飼うことができる状態になっています。乾乳も30日乾乳で、TMRやPMRを変えなくてよいそうです。
ネットメリット 主にアメリカで使われる、乳牛の総合的な経済価値を示す遺伝評価指標です。乳量や乳成分だけでなく、寿命や繁殖性などを金額換算してまとめた値とされています。
体細胞や乳脂肪の「急な変化」から餌を見直す
階層別のグラフは、全体をつかんだうえで気になる個体をチェックする道具にもなります。
川上さんは階層順にチェックしていき、体細胞が高い個体が毎回ポンと上がる傾向があれば、その管理や餌のバランスが悪いのではと疑います。乳脂肪が急に下がるところがあれば、そこをカバーできる飼い方はできないかと考えるそうです。
川上 うちの場合だと、牛群の改良方針がずっと自分の目標値に向かっていくんで、大体数字がおおよそわかりやすいんですけど。
一方で、自家育成ではなく導入牛が主体になると、牛の個体がバラバラになり、平均を取っても読みにくくなると話します。
「平均値」だから見えること、見えないこと
研修生は、この数字だと「初産はこうなる」と一概には言えないのでは、と確認します。川上さんも全然言えないと答えます。
研修生 一概にこれ、初産はこうなるとかって言えないですよね。今年はこんな感じになったか、今月こんな感じにまとまったかみたいになっちゃうってことですよね。
導入牛メインだと、出ていない牛や極端に出ている牛がいると、グラフはその中心を通ろうとして一定になりません。ここは個体値ではなく平均値だからこそ、と研修生は整理します。
川上 でも全体を見て、牛群検定の成績表として経営全体と見て、そういう数字が推移してるっていうのは、別に問題がなければ問題はないので。
つまりこの数字は、かっこいいとかダサいとかいう話ではないという理解です。頭数が少ないと、たとえば10頭のバラバラな牛の平均ではグラフが大きくぶれてしまいます。
フリーストールなのに「綺麗な数字」が並ぶ理由
話は、以前見せてもらった北海道の牧場の成績表に移ります。フリーストールでロボット搾乳なのに、数字がとても綺麗に並んでいたそうです。
フリーストール/ロボット搾乳 フリーストールは牛が自由に動ける牛舎形式で、群単位での飼養管理になります。ロボット搾乳は搾乳を機械が自動で行う方式です。個体ごとの細かい管理が難しくなりやすいとされます。
導入を確実にしているにもかかわらず数字が綺麗になるのは、牛を買うときに「この牛はいける」とちゃんと見極めて、似た牛を揃えているからだと川上さんは受け止めます。
川上 フリーストールなのにここの数字が綺麗にバーッとなってるっていうのは、やっぱ経営努力とか、牛を買う時にちゃんと見れるよねって。すげえなって思った。
研修生 こういうチームにしたいぞっていうのが、曲線になって表れるというか。
データを生かすには「同じことを続ける」しかない
研修生は、それぞれの牧場が前搾りや拭き取り、後搾りといった作業を決まった順番で続けているからこそ、データが意味を持つと気づきます。
研修生 それぞれの牧場の順番通りにやってるからこそ、このデータとして生きてくるじゃないですか。改めてこう、一緒のことをある意味しないと。
川上さんも、毎月いろんなことをやっていたらデータが取れないと同意します。
川上 毎月毎月いろんなことをやったりすると、もう全然データが取れない。
そこで研修生は、すぐに対処すべきことと、1年は同じことを続けて考えるべきことを切り分ける必要があると話します。感覚ではわかっていても、どこかで抜けていく気がするからです。
血液プロファイリングから始まる1年サイクル
川上さんは、この切り分けを1年のサイクルとして回しています。
夏明けの秋、10月ごろに全頭の血液プロファイリングを行い、その結果と1年間の牛群検定成績、来年の分娩予定頭数を見て、来年の作戦を立てます。そのうえで冬から春先に餌を確定し、1年間やってみるという流れです。
血液プロファイリング 牛の血液を検査して、栄養状態や代謝の状態を把握する手法です。餌の設計が牛の体に合っているかを確認し、飼料メニューの見直しに使われます。
川上 血液検査を見て、1年間の牛群検定成績表を見て、来年の分娩頭数を見て、どういう作戦でいこうかなってやって、餌を決める。それを毎年やってるんで。
だからこそ、1日単位・1か月単位で変えていいことと、変えるとデータを取る意味そのものを薄めてしまうことを区別する必要がある、と研修生はまとめます。
変えたらそもそものこのデータを取る意味合いを薄めちゃうことになる。 ── 研修生
ミーティングだけでは「方向」は揃わない
研修生は、せっかくデータを取るなら薄めない行為も必要で、そうしないと間違った情報に踊らされてしまうと話します。読み取る力だけでなく、日頃の作業の意味を学ぶことが大事だという流れです。
川上さんは、毎月ミーティングをするのは大事だとしつつも、それだけで全員が同じ方向を向くかには疑問を持っています。
川上 上から言われるからやってるけど、上の人は必死に「どうしよう、どうしよう」ってなってる。そういうデータが出てるとこを見たことありますね。
研修生は、数字にどう反応するかは立ち位置によって違うと指摘します。1年でコロコロ変えたら困るところは動かさず、いつもより少し上がっていることは認識して止める、といった感覚を牧場全体で共有できないと、一緒には変わっていけないと考えます。
研修生 家族で共有してる部分が多いが故に「分かるやろう」ってなる。でもやっぱりそれじゃわからへんくて。
すぐ直したいときは「標準乳量」を見る
階層別のグラフは、全体を見ながら推移を追い、個別を見ていくための道具だと川上さんは改めて整理します。
そのうえで、直近ですぐ直したい場合は標準乳量を見るのがよいと言います。標準乳量が急激に下がっているところは、何かおかしいサインだからです。
川上 直近ですぐ直したいと思う場合は、やっぱ標準乳量を見てもらった方がいいですね。グラフの標準乳量が急激に下がってるところ。
川上牧場では、2産のところで標準乳量に対する飛び出し乳量が明らかに少ない方向に出ていて、そうした個体もグラフに現れているそうです。本来、標準乳量は後半に向けてどんどん増えていくはずだと説明します。
「一時の70キロ・100キロ」を信じすぎない
種雄牛自体が泌乳持続性を高める方向に改良されてきているため、何もしなくても曲線はそうした形に近づくはずだと川上さんは話します。10年、15年、20年前の曲線と比べれば、確実に変化しているだろうとのことです。
そのうえで、一時点の乳量だけを自慢する話には慎重です。
川上 うちの牛は70キロ出た、100キロ出たって、一点だけ自慢されるんですけど。305日はどうなのか、生涯乳量はどうなのかって見た時に、おやおや?って思う。
305日乳量/生涯乳量 305日乳量は、1回の泌乳期間を305日に区切って計算した乳量です。生涯乳量はその牛が一生の間に出した乳量の合計を指します。どちらも一時点のピークより、長い目での実力を示す数字とされます。
「うちの牛はよう出る」を鵜呑みにしない
話は、数字で裏づけを取ることの大切さに広がります。牛群検定をしていない農家が「うちの牛はようけ乳が出る」「繁殖成績がすごくいい」と言っても、川上さんはそのまま鵜呑みにしないと話します。
川上 本当にそのデータ、信頼できて取れてるの?って思うんで、あんまり鵜呑みにしないです、僕。
研修生も、人の視点ほど信用できないものだと感じています。誰かに「あの餌ですごく乳が出た」「あの映画やばいから見て」と先に言われると、実際の見え方が引っ張られてしまう、という話です。
研修生 ほんまにフラットな視点で見ようと思ったら、あくまで数字を淡々と並べるしかない部分もある気がして。
営業マンの試験データも「全部読む」
川上さんは、商品の元になった試験分析のデータを営業マンに全部持ってきてと頼むそうです。大量に並ぶデータも全部読み、書いていない使い方ができないかまで考えます。
川上 そんなん読めないでしょって農家さんは言うんですけど、僕こういうのが大好きなんです。
海外では認可されているが日本ではまだの動物医薬品が、数年遅れで認可される例もあると川上さんは話します。乳房炎ワクチンのスタートバックがその例だとして、海外文献もよく読むそうです。
スタートバック 牛の乳房炎対策として使われるワクチンの1つです。ここでは、海外で先に使われていたものが日本でも後に認可された例として挙げられています。
ただし、これは全員に必要な作業ではないとも付け加えます。信頼できる営業マンがいるなら、その説明で判断してもよいという立場です。
月別分娩予定頭数で「経営が回っているか」を見る
後半は、成績表の下段にある月別分娩予定頭数の話です。ここでは更新率や淘汰率、分娩がうまく回っているかがわかります。
川上さんは、50頭規模での目安を具体的に示します。1年1産で年間48頭産ませるとして、12か月で割ると1か月に4頭ずつ生まれればよい、という計算です。
50頭規模の分娩ペースの考え方
1
年間の目標産次
1年1産を目指し、年間48頭ほど産ませる
2
月あたりに割る
48頭を12か月で割ると、1か月あたり約4頭
3
毎月チェック
ひと月ごとに4頭前後生まれているかを見る
さらに更新率でも計算します。経産牛50頭で更新率4割なら、年間20頭の初産牛が必要です。20頭を12か月で割り、毎月1〜2頭ずつ初産牛が上がってくる推移になっているかを見ます。
川上 初産牛が20頭ずっと上がってくるような推移になっているかっていうのを、ここで見ることができます。
山谷なく回っているか、頭数の凸凹をどう調整するか
川上さんは、分娩に大きな山や谷がなく、経営がずっとうまく回っているかをこの表で見ます。
表の11月がゼロなのは繁殖に問題があるわけではなく、種付けの記録が繁殖ウェブシステム上で1か月遅れて反映されるため、まだ入っていないだけだと説明します。ほんとうにゼロなら、それは空胎を意味するので恐ろしい、とも話します。
頭数が少ない月は北海道から導入し、多い月は少し売ってもいい、という形で凸凹を調整します。全部が思い通りに、雄雌もそろって生まれるわけではないからです。
川上 経営がうまく回るかなというのがここでわかります。繁殖がうまく回ってるかなっていうのも、ここら辺でわかります。
夏は避けたい。でも「半年」も避けられない
研修生は、産むときは体力を使うので夏は避けたいのでは、と尋ねます。ベストは涼しい時期かという問いに、川上さんの答えは単純ではありません。
川上 9月分娩も夏場に泌乳期を迎えている牛なんで、ダメージひどいんですよね。9月も暑いから、結局なんやかんやで。
夏を避けようとすると、前後で半年ほど牛を考慮しなければならなくなり、現実的ではありません。日本のようにはっきりした四季があると、どの時期にも一長一短があるという話です。
イージーブリード 話の中で触れられている、季節を絞って繁殖・分娩を行う考え方を指しています。二季程度の気候の地域で、特定の時期にまとめて種付け・分娩する運用のこととして語られています。
そこで川上さんは、自分なりの落としどころを持っています。暑くなる7月までに妊娠牛比率を80パーセントを超えたいというのが基本方針です。
川上 夏場に種がつかないので、頑張っても受胎率が落ちてしまうので、それまでに全部種をつけてしまおうとは思ってますね。
「暑さには勝てない」と認めたうえでやる
受胎率が上がるだろうと思うことは試してみる。それでも暑さには勝てない、と川上さんははっきり言います。
川上 もう勝てないです。もう暑さには勝てない。戦おうとしても無理って思っちゃってるのは、ちょっとダメかなと思いますけど。
前の年の夏は本当にひどく、牛が口から泡を出し、明日死ぬんじゃないかと思う個体が牛舎にたくさんいたそうです。山陰は特に湿度が高く、抜けないと話します。
研修生は、設備を入れれば解決するという単純な話でもないと受け止めます。何をするにしても、1年の循環の中で考えるしかない、というところに落ち着きます。
どの土地で牛を飼っても「すごい」
話は、地域ごとの気候の違いに広がります。川上さんは、北海道で牛を飼うのは本当にすごいと感じています。
川上 よく北海道で牛飼ってんだって本当に思いますよ。最高気温も最低気温も叩き出すし。自給飼料が豊富で有利だねとか、僕には考えられない。
どの土地にもメリットとデメリットがあり、九州でも沖縄でも、どこで飼ってもすごいと川上さんは言います。自分がその土地で経営者としてやれと言われても無理だと感じるからです。
気候の悩みを一瞬で埋めるSNS
地域ごとの強みや弱みを知りたいという話から、川上さんはSNSの強さに触れます。
自分がいま気候で悩んでいることを、九州の人たちは10年前から当たり前のようにやっていたりする。SNSがあれば、そうした知見が一瞬で共有されると話します。
川上 僕がすげえ今悩む、気候で悩むことを、九州の人たちはもう10年ぐらい前から当たり前だよぐらいの感じでやってたりするんで。
研修生は、地震や津波のあとに対策が広がるのと同じで、自分が困っているのは一人だけじゃないと気づける点にSNSの意味を見ます。しかも高価なものを買う話ではなく、こうすればいいという単純な工夫だったりもする、と続けます。
去年の作戦が当たった「春産み」
川上さんは、去年の作戦がうまくいった例を挙げます。4・5・6月組の春産みが非常に多く、6月には4トンも取れたそうです。
川上 去年の作戦がうまくいったんで。4・5・6月組、春産みがすっごい多かったんで、6月なんて4トンも取れてる。
研修生は、6月の分娩は7〜8月に種付けした牛だと逆算します。9月に7頭いるのを見て、その8〜10か月前が忙しかっただろう、と成績表から読み取っていきます。
この表は「テストの点」じゃない
研修生は、月別分娩予定頭数の部分は数字の羅列で見やすいから、やった人がなんとなく反応しやすいのだろうと話します。そこから、成績表をどう捉えるかという核心に入っていきます。
研修生自身の体験として、中学生のころ、簡単な計算問題を含む数学のテストで0点を取った話を挙げます。0点は隠して自分を守ればいい、けれどこれはテストではない、というのがポイントです。
これテストじゃないから。テストだと思ってると思いますよ、みんなこれ。 ── 研修生
牛群検定成績をテストの点のように捉えると、低い数字は「自分の能力がない証明」に見えてしまう、と研修生は指摘します。だから多くの人が数字を出したがらない、という見立てです。
研修生 なぜあなたに私たちのあれを見せますか。私は毎日自分で見てるし、分かってますんで結構です、みたいな。それじゃ理解は進まんし、現実と乖離していくかもしれない。
数学の紙だけど「国語的」に読む
研修生は、成績表を数学的に見えて実は国語的なものだと表現します。数学のテストなら正解・不正解があるけれど、この表は「感想」に近い読み方もできる、という話です。
研修生 これは数学っぽく見える紙やけど、国語的でいい。感想は?って言われたら何でもありで、無回答もむしろ回答、っていう感覚で見ないと。
数字を数学的にしか読めないと、やっている側も理解できず、意味がなくなってしまう。むしろ何も知らない人のほうが素直で、やっている人ほどテスト感にとらわれているのでは、と研修生は感じています。
平均点との比較しか生まない「出し方」
研修生は、牛群検定の説明の仕方そのものにも問題があると考えます。「牛群の何々が分かります」と打ち出したり、組合が平均値を出したりすると、自分の点数と比較するしかなくなるからです。
研修生 平均点これだよって出されると、自分の点数と比較するしかないから。これ低いわ、俺めっちゃ高い、みたいになるやん。
乳量を出すことをメインに作られてきた指標であること自体は否定しません。ただ、そこだけを見つめて突き進むと、これからは茨の道になるのでは、と研修生は危ぶみます。
テストの点で「お前はCランク、君はSランクだ」って読めてしまう部分もあるわな。 ── 研修生
「何をしたいのに、これができてない」で見る
研修生が大事にしたいのは、ランクづけではなく、目的から逆算した読み方です。何をしたいと思っているのに、これができていない、という見方です。
研修生 これを元に何ができるんかなって。何をしたいと思ってるのに、これができてない、っていう見方。
さらに、人はできていないところばかり気にして、自分の良さに気づけていないことが多いとも話します。何もしていないつもりでも、普段の餌のやり方が人と違うといった「普通のすごさ」があるからです。
意外にやっぱ自分の良さも気づけてなかったりするから。 ── 研修生
うがった見方と戦わない
川上さんは、成績表をSNSで部分的に見せることはあっても、全部をバーンと出して終わりにはしないと話します。見る人が見ればわかってくれる、という前提です。
川上 「あんなこと言ってるのに乳量少ねえじゃん」とか、うがった見方をされる。僕そこ目指してないしっていう話やし。
研修生も、そうした批判に全部戦っても仕方がないと同意します。分かり合えない相手と数字で戦うより、成績以外の部分でおしゃべりや交流をしないといけない、という方向です。
「思ってる自分」と「行動が示す自分」
研修生は、人の言葉より、その人が取ったアクションのほうが正確だと感じています。牛のことを検索している人と、していない人。その行動が、その人が何に興味を持っているかを示すからです。
研修生 牛好きやねん俺って言ってて、牛を検索してない人は、多分別に牛には興味ない、みたいな捉え方もできると思うんですよ。
そのうえで、自分が思っている自分と、行動が示す自分にはズレがあると研修生は言います。もし自分が経営側になったら、嫌なぐらいそれが数字に出るだろう、と。
川上 適当に牛飼ってるみたいな人でも、ここだけは数字が綺麗だったりすると、ちょっと感動したりする。すげえなって思って。
けなし合いより、褒め合える場所を
研修生は、けなし合う場所は必要ないと話します。けなすことはいくらでもできるからこそ、「この数値やばい」と褒め合えるところに価値を置きたい、という考えです。
例として、SNSで見た廃用牛の単価の投稿を挙げます。8産まで乳量を出してもらった牛が高い単価で売れた投稿に、「うちは600円です」といったコメントがつく。数字に触れていなくても、わかる人には「そこを見るのか」が伝わる、という話です。
動物保護と労働環境、対岸のせめぎ合い
研修生は最近、動物保護団体の発信や、飼うトレーナーをめぐる議論をよく見ているそうです。牛はこういう環境で飼われている、という言い方をめぐる主張のぶつかり合いです。
どちらが良い悪いというより、流行り廃りもあると研修生は見ています。動物を守る発信がよく見える時期もあれば、人の労働環境の話が目立つ時期もある。見る人の立場で、印象は変わっていくという話です。
指針は変わりうる。だから「自分のやり方」を
川上さんは、この成績表が示す指針そのものが変わりうると話します。もし乳量が出ているのはダメだ、と生産調整の方向になったらどうするのか、というわけです。
川上 いきなりこのテストが指針を変えます。乳量出てるのちょっとダメだからって生産調整になったらどうすんの、っていう話で。
だからこそ大事なのは、自分がやりたいやり方をやれているかどうかです。研修生も、みんなの平均ではなく個人のベースに対して、うまくやれているかにフォーカスを当てたいと話します。
個人のベースがあって、そのベースに対してうまいことやれてますよね、やれてませんよね、の話にフォーカスを当てたい。 ── 研修生
楽しんで仕事できる人を増やしたい
最後に話は、酪農に限らない働き方に広がります。研修生は、楽しんで仕事ができている人は少ないと感じています。
酪農家は外から熱量が見えないと言われがちですが、熱量はあるし楽しんでもいる。ただ、そう見える人の比率が少ないだけだ、というのが研修生の見立てです。
研修生 酪農家として、ざっくり見た時にそうは見えないのは、やっぱり比率として少ないから。そういう人は。
なぜ楽しめるのかは性格の問題ではなく、真似するところを真似していないだけではないか、と研修生は考えます。楽しみながら働ける人の比率が増えれば、面白いことがもっと生まれるはずだ、という言葉で締めくくられました。
面白いことがいっぱい生まれるんかなと思いますけどね。 ── 川上
まとめ
この回は、牛群検定成績の泌乳曲線と月別分娩予定頭数の具体的な読み方から始まり、数字を「テストの点」ではなく経営の道具として使う姿勢まで、幅広く語られた回でした。
- 泌乳曲線とLP(泌乳持続性)で群全体をつかみ、体細胞や乳脂肪の急な変化から餌を見直す
- 同じ作業を続けてこそデータは生き、1日単位で変えることと1年続けることを切り分ける
- 血液プロファイリング・成績表・分娩予定頭数を秋に見て、翌年の作戦と餌を決める1年サイクル
- 50頭規模なら月4頭・年間更新20頭が目安。分娩の山谷や頭数の凸凹を導入と販売で調整する
- 成績表はランクづけのテストではなく、「何をしたいのに、これができていない」を見る道具として使う