川上牧場研修【牛群検定成績表(個体検定日成績)】
2021-04-27 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
この回は、牛群検定成績表2枚目の具体的な読み方から始まり、数字を現場でどう活かすか、そして人が育ち定着する組織とは何か、というテーマへと自然に広がっていく研修回でした。
この回の要点
- 初産分娩月齢や分娩間隔は個体ではなく「群」で捉え、更新率と合わせて読むのが基本。淘汰予定牛のチェック漏れは平均を狂わせる原因になる
- 成績表は1枚目で全体、2枚目で個体、という順番が大事。分娩難易度や乳量マークは便利だが、記録のしかた次第で当てにならないこともある
- 作業だけを覚えさせる教え方は短期集中には向くが、考えさせない仕事は人が3年で辞める原因になりやすい
- 同じ成績表を見ながら経営や人間関係まで語り合えれば、酪農家同士はもっと分かり合える。会話の中にこそ新しい発見がある
- 人が働きすぎると牛も休めない。視点を変える経験そのものが、現場を良くするきっかけになる
配信の全文(podyの記事より)
搾乳前の休憩でやる、研修生Q&Aスタイル
この配信は、川上牧場の川上さんが搾乳前の休憩中に、研修生の質問へ答える会話をそのまま録音したものです。研修生だけでなく、酪農に興味がある人や従事している人にも「川上さんが思う酪農」を伝えたい、という狙いで音声として残されています。
川上 搾乳前の休憩にいつもやっている研修生の質問に答える会話を、ただ録音しているだけ。このスタイルでやらせていただきます。
この日はTwitterの新機能だったスペース機能も同時進行で使い、酪農家が聞きに来てくれるかも、という雰囲気で始まっています。
飛ばしていた「初産分娩月齢」と「分娩間隔」から
今回はまず、前回飛ばしていた成績表1枚目の「初産分娩月齢」と「分娩間隔」の話から入ります。川上さんはこの分娩間隔を「大事なんですよ」と繰り返し強調しています。
初産分娩月齢は、初めてお産を迎えたときの月齢のことです。川上さんによると、初産分娩月齢 ── 牛が初めて分娩したときの月齢。早すぎず遅すぎない時期に初産を迎えられているかは、育成や繁殖がうまく回っているかの目安になります。の全国平均は24ヶ月ぐらいだといいます。
川上 大体16ヶ月とか14から16ヶ月ぐらいに種付けを始めたら、24ヶ月ぐらいで初産を迎えて、大体2歳で迎えてっていうのが通例というか普通かな、っていうとこですけど。
つまり、種付けの開始から初産までの流れが標準どおりに回っているかを、まずこの数字で確認するわけです。
分娩間隔は「個体」ではなく「群」で見る
分娩間隔は、成績表では395日から、というように区切って、どの日数の牛がどれくらいの割合でいるかがパーセンテージで出てきます。全国平均は400日前後だと言われていて、そのあたりに牛群が入っていれば繁殖はうまく回っている、という見方です。
研修生 ちょっとこう、遅すぎるかなって感じになっちゃうんですね、(400日より)2月半分って。
川上 そっちに比率が乗ってるとちょっと遅すぎる。でも遅すぎるんだけど、その305日成績で1万キロとかを超えてたら、(分娩が遅れても)まあまあ乳出てるからいいや、ってなれるので。
ここで川上さんが持ち出すのが「更新率」との合わせ技です。牛群の更新率が40%なら、60%は次のお産まで残していきたい牛になります。そこで、400日以下の牛が6割を超えていればまあボーダーライン、という見方をします。
個体を見ずにだよ、群の中で見ると、そういうふうな感じになります。 ── 川上
だからこそ、分娩間隔が長い短いを1頭ずつ気にするより、牧場全体で捉えたほうがいい、というのが川上さんの立場です。短ければいいわけでもなく、短くしすぎると乳量が落ちてしまう、という難しさもあります。
川上 せっかく収穫できる、ちょっと大きくなってきたなっていう果物を収穫するのか、丸々と太ってから収穫するのか、というところで。
なぜ数字がバラつくのか、淘汰予定牛のワナ
川上牧場では、分娩間隔の数字がバラバラに見えるといいます。理由のひとつが、500日絞ってから種付けして長期還乳させる牛など、いろいろな事情の牛のデータが全部この欄に入ってしまうことです。
さらに注意したいのが淘汰予定牛の扱いです。「この牛を淘汰します」という報告をせず、淘汰予定牛のチェックを入れていないと、その牛の数字がここに残ってしまい、平均を引っ張ってしまいます。
川上 この牛淘汰しますっていう報告を繁殖に供さないとか、淘汰予定牛っていうところにチェック入れてないと、(数字に)出てしまうので、それを加味してちゃんと見ないといけないです。
予測の分娩間隔が現在より長く出ていると、一見「これから繁殖が悪くなる」と読めます。川上牧場では現在421日に対し予測が473日ですが、その差の中身には淘汰予定牛が多く含まれている、と川上さんは説明します。
もうひとつ数字を押し上げているのが初産牛です。川上さんは初産牛は確実に残す方針なので、初産の分娩間隔が長い分、全体が引っ張られるといいます。
川上 だからうちは頑張ってるんですけど、初産の分娩間隔がやっぱ長いので。
2枚目「個体検定成績」の並びと、乳成分の波
ここから成績表2枚目、個体検定成績に入ります。1枚目で全体を見て、2枚目で個体を確認する、という流れが基本です。この表は分娩した順、搾乳・還乳日数の順に上から並んでいます。
産んだ順に並んでいるので、乳脂肪や乳タンパクは上から順に高く、中盤で低くなり、後半でまた上がる、という波のような数字になるはずだといいます。理想の波の形は、ネットで個体検定成績の詳細を見ると出てくるとのことです。
だからこそ、この2枚目は数字を1個ずつ評価するというより、表を見て感じた違和感を「ここどうなってるんだろう」と確認する作業になる、と川上さんは言います。
だから個体見て、ああしなきゃいけない、こうしなきゃいけないって、最初に個体見るのはやっぱりナンセンス。群として捉えるので。 ── 川上
45日と105日の太線が示す「肥育の3つの時期」
表には搾乳日数45日目と105日目に太線が引かれています。これは牛を肥育の時期で区切るための線です。
太線が区切る肥育の3つの時期
1
肥育初期
搾乳開始から45日目まで
2
肥育中期
45日目から105日目あたりまで
3
肥育後期
105日目以降
この線があると、分娩が多かった時期に応じて、肥育初期の多い群・中期の多い群・後期の多い群、というふうに牛群を見やすくなります。分娩間隔が380日ほどなら、期間の長い肥育後期の牛が多くなるのは必然だといいます。
研修生 よそから買ってくる時に、このタイミングのやつが欲しいなみたいな、ってこと。
外から牛を導入するときにも、この時期の考え方が効いてきます。肥育中期の牛を買えばこれから乳脂肪が上がっていき、肥育初期の牛を買えば最盛期に向かって乳脂肪が下がっていく、という違いがあるからです。
分娩難易度の「1〜5」は、当てにならないこともある
表の下段には「分娩難易度」という項目があり、1から5などの数字で記録されています。1は介助なしの自然分娩、2はごく軽い介助、2〜3人を必要とした助産、というように区分されています。
1・2はほぼ自然分娩とされ、2〜3以降が難産にあたります。この報告は種牛ごとに集計され、種牛成績に反映されていきます。ただ川上さんは、この数字はあくまで参考値だと釘を刺します。
川上 もうめんどくせえき(面倒だから)全部1、1とかやってるところもあるし。
たとえば「2〜3人が必要」と書いてあっても、それがおじいちゃん3人なのか、マッチョ1人での介助なのかまではわかりません。難しい分娩を1人でうまく処理して出す人なら自然分娩扱いになる、という技術差もあります。
研修生 場所によっては当てにならない部分かもしれない。けど、まあまあ、ただ一応この感覚ではあって。
下三角と米印マーク、乳量が落ちた牛のサイン
さらに下には、ピーク時に本来出るべき乳量が出ていない牛へのマークが付きます。ピークで乳量が落ちている個体には下三角のマークが付き、乳量・乳脂肪・乳タンパク・無脂固形・体細胞にそれぞれサインが出ます。
このマークは、どこを見ればいいかを視覚的にパッとつかむためのものです。前月・前々月の推移と比べて、その牛がどうなのかを見ていきます。
より要注意なのが米印です。下三角が「ちょっと様子を見て」ぐらいなら、米印は「下がりすぎだぜ」というサインだといいます。
川上 米印が一番やばいんで。三角ぐらいは、まあまあちょっと様子見てよぐらいだけど、もう米印はちょっと下がりすぎだぜ、っつって言う感じです。
ただし還乳後期は乳量自体が少ないので、餌をいじるだけで乳成分がコロコロ変わってしまいます。餌のロットが変わっただけでもマークが付くことがあるため、後半のブレはマーク通りに読まないほうがいい、と川上さんは補足します。
ロットのブレは「PMR」でごまかす、という現場の知恵
餌のロットが変わると成分は変わる、と川上さんは考えています。だからこそ、ばらつきを吸収する工夫をしているといいます。
川上 僕は変わると思ってるから、PMRでごまかしてリスク分散してるんだよね。
ラップを開いて牧草の軸が太いと感じたら、太いなりのやり方をする。それが酪農家の経験知だ、という話です。研修生はそれを「冷蔵庫を見て献立を決める主婦のプロ感」だと言い換えています。
一方で川上さんは、その感覚的なやり方には限界も感じています。自分にはできても、ヘルパーさんに毎回それを頼むのは難しいからこそ、PMR ── 粗飼料を混ぜて発酵させた飼料。あらかじめ混ぜておくことで、牧草のロットによるばらつきを吸収し、給餌を均一化しやすくなります。でリスクを分散している、というわけです。
表の最後には直近体重とボディコンディションスコアが載ります。今月が太字、前月が細字で示され、スコアが上がればプラス、下がればマイナスのマークが付きます。ただしこれらは、そもそも計測・報告していない牧場では空欄のまま出てこないといいます。
1枚目で全体、2枚目で個体、順番を間違えない
ここまでの見方をまとめると、成績表は1枚目で全体を見て、2枚目で個体を見る、という順番が基本になります。いきなり個体から見るのはナンセンスだ、と川上さんは繰り返します。
なぜなら、群で見れば大した変化がなくても、個体1頭では大きく動いていることがあるからです。逆に、分娩初期の牛が多いと乳脂肪がぐっと上がり、一見「粗飼料をよく食べていて素晴らしい」と読めてしまう、というワナもあります。
川上 いやいや、初産だけ当日でいっぱい乳脂肪高いやつ搾ってるだけだったわ、っていうことはよくあるね。
だからこそ、1枚目をさらっと確認しただけでは物足りない。全体と個体の両方を、順番を守って見ることが大事だ、というのがこの回の前半の結論です。
個体を理解して働ける現場が、なぜこんなに少ないのか
話はここから、成績表の読み方から「現場で人がどう働くか」へと広がっていきます。研修生は、個体の成績を理解した上で作業している現場は極端に少ないのではないか、と投げかけます。
たとえば「糞かきやっといて」「餌これぐらいやっといて」「スコップ3杯」と作業だけを覚えさせると、従業員はその作業に慣れてしまい、成績表を見せても「眠くなる」状態になってしまう、という指摘です。
研修生 なんでこの子はスコップいっぱいにするか、っていうのを、このデータと自分が取るアクションを結びつけた行動をさせて、考えさせる力を養わないと。
川上さんは、初心者の研修生にあえて個体単位でシナジーパワーを与えさせているといいます。それは、乳量やボディコンディションからチェックすべき牛を覚えさせるための狙いだ、と説明します。
もっと楽でもっと簡単なやり方を教えてください、って、その研修生に言うんですよ。 ── 川上
なぜ3年で辞めるのか、考えさせない仕事の限界
作業だけを覚えさせる教え方は、短期集中には向いていても、長続きしない、というのが2人の見立てです。研修生は「考えさせない仕事こそ、人が離れる原因だ」と語ります。
研修生 考えていいんやったら、自分がおる必要性なくなるから。
川上さんは、多くの経営者も最初は親身に教えていたはずだ、と推測します。それでも3年ほどで辞められることが続くと、いつしか「言うことを聞くだけの人材が欲しい」に切り替わってしまうのではないか、というわけです。
川上 3年ぐらいでまた辞めちゃってみたいなことを続けてしまうから、もう切り替えてしまって、もう言うこと聞くだけの人材が欲しいと。
さらに研修生は、酪農では設備がオーダーメイドで特殊なぶん、やり方を変えづらく、変えることを良しとしない現場が多いのではないか、と指摘します。全員が我流でバラバラだと、教わる側は「あの人はああ言ってた」と混乱し、余計にきつくなる、というのです。
もし経営者なら経験者を雇わない、という逆説
研修生は、自分が経営者なら「間違いなく経験者は雇わない」と語ります。自分のやり方が固まっているなら、何も知らない人のほうが受け入れがいいからだ、という理由です。
研修生 間違いなく経験者は僕は雇わないです。
川上さんも「経験者じゃなくて何も知らない人のほうがいい、というのはよく聞く話だ」と応じます。ただし研修生は、それを良い考えだとは思っていないと言い添えます。
経験者が「邪魔」になるのは、解釈のしかたがいくらでも生まれてしまうからだ、と研修生は分析します。だからこそ、みんなで答えを探し合う関係でなければ、働き手は必然的に少なくなっていく、というのです。
これをここの部分の、お互い考えを変えないと、なんか少なくはなっていくよな。 ── 研修生
同じ業種なのに、酪農家同士が話を聞き合わない
話は「酪農家同士の交流」へと移ります。研修生は、酪農家でありながら他の酪農家の話を聞こうとする人は、意外なほど少数派ではないか、と感じているといいます。
研修生 酪農家やけど、酪農家の話を聞こうとする人って、多分めちゃくちゃ少数派やと思うんですよね。
新商品や新技術の情報は、営業や専門ニュースから自然と入ってくる。でも自分から情報を取りに行ってはいない、という状態を研修生は「アリ地獄みたいに集まってくる」と表現します。
だからこそ、成績表という同じものを見ながら、作業や経営のやりくり、人間関係まで含めて語り合えれば、酪農家同士がもっと分かり合え、互いをリスペクトできるはずだ、と研修生は考えています。
研修生 酪農家さん同士がもっとこう、興味を持ち合ったら何が生まれるんか、っていうことは、同じ業種におる人だからこそ、すごい交流は持つべきだとは思うけどなあ。
川上さんは、この会話そのものにこそ意味を見出しています。彼が研修生と話を続ける理由も、まさにここにあります。
僕はこの会話の中に、その新しい発見があるんじゃないかっていうのを、常に探してるから。 ── 川上
ディスカッションが嫌いな研修生が、それでも語る理由
研修生は「ディスカッションは本当は大嫌いだ」と打ち明けます。前の会社ではそういう場を一切やらなかった、という立場です。
研修生 でも、ディスカッションでほんまに意味ある場は、やるべきやと思うんですよ。それをしないと話が結局動き出さないと思ってるから。
見て、感じたまま喋る。そうしないと自分の考えもまとまらない、と研修生は言います。ただし「結局何が言いたいん」と急かす相手の前では喋らない、という条件付きです。
そのうえで研修生は、語れるようにならないと働き手は「目が死んだまま」になってしまう、と警告します。牛を飼っているのか飼われているのか、税金を払うために働いているのかわからなくなる、という危機感です。
研修生 目死んだまま、牛に飼ってるのか飼われてるのか、それこそ税金を払うために働いているのか。
働きすぎると、牛も休めない
最後に話題は「休むこと」に向かいます。研修生は「日本人は働きすぎだ」という話から、酪農ならではの逆説を持ち出します。
研修生 あなたが働くと、牛も働かなあかんけどね、みたいな気もするんですよね、ある意味。
牛も休む時間がなければ繁殖できません。人が働きすぎることは、牛を休ませないことにつながる、という視点です。
研修生は、経営者側こそ一度ヘルパーの立場を経験してみるべきだ、とも語ります。やってみないとわからないことがあり、やったからこそ持ち帰れるものがある、という考えです。
研修生 だからそもそも、そういうことやってみないとわからない部分もあります。
同じことをずっと続けている合間に学びの機会を得ようとしても、現実にはなかなか変化できない。だから視点を変える経験そのものが必要だ、というところで、この回の対話は締めくくられます。
配信の最後に川上さんは、質問はコメントやDM、SNSの質問箱で受け付けていること、そして酪農家の本業に支障が出ない範囲で継続して配信を続けていきたいことを伝えています。
まとめ
この回は、牛群検定成績表2枚目の具体的な読み方から始まり、数字を現場でどう活かすか、そして人が育ち定着する組織とは何か、というテーマへと自然に広がっていく研修回でした。
- 初産分娩月齢や分娩間隔は個体ではなく「群」で捉え、更新率と合わせて読むのが基本。淘汰予定牛のチェック漏れは平均を狂わせる原因になる
- 成績表は1枚目で全体、2枚目で個体、という順番が大事。分娩難易度や乳量マークは便利だが、記録のしかた次第で当てにならないこともある
- 作業だけを覚えさせる教え方は短期集中には向くが、考えさせない仕事は人が3年で辞める原因になりやすい
- 同じ成績表を見ながら経営や人間関係まで語り合えれば、酪農家同士はもっと分かり合える。会話の中にこそ新しい発見がある
- 人が働きすぎると牛も休めない。視点を変える経験そのものが、現場を良くするきっかけになる