川上牧場休憩中(spoonで音声配信してるただの雑談)
2021-04-24 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
搾乳前の休憩でこぼれる雑談ですが、細菌数ゼロへの地道な努力、牛それぞれの個性、そして働き方や進路への考えまで、酪農の現場のリアルがにじむ回でした。数字や見た目から何を読み取るか、という視点が全体を貫いています。
この回の要点
- 牛群検定で大腸菌群も耐熱性菌もゼロという数字は、SAの多かった状態から時間をかけて減らしてきた努力の結果である
- ゼロで当たり前とせず、菌が増える原因も含めて牧場どうしで経験を共有したい、というのが研修生の問題意識
- ジャージー牛は乳質目的というより「ペット」として飼われ、小柄で個性が強い牛として可愛がられている
- 鼻環をつけない、出勤時の職場の状態など、触れなくても人や牧場の「スタイル」は自然と読み取れるという話が印象的
- 「やりたいことないの?」という川上さんの問いと、やりたいと思える力・自分を騙す力の弱さをめぐる研修生の考察が、この回のもう一つの軸
配信の全文(podyの記事より)
休みは朝4時起きのまま、日御碕灯台へ下見
冒頭は研修生の休日の話から始まります。出雲大社は「通っただけ」で、実際に足を運んだのは日御碕灯台のほうでした。
日御碕灯台 島根県出雲市の日御碕にある灯台。日本一の高さを誇る石造りの灯台として知られ、周辺は釣り客が多く訪れる岩場の海岸になっている。
研修生がこだわったのは、休みでも起きる時間を変えないことでした。朝4時に起きるいつものスタンスを守ったまま、人が少ない朝のうちに灯台へ向かったそうです。
研修生 自分の起きる時間とかはいじりたくないという。だから朝4時ぐらいに起きるじゃないですか。そのスタンスは守りたいから、(休みも)朝行ったんですよ。
目的も「誰か来た時にどこも行ったことがないと困る」という下見でした。ガタガタの山道を登りながら、地元の人の目線で「よくあそこまで行くな」と感じたと話します。
川上さんは、酪農が人のいない時間に動く仕事であることに触れます。それをデメリットではなくメリットとして受け止めよう、という話につながっていきます。
川上 人のいない時間に動くから(世間と)ずれちゃう部分もあるんですけど、逆にそれがメリットでいいんですよ。
数時間違うだけで全然スタンスが違う。自分に合うやり方を試してみたらいい。 ── 川上
農白ネット登録の「投げやり感」にがっかり
話題は求人の話に移ります。研修生は農業求人サイトに登録できたものの、その対応に少し冷めてしまったと打ち明けます。
農業求人サイト(農白ネット) 書き起こしでは「農白ネット」「ドットネット」と呼ばれている農業系の求人・情報サイト。話の流れから、テンプレートに沿って情報を載せる形式のサービスとして語られている。
研修生 テンプレートがあったから、こうしましょうああしましょうみたいなのがあるかと思ったら、「じゃあこれで載せときます」みたいな感じで。
川上さんはそれを「儲けの匂いがしなかったから」と受け止めます。そのうえで、やったことのないことに挑戦するのはいいことだと肯定します。
関連して、以前農協にいた担当職員がフリーランスになり、わざわざ様子を聞きに来てくれた話も出ます。そういう繋がりのありがたさを二人でうなずき合います。
牛群検定の細菌数がほぼゼロ、頑張って減らした数字
休憩の途中で、牛群検定の結果が返ってきていることに話が及びます。川上さんはその数字を「すっげえ素晴らしい数字」と紹介します。
牛群検定 乳牛1頭ごとの乳量や乳成分、細菌数などを定期的に検査・記録する制度。乳質の管理や飼養改善の指標として使われる。
総菌数は1800で、その内訳である大腸菌群や耐熱性菌がゼロという結果でした。川上さんは、糞便に多く含まれる菌が全くないことに意味があると説明します。
川上 (大腸菌群が)ゼロってないないない。だって総菌数が1800ですからね。まじで生で飲んでも大丈夫。
研修生は、菌の数はゼロと桁があるかで大きく変わることに驚きます。川上さんは「めちゃくちゃ綺麗に拭けてるってこと」だと、日々の作業の丁寧さに結びつけます。
この数字は、一朝一夕で出たものではありませんでした。2018年から2019年ごろは細菌数が多くひどい状態で、川上さんが時間をかけて減らしてきた結果でした。
川上 頑張って頑張って減らしましたよ、本当に。
原因の一つが、父親の代からの牛の約4割がSAになっていたことでした。それを一頭ずつ直しながら数字を改善してきたと振り返ります。
SA(黄色ブドウ球菌) 乳房炎の原因菌の一つ。牛から牛へ感染しやすく、いったん広がると治りにくいため、乳質管理の大きな課題になる。書き起こし中の「SA」「マジSA」はこの菌を指すとみられる。
親父さんの牛が4割ぐらいSAになってて、それを直しながら。ほんと頑張ったなーって思います。 ── 川上
ゼロで当たり前じゃもったいない、数字を共有したい
研修生は、努力してゼロにした数字が「ただの数字」で終わってしまうのはもったいないと感じています。今やっていることをやめれば、また菌は増えてしまうからです。
たとえに出したのが、サッカーのゴールキーパーでした。無失点で当たり前とされ、失点だけが責められる立場になぞらえます。
研修生 ゴールキーパーって、零点で当たり前みたいなところがあるじゃないですか。あんなエグいの止めてても、3点入れられたら「俺のせいかい」みたいな。
だからこそ研修生は、こうした数字を牧場どうしで共有したいと考えています。爆発的に菌が増えることは生き物である以上避けられず、原因も含めて分かち合えたら学びが多いと話します。
川上さんも、大腸菌群を抑えられている牧場があれば真似したい、逆にそこは気にしていないという牧場もある、と設備や方針の違いに触れます。
父を数字で説得したもみ殻とオガ屑の敷料
敷料の話も出てきます。川上さんは、佐藤さんの牧場で牛の腹の下にもみ殻をたくさん撒いていたことに触れ、自分の牧場も元は同じタイプだったと語ります。
敷料(もみ殻・オガ屑) 牛が寝る場所に敷く材料のこと。もみ殻やオガ屑(おがくず)が使われる。鳥取ではオガ屑を腹の下に撒くやり方が多いと川上さんは説明している。
川上さんの父親には、オガ屑を撒くと乳房炎になるという意識が過去の経験から強く残っていました。オガ屑の使い方を正しくすれば乳房炎にならないと川上さんは分かっていたものの、なかなか変えられなかったそうです。
川上 乳房炎にならんって言って数字見せてるけど、(父は)「いやいやいや」って。
関連して研修生は、新社会人向けに広まっていた「パスタの袋は縦に切ると取り出しやすい」という豆知識の話を持ち出します。便利な工夫でも、痛い目を見た人ほど新しいやり方を受け入れにくいのでは、と二人は話します。
川上 (父が変えられなかったのは)過去に痛い目を見たから、それをさせないようにって。
ジャージー牛は「ペット」、個性と乳質の違い
話題は牛舎にいるジャージー牛へ移ります。川上さんはまず、ホルスタインとの違いを研修生に問いかけます。
Q
ジャージー牛と普通の牛(ホルスタイン)の違いは何ですか。
A
回答
いちばんの違いは乳脂肪が高いことです。ジャージー牛乳は濃く、クリームやバニラのような風味が強い、ねっとりした牛乳になります。
ジャージー牛 乳用牛の品種の一つ。小柄で、乳脂肪分の高い濃い牛乳を出すのが特徴。日本ではホルスタインが大多数を占め、ジャージー牛の飼育頭数はごくわずか。
研修生は、ジャージー牛は小柄で愛嬌があり、性格がはっきりしていると感じています。血液型にたとえて「100%AB型」と表現し、その個性の強さを面白がります。
川上さんによると、うちのジャージー牛が態度が大きいのは「可愛い可愛い」と特別扱いしているからだといいます。実際、うちのジャージー牛は乳質目的ではなく、いわば「ペット」として飼っているそうです。
川上 うちのジャージーはもう確実にペットですけどね。ほんと何か変わったやつが欲しいなって思って飼ってるだけ。
川上さん自身はジャージー牛乳を飲むのは苦手で、乳脂肪の低いサラサラした牛乳のほうが好みだと話します。ただし、シリアルにかけたりホットケーキやヨーグルトに加工したりすると美味しいと認めます。
川上 僕サラサラした牛乳が好きで、乳脂肪が低い牛乳が好きなので(毎日はきつい)。でもシリアルとかにかける時はめちゃくちゃ美味い。
蹴られる牛と慣れてきた牛、動物への向き合い方
リスナーから、動物好きや農業経験のコメントが届き、話は牛との向き合い方に移ります。研修生は、可愛いだけでは続かない仕事の現実に触れます。
研修生 この仕事になると、愛でることだけではできないんやな。
研修生が「慣れてきた」と感じるのは、搾乳中に牛が小首をかしげて肩のあたりを舐めてくるときだといいます。ただ、その解釈が本当に合っているのかは分からないとも言います。
最初は蹴られることも多かったそうです。知らない人が来て体を触られれば、牛が「ちょっと待って」と足を動かすのも当たり前だと研修生は受け止めています。
一方で、触られると右足左足を動かすのが癖になっている牛もいて、川上さんは「わかってきてますね」と研修生の観察をほめます。
花からバイテクへ、無菌室が好きだった学生時代
研修生が「高校の頃は花がめっちゃ嫌いだった」と打ち明けると、川上さんは自分も18歳まで牛を触ったことがなかったと明かします。
川上さんが学生時代に好きだったのは、作物が育つ過程よりも、細胞の話でした。コチョウランのバイテク(バイオテクノロジー)を専攻し、細胞が分化していく仕組みに惹かれたと語ります。
バイテク(バイオテクノロジー) 生物の細胞や遺伝の仕組みを利用する技術の総称。ここでは、コチョウランなどを組織培養で増やす植物バイオテクノロジーを指している。無菌室での作業が伴う。
川上 細胞がなんで2つになって、ここから分化してこうなるっていう方が楽しかったんですよ。無菌室とか大好き。
この一言からは、川上さんが酪農家であると同時に、生き物の仕組みそのものに強い好奇心を持つ人物であることがうかがえます。
夏は北海道、冬は沖縄。飛び回る働き方への憧れ
リスナーの海外経験の話から、働き方の多様さに話が広がります。研修生は、飛び回れるスキルを持つ人はどんどん動いてほしいと語ります。
川上さんは、農繁期だけ各地を回る「ボラバイト」を例に挙げます。夏は北海道、冬は沖縄というように、住み込みで季節ごとに移動する働き方が農業には存在すると紹介します。
ボラバイト ボランティアとアルバイトを組み合わせた言葉で、農繁期の農家に短期間住み込みで手伝いに入る働き方を指す。地域や作物の繁忙期に合わせて各地を移動する人もいる。
川上 夏は北海道で仕事して、冬の寒い時は沖縄で農繁期の仕事してみたいな人もいる。超楽しそう、やってみたいです僕。
研修生自身は、その飛び回るスタイルは自分には向いていないかもしれないと感じています。それでも、拠点を探している気持ちはゼロではない、と自分の中の揺れを言葉にします。
むしろ研修生が価値を感じているのは、いろんな場所を経験した人の話です。今やっているかどうかに関わらず、その経験自体を聞きたいのだと熱を込めます。
研修生 自分が行ったとこでこんなことやっててんとか、そういう話をもっと聞きたい。「3ヶ月やっただけやろ」みたいなのはマジでどうでもいいから。
「頭合わせ」「お尻合わせ」経験の差を持ち寄る意味
研修生は、牧場ごとに搾乳の作業スタイルが違うことにも学びを見出します。写真で見た牛舎が「頭合わせ」で、自分は「お尻合わせ」の牧場ばかり経験してきたと気づいたと話します。
頭合わせ・お尻合わせ 牛舎で牛を並べる向きの違い。牛の頭どうしを向かい合わせに並べるか、お尻どうしを向かい合わせに並べるかで、飼料の与え方や搾乳・清掃の動線などが変わってくる。
作業する向きが変われば、見えてくることも変わります。研修生は、顔側で作業したときに気づけることや、対処の工夫があるはずだと考えています。
さらに研修生は、道具の使い方一つとっても、状況によって別の使い道があると語ります。言葉にされた結果だけでなく、その裏にあるメリットまで含めて話し合いたいと言います。
研修生 最前線でやってる奴らだけ考えればいいみたいなのは、なんか行き止まりに行くんじゃないかなと思って。
研修生の関心は海外にも及びます。ニュージーランドに行きたかったが、行くならレストランの仕事ではなく、やったことのないことをしたかったと当時の思いを振り返ります。
今やってるとかどうでもよくて、みんなのちょっとした経験を持ち寄れないと(先がない)。 ── 研修生
鼻環をつけない牧場から読み取れる「スタイル」
話はふたたび牛の見た目に戻ります。研修生は、川上牧場の牛が花輪(鼻環)をつけていないことにも「可愛さ」があると感じています。
鼻環(花輪) 牛の鼻に通す環のこと。気性の荒い牛や大型の牛を扱いやすくするために装着されることがある。書き起こし中の「花輪」は、この鼻環を指しているとみられる。
研修生は、写真から牛や牧場の印象が伝わるのは、服装や見た目から人柄が伝わるのと同じだと考えます。汚れや怪我がないか、どう扱われているかが自然とにじみ出るという見方です。
川上さんが以前、おじいちゃんの牧場で綺麗に育てられた牛を見て欲しくなった、という話も引き合いに出されます。説明されなくても、見た感覚で良さが伝わったのだろうと研修生は解釈します。
研修生は、前職での経験もこの感覚と結びつけます。朝いちばんに出勤すると、水が出しっぱなし、電気がつけっぱなしといった状態が毎回残っていて、触れなくてもその人の仕事ぶりが分かってしまったと語ります。
研修生 現場検証じゃないですけど、この人がどういう思いでどういう仕事したかは、触らんでもわかる。
そのうえで研修生は、本当にできる人ほど「めっちゃできる」と自分から言わない、と持論を述べます。鼻環をつけないことを自慢しない川上さんの姿勢も、それに近いと見ています。
おしゃれなやつって「俺めっちゃおしゃれやろ」って言わへんと思ってるから。 ── 研修生
正直な動物と、自然と二極化していく牧場
動物は純粋で正直だ、という点で二人は一致します。隠しごとがないぶん、扱い方や状態がそのまま出るという話です。
川上 そうですね、正直ですからね。隠すことないですから。
研修生は、こうした感覚は経験年数に関係なく誰もが感じ取ってしまうものだと言います。だからこそ、自然と人気の出る牧場と、寂れていく牧場に二極化する部分があるのではないか、と推測します。
そのうえで研修生は、全員に好かれたいわけではないが、誰かがわかる「いい状態」ではいたい、と自分のスタンスを語ります。名前のついた牧場かどうかに関わらず、自分なりのやり方で続けたいという思いです。
知識がないまま牛や牧場を見ると、どうしても見た目で判断してしまう。研修生は、知らないがゆえに五感を総動員して感じ取ろうとする今の視点を大事にしたいと話します。
研修生 知らんが故に、目とか耳とか五感を使って感じよう感じようと思うじゃないですか。
川上さんも、この新鮮な感覚を忘れないようにしたいと応じます。研修生の「今しか感じられない部分」という言葉に、強く共感します。
川上 僕はもう忘れないようにしますけどね、それをずっと。
「やりたいことないの?」と聞く川上さんの問い
話は働き方と人生観へと深まっていきます。川上さんは、牧場に来る人に必ず「やりたいことないの?」と聞くと言います。
川上 やりたいことないの?って言って。せっかくうち来たから、なんかやりたいことない?
研修生は、やりたいことが見つからず悩む人がこれからもっと増えると考えています。前日にも、プログラミングをやっていて進路に悩む人の話が出たそうです。
研修生の見立てはこうです。多くの人は「仕事をやりたいことだと思える力」がそもそも強くない。受けてきた教育の中で、自分で考える必要性や、疑問を持つこと自体が遠ざけられてきたからだと語ります。
研修生 (多くの人は)思われる、考えられる環境で育ってきて、それをする必要性を排除されて、疑問を持つことすらも守られてた。
したくないことを、自分のしたかったことにすり替えて続けるにも力がいる、と研修生は言います。自分を騙すのにも、結構な力がいるという指摘は、進路に悩む人の多さを別の角度から照らします。
自分を騙すも結構力いるじゃないですか。それで、みんな結局どうしたらいいんじゃないかなと思って。 ── 研修生
川上さんは、そういう人はこれから増えるのか、と問い返します。研修生は「もっと増える」と答え、時代の流れから逆算すれば当然だと話します。一方で、そうした人をあえて生み出す仕組みすらあるのでは、と踏み込んだ見方も口にします。
搾乳前の休憩、ここまで。エサやりへ
ひとしきり話したところで、川上さんが「じゃあ餌をやりましょうかね」と切り上げます。搾乳前の休憩時間はここまで、という区切りです。
最後に川上さんは、この配信が良かった人へサポートやおすすめを呼びかけます。質問はコメントやDM、SNSや質問箱で受け付けているとのことです。
川上 酪農家の本業に支障が出ない程度に、継続して頑張っていければなと思っています。
番組はいつもどおり、これから搾乳へ向かう挨拶で締めくくられます。休憩のあいだのゆるい雑談が、そのまま一本の配信になっているのがこの番組の持ち味です。
まとめ
搾乳前の休憩でこぼれる雑談ですが、細菌数ゼロへの地道な努力、牛それぞれの個性、そして働き方や進路への考えまで、酪農の現場のリアルがにじむ回でした。数字や見た目から何を読み取るか、という視点が全体を貫いています。
- 牛群検定で大腸菌群も耐熱性菌もゼロという数字は、SAの多かった状態から時間をかけて減らしてきた努力の結果である
- ゼロで当たり前とせず、菌が増える原因も含めて牧場どうしで経験を共有したい、というのが研修生の問題意識
- ジャージー牛は乳質目的というより「ペット」として飼われ、小柄で個性が強い牛として可愛がられている
- 鼻環をつけない、出勤時の職場の状態など、触れなくても人や牧場の「スタイル」は自然と読み取れるという話が印象的
- 「やりたいことないの?」という川上さんの問いと、やりたいと思える力・自分を騙す力の弱さをめぐる研修生の考察が、この回のもう一つの軸