川上牧場研修【牛群検定成績表(年間追加除籍牛・検定日牛群構成・平均体重・授精報告・搾乳管理)】
2021-04-24 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
今回は牛群検定成績表1枚目の残り項目を、数字の背景まで含めて読み解きました。ポイントは、数字を単純な優劣で見ず、経営の個性や意図を読み取る姿勢です。
この回の要点
- 年間追加除籍牛では、乳用売却・低能力・死亡の右3項目に注目。低能力まで書く農家は遺伝管理への関心が高い
- 検定日牛群構成は、初産から徐々に減る山型が理想。波が乱れると計画的な更新ができていないサインになりうる
- 授精報告や体重欄は、細かく報告するほど信頼度が上がる。逆にきれいすぎる数字は報告漏れを疑う材料になる
- 検定方法は実測のA4検定の方が正確になりやすく、AT検定は夜の乳成分が補正値になる点に注意
- 牛群検定は目的地と現在地を知る道具であり、経営を良くするためというより、やりたい牛飼いに近づくために使う
配信の全文(podyの記事より)
搾乳前の休憩でやる「質問に答える会」というスタイル
この配信は、川上牧場の川上さんが研修生に酪農を教える様子を、そのまま音声として残したものです。
川上さんは、研修生以外にも酪農に興味のある人や従事している人へ、自分が思う酪農を伝えたいと考えています。
川上 搾乳前の休憩にいつもやっている研修生の質問に答える会話を、ただ録音しているだけ。このスタイルでやらせていただきます。
今回のテーマは、牛群検定成績表1枚目の下段に残っていた項目です。具体的には年間追加除籍牛、検定日牛群構成、授精報告、そして搾乳管理までを扱います。
牛群検定 乳牛1頭ごとの乳量・乳成分・繁殖などのデータを定期的に測定・記録する制度です。農家は自分の牛群の状態を数字で把握し、経営や飼養管理の改善に役立てます。
入った牛・出た牛を映す「年間追加除籍牛」の読み方
年間追加除籍牛は、牛群に入ってきた牛と出ていった牛を見る項目です。
たとえば未経産や経産の牛を買って導入すると、追加の頭数がここに入り、牛群内で何パーセントにあたるかまで出てきます。
除籍のほうは、除籍までの年齢や分娩後日数が書かれ、そこから病気別に並んでいきます。乳器障害、繁殖障害、子宮障害、消化器、低能力、死亡、乳用売却といった区分です。
ただし、この項目分けは検定員が農家の申告どおり打ち込むため、農家によって判断が分かれます。
川上 乳房炎になって起立不能になった牛、あなたならどういう項目で廃用(にしますか)。大腸菌の乳房炎だとして、起立不能になっちゃいました。
乳房炎が原因で起立不能になった牛を、乳房炎で廃用としたのか、起立不能で廃用としたのか。病気は複合的に起きるため、区分は農家ごとにアバウトになりがちだと川上さんは話します。
川上 (この項目が)多くないですか?って(農家に)聞いてみて、いやいや、うちめんどくせーけん全部廃用は乳房炎で出しちゃってるんだよっていうのとか。
「乳用売却」「低能力」がうまく回っている牧場のサイン
川上さんが特に注意して見てほしいと言うのが、右側3つの死亡・乳用売却・低能力の項目です。
低能力まで書いて売却している人は、遺伝管理への関心が高いという見方ができます。うまく更新できていないと、低能力という区分で牛を出すこと自体が起きないからです。
研修生 結構あれですよね。入れ替え、スタメン入るの厳しいというか。
川上 そうそうそう。それぐらいのちょっとしたチームじゃないと、あいつを使えって出さないでよ(となる)。
死亡の項目は、農場で何頭死んだかを示すだけです。ただし共済制度があるため、共済金を受け取ったほうが利益につながる場合もあり、死亡が多いから即ダメとは言えないと補足しています。
共済制度 家畜が死亡したり廃用になったりした際に、加入している農家へ共済金が支払われる制度です。損失を一定程度カバーできるため、経営判断のなかで加味されることがあります。
乳用売却も低能力と同じで、まだ絞れる価値のある牛を売っているということです。この項目が多いと、経営がいい感じに回っているという見方ができます。
大事なのは、経営主が出したいと思ったときに牛を出せているかどうかです。知らないうちに死んでしまった、出したくないのに出てしまった、という状態がない方がよいと川上さんは言います。
川上牧場の低能力の牛は3頭で、平均年齢は8歳6か月でした。
川上 もう頑張ったと思いますよ。(絞った日数も)379日なので、まあまあいいんじゃないかなっていう感じですね。
なお、この項目は自分の牧場で育てた牛でも他から買った牛でも、追加として入る点は同じです。導入と自家生産の比率は、成績表最終ページ裏面の年間子牛生産状況で別途確認できます。
徐々に減る山型が理想の「検定日牛群構成」
検定日牛群構成では、未経産が何頭、1産から5産以上がそれぞれ何頭かと、その構成比率が一目でわかります。
この項目は、計画的に更新ができているかを見るものだと考えてほしい、と川上さんは説明します。
理想は初産がいちばん多く、そこから1割程度ずつ2産、3産、4産と減っていく形です。5産以上が10パーセント程度、上手に飼っていれば20パーセント近くいくこともあります。
川上 そういう感じで構成比率がバランス良くなってる所の方が経営は安定してるかなと。
ここに書かれた年齢からは種付け状況も見えてきます。繁殖がうまく回っていれば、1年1産で産歴が順調に進む経過が読み取れます。
一方で川上さんは、若いからいい、年次がいっているからいい、と単純に決めず、全体をつかむ見方を勧めます。経営の個性がここに出るからです。
研修生も、この構成が付け焼き刃かどうかは見えてしまうと指摘します。自分のところでうまく回っていれば、頭数の波は連続した曲線を描くはずだからです。
研修生 ちょっとそこに連続性がないっていうと、(山型の)曲線描けてなかったら、ちょっと(気になる)。
川上 初産じゃないと2産になれないし、2産じゃないと3産になれないはずなんで。山が高いところがあれば、次に谷ができちゃう。
なお、乳用売却や低能力で出した牛は、除籍率の計算式には入らなかった気がする、と川上さんは話しています。まだ絞れる牛を計画的に出しているため、除籍率に含めない方が数字の意味が保たれるという整理です。
きれいすぎると逆に疑う「授精報告」
授精報告は、前の検定日から今回の検定日までに、どれだけ種付けしたかを示す項目です。
未経産に何頭、経産に何頭つけたか、その比率が出てきます。さらに頭数分布として、分娩後日数の何日目に種付けしたかも並びます。
一番下には「泌乳に供さない牛」という欄があり、お肉にする予定の牛や、もう搾らない予定の牛にチェックを入れると頭数が出ます。
この牛は分娩間隔などの計算から除外されるので、細かく報告できているほど繁殖成績の信頼度が上がります。
川上 これが綺麗な数字すぎて、こうパパパってやってると、受精報告がちゃんとできてるのかなってちょっと疑ったりしますね。
他の数字がバラバラなのに授精報告だけきれいだと、報告が正しくできているかやエラーが出ていないかを確認する、という見方をするそうです。
なぜ多くの牧場で「体重」の欄は空欄なのか
続いて、直近体重とボディコンディションの管理です。体重とボディコンディションを測っていれば、その数値がここに出てきます。
ボディコンディション 牛の栄養状態を体の肉付きから段階評価する指標です。急な低下は繁殖や健康の問題につながることがあり、推移を追うことで飼養管理の判断に使われます。
川上牧場では未経産をほとんど測っていないため、この欄は入っていません。全頭の体重を測るには検定員が測定尺を全頭に当てる必要があり、労力の問題からしっかり書いている牧場は少ないと言います。
それでも、体重は絶対にあった方がよい数字だと川上さんは考えています。繁殖が悪いときにボディコンディションが1ポイント以上下がる傾向などが見えるからです。
研修生は、体重測定でメジャーをぐるっと回す方法が、牛にとってストレスになるのではと気にかけます。検定前にそれをやると乳量に影響するかもしれないという懸念です。
研修生 非接触のスタイルで管理を、検査するっていうのは必要な気が(する)。
川上さんは、分娩後に一度だけ体重を実測し、あとはボディコンディションを報告すれば、予測体重を補正で出してくれる仕組みを紹介します。
成績表2枚目の直近体重欄では、太字が実測値、小さい数字がボディコンディションから予測された値です。
川上 体重だから700キロ800キロっていうのを知りたいんじゃなくて、何キロから何キロまでに減ったか増えたかが知りたいんで。
つまり知りたいのは絶対値ではなく、増えたか減ったかの変化だという整理です。それでもこの欄は空欄が多く、測ることの手間が勝ってしまっているのが実情だと話します。
AT検定とA4検定、どちらが正確なのか
搾乳管理では、検定方法がATなのかA4なのか、ロボット検定なのかが示されます。パーラーで1日3回搾乳している場合も検定方法が変わります。
AT検定・A4検定 AT検定は検定員が立ち会い、機械のタイマーからデータを取る方式です。A4検定は農家自身が朝晩の乳量を実測して報告する自家検定を含む方式で、データの取り方や正確さの前提が異なります。
この検定方法から、データの取り方が正確にできているかもある程度予測できます。ATなら検定員が立ち会い、A4なら自家検定の場合もあるためです。
時刻の欄も、AT検定はタイマーから取ったデータですが、A4検定は時計を見て取っただけなので、だいたいこのくらい、という数字になりがちです。
川上 大体6時、4時にやって5時に(終)わって、全く(同じで)ずっと4時5時、4時5時って書いてある。そのパターンもあります。
一方で、意外にもA4検定の方が正確だと川上さんは言います。朝も晩も実測値を取るからです。
川上 AT検定は乳脂肪と乳タンパクとか乳成分の、もし朝取ったとして、夜のやつはもう補正値でしか出てないので。
AT検定では、ミルクメーターに脂肪分が付着し、頭数が多いほど蓄積するため、実際のバルク乳と検定結果の数字が食い違うこともあると説明します。
AT検定とA4検定の特徴
AT検定
検定員が立ち会いタイマーでデータを取る。夜の乳成分は補正値になり、ミルクメーターへの脂肪分付着で誤差が出ることもある
VS
A4検定
農家が朝晩の乳量を実測して報告する。手間はかかるが実測値なので数字が正確に出やすい
検定を続けるかは「あと数年かどうか」で変わる
どちらの検定方法にも一長一短があり、検定員と農家の意識が合うかどうかも難しいところだと2人は話します。
若い検定員は意識が高く正確に取ろうとしますが、時間がかかると農家は搾乳時間が延びるのを嫌がります。逆にずっと同じ作業を続ければ検定員も牛も疲弊してしまいます。
研修生 疲弊していくスタイルではないですよね。お互いにとって。
現実には、検定加入をやめる農家が増えています。バルクの数字が出るようになったことや、あと数年しか続けない農家にとって実測のコストが重いことが背景にあります。
川上 もうあと数年しかやらんのに実測値測ってなんて、まあなんとなくできればねっていう人もあっているわけですから。
長年の経験があり、今日のデータで乳が持っていけるレベルなら十分、という判断も理解できると川上さんは言います。
牛群検定は「目的地と現在地を知る」道具
研修生は1枚目全体を振り返り、牧場ごとに個体も環境も違うため、数字は取れば取るほど「こうとも読めるし、ああとも読める」難しさがあると感想を述べます。
それでも、こっちの方がいいのではという自分のイメージと、数字の落とし所を照らし合わせる作業に意味があると話しました。
川上さんは、牛群検定の位置づけを次のように整理します。
牛群検定は自分の目的地を知る方法と、現在地を知る方法なので。 ── 川上
だからこそ、経営を良くしようというより、自分のやりたい牛飼いになろうという発想で使うものだと川上さんは言います。
川上 経営を良くしようじゃないです。やりたい経営スタイルにしようって。自分のやりたい牛飼いになろうだなんて。
一方で、検定制度には国の補助金が入っており、生産増や規模拡大につながる要件でないと補助が下りにくいという事情もあります。現状維持の牧場に税金を投入し続けるのは難しく、痛し痒しだと川上さんは受け止めています。
検定料以上のデータをどう守っていくか
それでも川上さんは、支払う検定料以上のデータをもらえていると考えています。体型も乳成分も繁殖性も調べられるからです。
研修生 それを自分だけでやろうと思ったら、何人雇ってどうしてやっとこれできるよなって思いますよね。
このデータを喉から手が出るほど欲しい人たちもいる。だからこそ、検定事業は農家で守っていかなければならないと川上さんは話します。
川上 これはやっぱ農家で守っていかないといけないので、検定事業を続けるような取り組みをしていきたいですけどね。
今回で成績表1枚目が終わり、次回から2枚目に入る予定です。配信の最後に川上さんは、コメントやDM、SNSの質問箱で質問やリクエストを募集していると案内しました。
まとめ
今回は牛群検定成績表1枚目の残り項目を、数字の背景まで含めて読み解きました。ポイントは、数字を単純な優劣で見ず、経営の個性や意図を読み取る姿勢です。
- 年間追加除籍牛では、乳用売却・低能力・死亡の右3項目に注目。低能力まで書く農家は遺伝管理への関心が高い
- 検定日牛群構成は、初産から徐々に減る山型が理想。波が乱れると計画的な更新ができていないサインになりうる
- 授精報告や体重欄は、細かく報告するほど信頼度が上がる。逆にきれいすぎる数字は報告漏れを疑う材料になる
- 検定方法は実測のA4検定の方が正確になりやすく、AT検定は夜の乳成分が補正値になる点に注意
- 牛群検定は目的地と現在地を知る道具であり、経営を良くするためというより、やりたい牛飼いに近づくために使う