川上牧場研修【牛群検定成績表(授精結果の次世代診断・13カ月推移・授精結果診断)】

2021-04-28 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

今回は牛群検定成績表の裏面2枚を読みながら、次世代診断や近交係数、分娩難易度といった項目の意味を確認しました。後半は「トップ40を使ったらここまで上がる」という提案への違和感を入り口に、集めたデータをどう活かすかという、より大きな問いにまで話が広がった回でした。

この回の要点

  • 1枚目・2枚目の裏は次世代診断のページで、ゲノムヤングサイアーを使った分は交配成績の数字に含まれない
  • ゲノムヤングサイアーは更新が速い一方、検定前の予測値であり、川上牧場は補助対象になる検定済みを多く使っている
  • 近交係数は最先端の種を使うほど上がり、下げたい場合は牛群検定牧場なら無料で使える交配プログラムに相談できる
  • 分娩難易度の信頼度が低いのは、もとになる農家の報告が主観的で「1、1、1、1」と形骸化しがちなため
  • データは全頭を調べて全体を見なければ意味がなく、「トップ40を使ったら」の押しつけ的な提案より、選ぶ材料の提示や不要な情報の削減が大事だという議論に至った

配信の全文(podyの記事より)

1枚目の裏「次世代診断」には何が載っているのか

今回の研修は、牛群検定成績表の1枚目の裏と2枚目の裏を読むところから始まります。1枚目の裏は「受精結果の次世代診断」と「次世代診断情報」というページです。

川上さんによると、このページは1枚目の右上にあった項目別種牛成績を、13ヶ月齢で細かく展開したものです。検定、美成績、交配頭数、近交係数、証明、連産効果といった項目が並んでいます。

表の細かい数字の意味については、川上さんは今すぐには深入りしない方針です。育種の勉強を始めてから改めて説明するとして、この日は「こういう項目がここに載っている」という全体像の確認にとどめています。

川上 この細かい数字の説明は、来月かな、5月になってから体型とかのあっちに入ってきて、育種の方の勉強をし始めてからしようかと。

交配成績の欄には「国内種牛」「海外種牛」「合計」という区分があり、どこにどれくらい種付けしたかがわかるようになっています。

牛群検定 ── 牛群を対象に乳量・乳成分・繁殖などの記録をとり、飼養管理や改良に役立てる制度。検定日ごとの記録から個体や牛群の成績が集計される。

ゲノムヤングサイアーは、なぜこの数字に含まれないのか

研修生が成績表の注記を読み上げます。集計の対象は、交配種牛と検定牛がともに推定育種価を持つホルスタイン種だ、という条件です。

研修生 交配種牛および検定牛がともに推定育種価を持つホルスタイン種が対象です。

川上さんは、これはゲノムヤングサイアーが対象外になるという意味だと説明します。国内・国外を問わず、ゲノムヤングサイアーを使った分はこの数字に含まれません。

川上 つまり、前言ったようなゲノムヤングサイアーとか、国内国外ゲノムヤングサイアーとかは対象外になりますよっていう話ですね。

ゲノムヤングサイアー DNA情報(ゲノム)をもとに能力を推定した若い種雄牛のこと。実際に娘牛の成績が出て評価が確定した「検定済み」の種雄牛とは区別される。評価の確定を待たずに早く使える一方、成績は予測にもとづく。

研修生が「じゃあここには数字として含まれないんですね」と確認すると、川上さんは含まれないと答えます。1枚目の項目別種牛成績も、2枚目の裏も、ゲノムヤングサイアーを使った場合はこの欄には出てこない仕組みです。

ゲノムか検定済みか、川上牧場が検定済みを多く使う理由

研修生は、対象外になるようなゲノムヤングサイアーが、最近はむしろよく使われているのか気になります。使ったり使わなかったりする種を、いっそ項目として立てた方がデータとして扱いやすいのでは、という発想です。

川上さんは、今はゲノムしか使わないという人もいると話します。ただ自身はゲノムヤングサイアーはあまり使わないほうで、その理由には国の補助事業が関係しています。

川上 国の補助事業があって、ホルスタインの頭数を増やしましょうっていうので、判別精液に対して補助金が出たりする。それの対象になるのが検定済みしか、成績が出たやつしか補助対象にならないので。

研修生は、対象外の種を「その他」としてまとめず、項目を増やした方が、いい意味でのデータの受け皿になるのではと重ねます。川上さんも「確かに」と応じつつ、現状の「その他」には和牛や乳牛が混在していると補足します。

川上さんは、国のスタンスとしてはゲノムヤングサイアーをあまり使ってほしくないのではないか、と推測します。ただしこれは断定ではなく、あくまで見受けられる傾向としての話です。

ゲノムヤングサイアーの魅力は「更新の速さ」

一方で、川上さんはゲノムヤングサイアーの良さも認めています。ポイントは、能力が確定するまでの時間の短さです。

通常、種雄牛が検定済みになるには約5年かかります。これに対し、ゲノムヤングサイアーは精液が取れた時点、2歳ごろや1歳半ごろの若い牛から取ったものなので、更新の速さが圧倒的に違うという利点があります。

検定済みとゲノムヤングサイアー

検定済み

娘牛の成績が出て評価が確定した種雄牛。確定まで約5年かかるが、成績は実測にもとづく

VS

ゲノムヤングサイアー

2歳ごろなど若い段階で選抜した種雄牛。更新は速いが、成績は予測値で試した結果ではない

ただし川上さんは、ゲノムヤングサイアーはあくまで「検定前」であり、実際に試した成績ではない点を強調します。高そうだと調べて、期待して使うという性格のものだ、という整理です。

川上 検定前だから、実際テストして試してみたやつじゃない。調べてみて高そうだって使わせてもらってる、それを期待して使ってるっていう使い方かな。

川上さんは、この違いを車にたとえます。最先端の新車と、売上ナンバーワンの定番、どちらを選ぶかという話です。研修生は迷わず「新しい方」と答え、川上さんは「自動運転ついてるけど、ちょっと危ないかもしれない」くらいの新機能でも良さそうだと思って使う感覚に近い、と説明しました。

近交係数はなぜ上がる?「攻めざるを得ない」改良の現実

続いての項目は近交係数です。優秀な牛どうしを掛け合わせて改良を進めると、近交係数は必然的に上がってしまいます。近交係数が上がると能力が下がるという弊害もあるため、注意を促すための項目です。

近交係数 血縁の近い個体どうしを交配することで、共通の祖先に由来する遺伝子が重なる度合いを示す指標。高くなるほど、能力低下などの近交弱勢のリスクが指摘される。

以前は近交係数6.25を超えると遺伝の能力が下がると言われていました。ところが川上牧場でも最先端の種を使うため、平均は7を超え、最近のものでは8.34というケースも出ているそうです。

これは川上さんいわく「攻めているというより必然」です。ゲノムヤングサイアーが入ってきてから更新の速度が上がり、近交係数も上がらざるを得ない状況になっています。

研修生 別にここ(近交係数)は正直そんなに上げたいわけではないけど。

川上 下げたいけど、下げられない。もう下がらざるを得ない部分はある。

川上さんは、アメリカ的な考え方も紹介します。近交係数の上昇以上に改良速度が上がれば問題ない、という発想です。研修生の「みんなでトロトロ走らんでぶっ飛ばしたらええ」という言い換えに、川上さんは同意します。

川上 ぶっ飛ばして、もう行っちゃったら、結局近交係数は下がるじゃんって。自分の子供は近交係数高いかもしれないけど、その先の代なら別に、という。

一方で川上さんは、日本はこうした攻め方が苦手な傾向にあると話します。コロナワクチンへの向き合い方にも触れつつ、慎重に、事故がないように石橋を叩く国民性だと表現しました。

近交係数を下げるには「交配プログラム」に相談する

近交係数の欄について、川上さんはいくつか前提を補足します。まず、この数字は血統登録していないと出ません。また、種雄牛だけの交配情報にもとづく参考情報であり、詳細なものではないという整理です。

トップ40を使っている人でも、近交係数まではトップ40だけでは避けられません。そこは自分で避ける必要があります。

下げるための手段として、川上さんは交配プログラムの活用をすすめます。家畜改良事業団に専用のプログラムがあり、牛群検定をやっている牧場なら無料で相談できるとのことです。

川上 近交係数が上がってきたなっていったら、そこ(交配プログラム)に相談するのが一番。牛群検定やってるとこだったら無料でやってくれるので。

研修生は、ある程度種牛を絞り、今いる牛のこともわかっていれば、あとは組み合わせで「ここで落とすところだな」と調整していくイメージだと理解を示しました。

長命連産効果と乳代効果、「円」で示される参考値

次の項目は長命連産効果です。これは以前話したNTP総合指数とは別で、長命性や繁殖性に特化した評価です。数字が「円」で示され、農場にこれだけの利益を上げる効果があります、という謳い方をしています。

長命連産効果 乳牛が長く健康に飼え、繰り返し産んでくれること(長命性・連産性)を、金額として示した評価。長く働き続けられる牛ほど農場にとっての価値が高いという考え方にもとづく。

ただし、これは国内の評価値を持つ交配種牛のみを集計しています。海外精液でも、日本である程度の頭数が出ないと、長命連産効果のような細かい数字は計算できません。

そのため、成績表には数字が出ている項目と出ていない項目が混在します。川上さんが手元の「赤本」で確認しても、海外の検定済みの牛で長命連産効果や乳代効果がまだ出ていないものがありました。

研修生 今言ってるやつ(種)を使ってても、(成績表を)パッとわかるところに降りてくるまでは、結構時間がかかったり、いつの間にか入ってるわとか。

頭数が揃うと数字が出るようになり、更新は四半期ごとです。成績表には国内娘牛頭数などが記載されており、頭数が揃ってくると項目が埋まっていく仕組みになっています。

乳量・乳脂量なども、種牛が改良されるにつれて少しずつ上がっていくのが良い方向とされます。川上さんは、自分がどの方向に向かっているのかを、こうした数字を見ながら確認していると話しました。

ショータイプを使うと総合指数が「ゴーンと下がる」理由

川上さんは、自分が趣味でショータイプを使うと、その月の数字が一気に下がることがあると打ち明けます。

ショータイプ 体型(見た目)を重視して選抜される種雄牛のタイプ。乳量重視のインデックスタイプと対比される。品評会(ショー)で評価される美しさに特化する分、総合指数などは低くなりやすい。

種雄牛には、体型重視のショータイプ、乳量重視のインデックスタイプなどの区別があります。ショータイプは体型に優れる一方、総合指数のような総合能力は低くなりがちです。研修生はこれを「見栄えはいいけど、エンジンはちょっと弱め」と表現しました。

川上さんは、この差の背景に国ごとの考え方の違いがあると説明します。たとえばカナダは、体型が良くないと乳が出ないという発想で、体型を重視しているそうです。総合指数も日本の計算方式なので、農場や国が変われば評価が変わる可能性があります。

研修生 それこそ海外行ったら化けるっていうか、輝くやつもいるしみたいな話。

実際、普段は2500や2000ある数字が、ショータイプを種付けした時期にはいきなり792まで下がることもあるといいます。ただし川上さんは、この数字が経営にとって良いか悪いかを一概には言えないとして、あくまで参考値だと繰り返しました。

能力より繁殖、日本の酪農に残された「黒毛和牛」という道

研修生は、牛の個体能力が高くても、繁殖の回し方によっては牧場が衰退することもあれば、逆に牛が悪くても回し方で続けられることもある、と論点を広げます。川上さんも同意します。

ここで川上さんは、日本ならではの特殊な事情を挙げます。海外にはない、乳牛に黒毛和牛を産ませられるという道です。

川上 日本の海外にない特殊な部分は、黒毛和牛を産ませられるっていうところ。副産物収入があるので、たとえ能力が悪くても繁殖が良ければ、まあまあそんなに。

研修生は、これを「生きる道がまだ増えている」と受け止めます。乳の能力が低くても、繁殖が良ければ経営が成り立つ余地がある、という理解です。

ただし川上さんは、繁殖指数の遺伝率は低いため、種雄牛の交配で繁殖を良くしていくのは難しいと補足します。だからこそ、繁殖をマイナスにしないように改良していく、という考え方になります。

遺伝率 ある形質が、親から子へ遺伝でどれだけ受け継がれるかを示す割合。遺伝率が低い形質は、種雄牛選びによる改良の効果が出にくく、飼養環境などの影響を受けやすい。

研修生は、こうした海外の種になると、今の牛群検定ではデータとして拾いきれず「エラー」になりがちだと指摘します。川上さんは、それが「守るため」とも「囲うため」とも取れると応じました。

2枚目の裏「受精結果診断」は、全体の個別版

ここから2枚目の裏、次世代診断情報の「受精結果診断」に移ります。川上さんによれば、内容は1枚目の裏とほぼ同じで、言ってしまえばこちらは個別版です。

川上さん自身は、ある牛には和牛とF1しかつけていないため、その牛の数字はそういう内容になっている、と実例を挙げます。

F1 ── 異なる品種を掛け合わせた雑種第一代のこと。酪農では乳牛に黒毛和牛などを交配して生まれる子牛を指すことが多く、肉用として販売される。

一番端は個体識別番号で、その隣に「SMIP情報」があります。これは日本国内でゲノムを調べたかどうかを示すマークで、調べていれば「G」がつきます。

川上 Gがつくとゲノムの育種価が出てるよってことで。ゲノム成績を調べて、検定でも調べて、それをがっちゃんこし合わせて数字が出る。そいつにだけは出る。

「G」がついた牛は、ゲノム成績と検定成績を合わせているため、信頼度が高くなります。研修生はこれを「詳しくわかっている牛」と言い換えました。

乳量と遺伝評価の「差」から見えてくること

続く項目は、牛票の乳量と遺伝評価です。どちらも段階で示され、その農場で乳量が出ているほど、また遺伝能力が高いほど、数字は10に近づきます。

川上さんは、この2つの差の読み方を説明します。たとえば乳量が4で遺伝評価も4なら普通ですが、遺伝評価4に対し乳量が6なら、その牛の能力がしっかり発揮できている、飼い方が合っている、と読めます。

乳量と遺伝評価の差の読み方

乳量>遺伝評価

遺伝能力以上に乳が出ている。牛の能力を発揮させる飼い方ができているサイン

VS

遺伝評価>乳量

いい種で改良しているのに乳が出ていない。うちの牛には合っていない可能性

逆に、いい種をたくさん使って改良しているのに乳が出ていない場合も、この差から見えてきます。ただし川上さんは、事故や飼い方などさまざまな要因があるため一概には言えず、傾向を探る材料だと注意を添えます。

研修生は、極端に良い・悪いよりも、7と8、6と9くらいのバランスがちょうどいいのではと確認します。川上さんは、種も娘牛も改良されているはずなので、年をとるにつれて数字が10に近づいていかないとおかしいという見方を示しました。

成績表は基本的に古い牛が一番上に来ます。だから上の古い牛より、後半の新しい牛のほうが数字が大きくなっていないと、うまく更新できていないことになります。

繁殖状況と分娩予定、そして「注意」のマーク

右側には繁殖の状況が並びます。何月何日に何回目の種付けをして、何を付けたか。受精卵移植の場合は「E」がつき、これはET、受精卵移植を意味します。

ET(受精卵移植) 優秀な牛から採取した受精卵を、別の牛(受卵牛)の子宮に移植して産ませる技術。能力の高い母牛の遺伝子を効率よく増やせる。成績表ではEなどの記号で示される。

妊娠鑑定でお腹に子牛がいるとわかると、分娩予定日が出ます。さらに「使用管理注意状況」として、難産・死産・ボディコンディションの欄があります。

これらは国内種雄牛を、つまりNTPトップ40を使っていると出る項目です。母牛の分娩難易度が高く、種牛の分娩難易度も高い場合、危ないという注意のマークがつきます。

川上 危ないですよ、分娩の時は注意してくださいよっていうのがマークで出てきてくれます。

ただし、海外精液や不明・その他を使っているとこのマークは出ません。国産種牛どうしの組み合わせなら参考値として出ますが、川上さんはこの信頼度は非常に低いと強調します。

分娩難易度の信頼度が低いのはなぜか

川上さんは、分娩難易度の信頼度が低い理由を、データの出どころから説明します。もとになっているのは、農家が分娩時に報告する1から5段階の分娩難易です。

問題は、この報告が農家の主観に左右される点です。力自慢の農家が「俺一人でやった」と言えば「1」になるため、種牛の成績として集計される数字も、そもそも粗いものになります。

川上 農家さんが、マッチョの農家さんが「俺一人でやった」って言ったら1だし。

川上 参考値なんで。本当はちゃんとしたいんですよ、本当は。

研修生は、これでも言語化している方だと評価しつつ、データとして不十分ではないかと率直に指摘します。マークを見て身構えても、実際は意外と小さかったという経験も多いといいます。

そのうえで研修生は、そもそもトップ40という枠組み自体の現実性に疑問を投げかけます。トップ40だけをめちゃくちゃ使うタイプは今はいないし、そこから好きな数字を選ぶようなノリでもない、という指摘です。

研修生 その四十からで考えてないって、必ずしも。その選択肢の一つではあるけど。

「1、1、1、1」問題──後から来る人がつまずく仕組み

研修生の話は、分娩難易度の報告が形骸化している現状へと踏み込みます。実際の入力が「1、1、1、1」と横並びになってしまう、いわゆる「1、1、1、1」問題です。

研修生は、こうした形骸化がベテランだけでなく、後から入ってくる人にとっても不幸だと指摘します。真面目に学ぼうとする新人ほど、項目の意味を理解しようとして、同じところでつまずいてしまうからです。

研修生 後から入ってくる子たち、それこそめちゃくちゃ頭よくて、最先端を学んできましたって人でも、結果同じところでつまずいてしまう。

そして研修生は、種も牛も成長しているのに、その種をまとめて評価する仕組みだけが成長していないのはおかしい、と問題の核心を突きます。

研修生 牛も変わって、種も成長してるのに、その種をまとめてる評価が成長してないのはおかしいし。

川上さんも、多くの人が「はぁ」と思いながら帰っているのではないかと応じます。研修生は、作る側は「ちゃんと言いましたよ」というスタンスでも、実務上は誰も得していないと重ねました。

研修生 無視。普通に「あいつ産まれんで、多分明日の朝みたいな」でしょ。業務としてもね。

「どの牧場にも適さないのでは」──狙いどころへの違和感

研修生は、この仕組みが特定の牧場に合わせて作り込むのは難しいと理解を示しつつ、それでも根本的な違和感を口にします。

研修生 これに関しては、このやり方ってどの牧場にも適さないのではないかな、ってちょっと思う。

一方で川上さん自身は、この項目を別のやり方でカバーしています。アメリカのゲノムで調べ、頭数が揃うアメリカでは分娩難易度の信頼度も高く、娘牛側のゲノムも調べているためです。

川上さんは、その情報を交配プログラムに入れ込むことで、分娩難易度の高い種を自動的に弾いています。分娩難易度が高いやつは、もう交配の種として弾かれていくという運用です。

そして川上さんは、日本も本当は同じことができると考えています。皆が国内ゲノムを調べ、きちんと報告し、信頼度の高い数字を入れられれば理想的だが、それが今できていないだけだ、という認識です。

川上 本当はできるんだよ。本当はできる。

データは「全部取らないと意味がない」

研修生は、ゲノムに踏み出せない人の事情にも理解を示します。全員ができることではなく、既存の紙の記録が積み上がっている中で「さあ今からゲノムやろか」と言われても無理がある、という現実です。

特に小規模であるほど、投じた労力に対して結果が返ってくるまでのタイムラグは長くなります。その期間、同じ方向を見て続けなければ意味がない、と研修生は指摘します。

川上さんは、ゲノムが調べられるようになった当初、優秀な雄牛だけを調べる人が多かったと振り返ります。しかし自分はそれでは意味がないと考え、全頭を調べ、生まれた牛から交配プログラムに入れていったと話します。

研修生 データって取るんやったら全部取らないとほんまに意味なくて。その場しのぎで、腐ったとこだけちょっと取り除いてっていう感じは、マジで結構意味ない。

データの取り方に対する2人の共通見解

✓

DO(やるべきこと)

全頭を調べ、生まれた牛から交配プログラムに入れ込み、全体を見て判断する

✗

DON'T(避けるべきこと)

めちゃくちゃ良い牛と悪い牛だけを調べる、その場しのぎの部分的なデータ取り

研修生は、知識が増えて新しい項目が加わることはあっても、現時点で調べられる分は全頭やるしかない、と結論づけます。だからこそ牛群検定も、やるならそこまでやらないと機能しない、という話につながっていきました。

「トップ40を使ったらここまで上がる」への強い違和感

話は成績表の一番下の段に戻ります。そこには、国内トップ40をあなたの牛群に使ったら、これだけ能力が上がりますよ、という数字が書かれています。

これに対し、研修生は強い拒否感を示します。川上さんが「トップ40を使えば乳量成分も総合指数もここまで出る」と数字を示しても、研修生は「それ、苦手」と繰り返します。

研修生 もういっちゃんいらん広告やねん。そのいっちゃダサいやつやねん。

研修生は、この提案を公共トイレの貼り紙にたとえます。「いつも綺麗に使ってくれてありがとうございます」のような、潜在意識に働きかける言い回しへの違和感です。

研修生 効果あるな思ったら使うから。ほんまに。無駄な情報削いで、真に迫る情報にしないと、これの価値も下がる。

研修生の主張は一貫しています。効果があると思えば自分で選んで使うのだから、押しつけがましい提案はむしろ全体の数字を下げる、という考え方です。

トキの里も、乳量も──「価値をどう見るか」という問い

研修生の話は、近くにあるトキの保護施設にまで広がります。立派な看板や整備された道路を見て「本気でこれがいいと思ってやっているのか」という疑問を抱いた、というエピソードです。

ここで研修生は、牛を乳量で評価することと、鳥を視聴時間のような指標で評価することを重ねて考えます。乳量が出なければ淘汰される牛のように、見てもらえない鳥も淘汰されてしまうのではないか、という視点です。

研修生 価値を上げたいんやったら、本当にそれ?ってマジで思うし。なんでこれに金があって、なんで、って思うから。

研修生は、トップ40の提案の背景に「格差があるから下の人を助けよう」という発想があるのではと推測する川上さんに対し、まさにそこが嫌なのだと返します。下を引き上げて平均を上げる一方、上の牧場をあまり伸ばそうとしない構えに違和感がある、という主張です。

下の奴らを引き上げて平均値上げよう、で、上のやつは放っといて囲う。そのやり方に価値がないと思ってる。 ── 研修生

研修生は、トップ40そのものを否定しているわけではありません。トップ40だけを使うのも一つの立派なやり方だと認めた上で、その提案の「立ち振る舞い方」に問題があると整理しました。

集めた情報の使い方が「もったいない」

研修生は、集めたデータの活用の仕方そのものに疑問を投げかけます。データの羅列だけを渡して「はい、見て」では、読み解ける一部の人しか恩恵を受けられない、という指摘です。

研修生 データのしょうもない羅列だけ渡して、はい見て、みたいな。誰がわかんねん。わかって言った人たちと喋って、全体が変わるわけない。

研修生は、せっかく集めた情報は、本来アドバンテージになりうると考えます。困って相談してきた相手に「こうすればこれだけ上がる」と示せることこそ、情報の使い方として価値がある、という発想です。

さらに研修生は、川上さんが提案するように「国内で手に入る種の中で最高順位10%」といった示し方であれば、むしろ使ってみたくなると話します。押しつけではなく、選ぶ材料として提示する形です。

川上 ちゃんと選別してこれだけやって、疑問点も活用して、これだけ尖ったことできたらここの数字になりますよ、って方が絶対僕は面白い。

研修生は、書き足すよりまず削るべきだと主張します。「トップ40を使ったら」の一行を増やすくらいなら、今ある不要な情報を消すほうが先だ、という順番の話です。

仕組みが「やれる人だけがやれる」ものになっていないか

最後に研修生は、この仕組みが「やれる人だけがやれる」ものになってしまっていないか、という懸念を語ります。本来はそうしたくないはずなのに、結果としてそうなっているのではないか、という問いです。

研修生は、精度を少しずつ積み重ねることの価値を認めています。1%上がって何になる、という話ではあっても、その積み重ねを変に崩さずに続けられるはずだった、と惜しみます。

研修生 積み重ねをもうちょっとこういうところで変に崩さんで、やってけんのに、やってきてるんじゃないかなと思ったのに。

川上さんは、データはもっと尖らせることも活用することもできると応じ、自分は実際にそうやって成績表を活用していると話します。

川上 僕やってるもん。だってこれを活用してやってるから。

研修生が「やれる人はやれる、にしたくないはずなのに、そうなっているのに気づいているのか」と問うと、川上さんは「気づいていないと思う」と答え、この回の議論を締めくくりました。

まとめ

今回は牛群検定成績表の裏面2枚を読みながら、次世代診断や近交係数、分娩難易度といった項目の意味を確認しました。後半は「トップ40を使ったらここまで上がる」という提案への違和感を入り口に、集めたデータをどう活かすかという、より大きな問いにまで話が広がった回でした。

  • 1枚目・2枚目の裏は次世代診断のページで、ゲノムヤングサイアーを使った分は交配成績の数字に含まれない
  • ゲノムヤングサイアーは更新が速い一方、検定前の予測値であり、川上牧場は補助対象になる検定済みを多く使っている
  • 近交係数は最先端の種を使うほど上がり、下げたい場合は牛群検定牧場なら無料で使える交配プログラムに相談できる
  • 分娩難易度の信頼度が低いのは、もとになる農家の報告が主観的で「1、1、1、1」と形骸化しがちなため
  • データは全頭を調べて全体を見なければ意味がなく、「トップ40を使ったら」の押しつけ的な提案より、選ぶ材料の提示や不要な情報の削減が大事だという議論に至った