川上牧場研修【牛群検定成績表(移動13カ月成績・管理状況・経産牛1頭当たり年間成績)】
2021-04-21 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
今回は、牛群検定成績表の「管理状況」と「経産牛1頭当たり年間成績」を、教科書どおりの基準ではなく、自分の牧場のやり方とリンクさせて読む見方を、川上牧場の川上さんが研修生と語り合いました。数字は一律の正解ではなく、傾向を読んで全体から個別へ落とし込む道具だという話でした。
この回の要点
- 妊娠牛や空胎日数、乾乳日数は「何日だからアウト」ではなく、牛群全体のバランスと傾向で読む
- 乾乳は45〜60日が効率的とされるが、自給飼料や経営状況しだいで長く搾る選択もある
- 経産牛1頭当たり年間成績(305日成績)は予測値ベースで、川上牧場のような特殊な飼い方だと実測値と乖離する
- 乾乳60日を前提にした成績表は便利だが、その枠組み自体を疑って読むと改善点が見えてくる
- 他所の大きなデータより、自分の牧場のデータを蓄積し、行動と数字を結びつけていくことが経営の土台になる
配信の全文(podyの記事より)
休憩中の録音で伝える、今日のテーマは成績表の「中段」
この回は、川上牧場の川上さんが研修生に牛群検定成績表の読み方を教える様子を、搾乳前の休憩中にそのまま録音したものです。研修生以外の酪農に興味がある人や、酪農をやっている人にも「自分が思う酪農」を伝えたいという思いで続けている配信だそうです。
今回取り上げるのは、成績表の中段にある「管理状況(除籍牛を含む)」と、いちばん右の「経産牛1頭当たり年間成績」の2つです。
川上 ちょっと暑いのでサイレン(換気)をつけているのでうるさいかもしれないですけど、ご勘弁を。
川上 質はこだわってないので。
牛群検定 乳牛1頭ごとの乳量や乳成分、繁殖状況などを定期的に検査・記録し、成績表としてまとめる制度です。牧場の経営管理や改良の判断材料に使われます。
管理状況の中身は?妊娠牛と牛群妊娠率の見方
まず管理状況の項目です。左から妊娠牛の頭数と平均、そして空胎日数の短い順に59日以下・85日・115日・145日といった階級別、さらに乾乳日数が並びます。
妊娠牛が大事なのは、今日種付けした牛が8〜9カ月後に分娩を迎えるからです。牛群の妊娠率をある程度一定にしておかないと、乾乳と搾乳の回転がうまく回らなくなります。
空胎日数 分娩してから次の妊娠が成立するまでの日数のことです。短いほど繁殖のサイクルが順調に回っていることを示します。
牛群妊娠率は「経産牛頭数分の妊娠牛」で計算できます。川上さんは、うちだったら5割を切るか切らないかぐらいのところでいきたいと話します。
ただし、この成績表の妊娠牛頭数には育成牛(まだ産んでいない牛)は含まれていません。
川上 これ(妊娠牛頭数)プラス育成がいたら育成を考えて回せばいい。うちだと年平均26頭ですけど、育成にプラス10、去年だと20頭いるので46頭ぐらいになる。
川上さんによると、経産牛と育成を合わせて46頭になり、1年1産で牛群が回っていれば、健全な状態が見えてくるといいます。
空胎日数はどこに偏っている?数字から管理を疑う
空胎日数の平均も、安定していたほうがいいと川上さんは言います。種付けが一気に続くと妊娠牛が急に増えて、あとで谷ができてしまうからです。年間で160〜180日、200日以内あたりで安定していればまずまず、という感覚です。
階級別の空胎日数は、どこに偏っているかを見て管理を疑う材料になります。59日以下が少なければ乾乳期の管理を、もう少し長いところが少なければ泌乳後期の管理を、といった具合です。
研修生 もうこれで一概に、何日だからアウトという話ではないですね。
川上 そういうことじゃないですね。
一方で、115日を超えてずっと種がついていない牛もいます。川上さんは、泌乳曲線が下がらずに搾れているなら、それはそれでありだと考えています。
川上 (115日を超えても)泌乳曲線として全然乳量が下がってないやつをずっと搾るのはあり、僕にとっては。
研修生 あるところはバコーンと上がってバコーンと下がるから、もっと数字的に変わるということですよね。
ただし、長すぎる牛は牛群全体の繁殖指数を悪くするので、淘汰の対象になり得るとも話されています。この階級が大きすぎると、種がついていない牛ばかりで牛群が回らず、牛が減ってしまうサインにもなります。
数字の乱れは牧場内の出来事とリンクしている
川上さんは、空胎日数の傾向は季節や気候だけでなく、牧場内で何をやったかとリンクして読むべきだと言います。数字がブレブレになっているときは、餌のロットや品質の変化、発情発見のスタッフの技術の変化などを疑うそうです。
研修生 (季節や気候もあるけど)何よりも牧場内で行ったこととリンクしてるかというところが、いろいろ読み取れそうですよね。
具体例として、和牛の相場が高かった時期に、経産牛へ和牛の受精卵移植を全頭に行ったことがあるそうです。受胎率が落ちるため、その時期の数字はひどく悪化しました。
川上 和牛で副産物収入は上がるんだけど、自分のとこの牛乳が搾れないと経営が回らないじゃないですか。
川上さんは、牛乳生産という土台があってこその副産物だと考えています。数字を見ながらバランスを取り、ここまでやったら和牛はやめて人工授精に切り替えよう、といった判断もこの成績表からできると話します。
受精卵移植(ET) ある牛から採った受精卵を、別の牛(受け手)の子宮に移す技術です。乳牛に和牛の受精卵を移せば、乳牛から和牛の子牛を産ませることができます。
乾乳日数が長い=悪い、とは限らない
続いて乾乳日数の項目です。ここが長く、かつ乾乳期間も長い場合は「種付けが遅すぎませんか」となりますが、乾乳日数が短ければ牛群はまずまず回っている、と川上さんは説明します。
研修生 空いてる時(空胎)と乾乳を足して引いたら動いてる、になるわけやから、単純に少ない方がいいという言い方はちょっと違う。
川上 そうそうそう、掴めるなっていう。
つまり空胎と乾乳の日数を足せば、牛群がどれだけ効率よく動いているかの目安がつかめる、というわけです。
管理の仕方によって数字の並び方も変わります。牛ごとに乾乳日数を変えているとバラバラになり、一律に決めている人は数字がきれいに揃うと川上さんは言います。
乾乳は何日がいい?効率が一番いいのは60日
研修生が、乾乳は60日ぐらいが真ん中で、川上さんは30日と短めにしていること、逆に90日以上だと相当休ませていることになる、と整理します。
川上さんによると、生産効率がいちばんいいのは45日から60日とされています。休ませすぎると牛乳が出ない分のエネルギーが体に回り、脂肪がついて乳腺細胞の効率が悪くなるからです。
研修生 マラソンと一緒で、100メートルバーンと走って休んで、また100メートル走る人の方が体力を消耗するじゃないですか。
川上 4カ月ぐらいの乾乳はまあまあ許容範囲ではあるかなと思います。牛を太らせなかったりすれば。
一方で、乾乳を長くするメリットもあります。自給飼料が食べさせられる状況なら、廃用にせずその牛を使い続けたほうがいい、という考え方です。
川上 子牛を産ませて大きくなるのに2年かかるわけですから、乾乳期間を半年取ったとしても、(廃用にするより)全然そっちの方がいい。
つなぎ牛舎の利点は「個別管理」できること
乾乳期間を柔軟に管理できる背景には、牛舎の形式もあります。川上さんは、つなぎ牛舎の利点は牛を個別管理できる点だと話します。
川上 フリーストールで乾入車(乾乳中の牛)とかがあるところだと、もう好きなだけ餌を食べちゃうので、ブクブク太っちゃう。
フリーストールでは食べられる牛は食べ、食べられない牛は食べられず、牛ごとの個性が出やすくなります。つなぎ牛舎ならそこを一頭ずつ調整できるわけです。
つなぎ牛舎とフリーストール つなぎ牛舎は牛を1頭ずつ定位置につないで飼う方式で、個体ごとの餌や管理を細かく調整しやすいのが特徴です。フリーストールは牛が自由に動き回れる方式で、給餌の個別管理は難しくなります。
一方で川上さんは、乾乳日数をじっくり見たことはあまりないとも話します。世間一般では60日や45日が多いので「こんなものだろう」と思ってきたけれど、突き詰めれば経営が良くなる点が隠れているかもしれない、という余地も残しています。
500日搾って採卵2回、乾乳400日という特殊なケース
川上さんは、みんなが気にしないところこそ見る価値がある、として自身の特殊な例を紹介します。優秀な初産牛を約500日搾り、乳量が20キロ以下になったところで乾乳に入れ、そこから採卵を2回、さらに人工授精をしてから乾乳に入れた牛がいたそうです。
川上 実質、乾乳期間が2カ月足す2カ月で120日、それに280日を足して、400日乾乳とかは。
研修生 これはもう超特殊なケースですよね。
川上さんは、これが本当に儲かっているのかどうかは全然わからない、と正直に話します。研修生は、成績で全部がわかるわけではないにしても、どこで儲かってどこで負担しているのか、そのバランスを常に確認しておきたい、と応じます。
研修生 意外に自分のバランスって見えてないなというところは、こういうデータで超える。
推移が見れる、一年間の傾向が見れるっていうのが強いですね。 ── 川上
経産牛1頭当たり年間成績は「上がっていないとおかしい」
ここから、いちばん右の「経産牛1頭当たり年間成績」に入ります。これは1年間の成績の推移を示す項目です。
川上さんによると、普通は種付けをして更新牛が上がってくるので、管理を変えなければ経産牛の能力が上向きに推移していないとおかしい、といいます。
川上 管理を変えなければ、ここって普通に推移して上向き上昇じゃ、上がってこなけりゃおかしいんですよね。
この年間成績は、項目別種牛成績などと見比べながら、自分の牧場の成績が上がっているかを確認する場所です。さらに全国平均・組合平均・県平均と比べて、自分がどの位置にいるかもここで見られます。
予測値と実測値の「乖離」が語ること
計算法には注意点があります。年間成績はいわゆる305日成績で計算されており、そこに至らない牛は補正や予測値が加味されています。
305日成績 分娩から次の乾乳までの搾乳期間を305日として算出する、乳量などの標準的な成績です。1年365日から乾乳60日を引いた日数が基準になっています。
一方、別に出てくる「240〜305日成績」は、補正のない確定した実測値です。本来この予測値と実測値の差はゼロになるはずだと川上さんは言います。
川上 うちの場合、ここ(予測値)とここ(実測値)が乖離してるんですよ。
川上さんの牧場では、305日成績が8990、年間成績が8995と、この2つがずれています。理由は、30日管理や長期管理といった一般的とは違う飼い方をしているからです。
川上 305日成績の一乳期成績じゃなくて、生涯成績で牛を飼っている感覚があるので、計算法が違う。
だからこそ、この乖離をどう読むかが重要になります。年間成績が多いのに305日成績が少ない牧場があれば「飼い方がちょっとおかしくないですか」と気づける、というわけです。
なぜ川上牧場の数字は計算法からズレるのか
研修生が、乾乳日数や空胎日数が標準より短ければ年間の成績もずれる、と読み取ります。川上さんは305日成績の計算を具体的に説明します。
川上 305日成績は365日から乾乳60日を引いたのが305日成績。うちは330日搾ってるんですよ。
川上牧場では330日搾っているため、365日の時点で2産目・3産目を迎えてしまい、うまく計算できなくなります。
川上 うちでは今月も来月も絞ってるけど分娩がある、みたいなことが起こるので、エラーが出ます。
研修生は、成績表そのものが乾乳60日を前提に組まれているため、教科書で学んだ人は「乾乳は60日」と覚えてしまう、と指摘します。
研修生 入った人がこれを教科書で学んだ時に、乾乳が60日と覚えます、ってことになって。
結局、川上さんと同じ答えにたどり着くのは、そのまあ10年後というか。 ── 研修生
日本記録も無効になる?計算法から外れることの意味
川上さんは、計算法に当てはまらない飼い方は公式な成績として認められない、という具体例を挙げます。
川上 日本記録を出す牛がいたとして、30日管理や500〜600日搾ってからやったとか、計算法に当てはまらないやつで出した場合は、それは無効になります。
研修生 改造車であって。
研修生は、普通に60日を守って出てくる「やばい牛」は、それほどやばくないのではないか、と話します。違うチャレンジをしないと見えない部分がある、という感覚です。
川上さん自身は、30日管理も追い食いも人には勧めないと明言します。それらは全体の流れの中で経営がうまくなる仕組みとセットであり、部分だけ真似できるものではないからです。
川上 三十日だからどうか、じゃないんです。それがあってこうなって経営がうまくなるよっていうのを、全体を捉えてじゃないと無理なので。
餌をケチっているから伸びない、川上牧場の割り切り
川上さんは、種牛の成績では日本トップや海外のトップレベルの精液を種付けしているのに、経産牛1頭当たりの年間成績は伸びがない、と話します。
川上 こっちの計算牛1頭当たり成績は全然伸びがないですよね。ちょっとずつは上がってるんですけど、伸びがないのは餌ケチってという(理由)。
研修生は、全部の数値が上がるのが理想でも、自分たちとして「ここを上げたい」という目標数値を持つことが大事だと語ります。作業員の一人であっても、俺らはこの数字を上げたいよな、という目的意識がないと漠然と終わってしまう、という話です。
研修生 数字と行動をもっとくっつけられるというか、その部分はどの行動に結びついてるんだよということは知っておきたい。
見栄えのいい成績表の「裏を読む」人でありたい
川上さんは、乾乳期を一律にして種付けもばっちり、乳量も出ていれば「素晴らしい牛群検定成績表ですね」となる、と言います。けれど自分はその裏を読むタイプだ、と話します。
僕はその裏を読む人なので。こうやってやったらもっと儲けれますよっていうのは、多分見つけることができますね。 ── 川上
研修生は、件数ではなくどこをもっと伸ばせるかを読み取ることが大事だと応じます。ただ、自分たちがどこへ向かっているのかは、わかっているようで意外と見えていないことがある、とも話します。
自分の牧場のデータベースを蓄積するということ
研修生は、酪農には周期があると話します。何年か前に起きたことが、今また似た形で起こる。餌の高騰なども含めて、過去に遡りつつ半年先を読み取れるようにしたい、という考えです。
研修生 なんちゃらショックが10年前にあったら病気もそうなんや、みたいなことは、周期的な部分もあって。
そのうえで研修生は、他所の大きなデータベースより、自分のところのデータをしっかり蓄積することが大事だと言います。経営を譲るときや、誰かと一緒にやるときに、そこが揺らぐと続きにくくなるからです。
川上さんは、この年間成績の項目にはそうした結果がすべて出る、と締めくくります。まず推移で全体を見て、それから個別に入っていく。毎回言っていることだけど、と付け加えます。
川上 その推移を見て全体を見て、個別に行くと。毎回一緒のこと言ってますけど。
まとめ
今回は、牛群検定成績表の「管理状況」と「経産牛1頭当たり年間成績」を、教科書どおりの基準ではなく、自分の牧場のやり方とリンクさせて読む見方を、川上牧場の川上さんが研修生と語り合いました。数字は一律の正解ではなく、傾向を読んで全体から個別へ落とし込む道具だという話でした。
- 妊娠牛や空胎日数、乾乳日数は「何日だからアウト」ではなく、牛群全体のバランスと傾向で読む
- 乾乳は45〜60日が効率的とされるが、自給飼料や経営状況しだいで長く搾る選択もある
- 経産牛1頭当たり年間成績(305日成績)は予測値ベースで、川上牧場のような特殊な飼い方だと実測値と乖離する
- 乾乳60日を前提にした成績表は便利だが、その枠組み自体を疑って読むと改善点が見えてくる
- 他所の大きなデータより、自分の牧場のデータを蓄積し、行動と数字を結びつけていくことが経営の土台になる