日曜日恒例のコメント返し!黒毛和牛1頭○○万円…その金額だけでは見えない現実
2026-07-19 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
日曜日恒例のコメント返し!黒毛和牛1頭○○万円…その金額だけでは見えない現実
「牛1頭が90万円を超えた」
この数字だけ聞くと、どう感じるでしょうか。
「牛ってそんなに高いの?」
「畜産農家って、けっこう儲かるんじゃない?」
「1頭売ったら90万円入るなら、すごい商売では?」
そんなふうに思う人もいるかもしれません。
実際、先日うちから島根県の子牛市場に出した黒毛和牛の子牛が、88万円で買っていただきました。税込では90万円を超える金額です。
ありがたいです。本当にありがたい。
でも今日は、その「90万円」という数字の少し手前にある話をしたいと思います。
牛が市場に出るまでには何があるのか。
そして、その牛の後ろに何年分の時間が積み重なっているのか。
日曜日恒例のコメント返しをしながら、そんな話をしてみます。
牛より先に、人間が倒れそうです
この日の出雲市は、最高気温35度。
前日も35度を超えていて、牛たちの食欲がかなり落ちていました。
暑くなると牛は本当に餌を食べなくなります。
乳量も落ちますし、体調を崩す牛も出てきます。この頃は、暑さの影響なのか立つのがしんどそうな牛もポツポツ出てきて、獣医さんに診てもらわないといけない状況でした。
そんなタイミングで、さらに事件が起きました。
自動給餌機が止まりました。
メーカーさんに修理をお願いしたのですが、「ここは部分修理では難しい」と言われてしまいました。
いや、困る。
ものすごく困ります。
今まで機械が運んでくれていた配合飼料を、人間が手で運ばないといけません。
80頭近い牛を飼っていると、機械が一つ止まっただけで、仕事の景色が一気に変わります。
「牛が暑さで倒れそう」と言いながら、こっちが先に倒れそうです。
こういう日は思います。
酪農って、「牛を飼う仕事」だけじゃないんですよね。
牛を見る。
餌を作る。
機械を直す。
堆肥を運ぶ。
治療する。
暑さ対策をする。
何か一つ止まると、全部がつながっていることがよく分かります。
そして、なぜかトラブルというものは一つずつ来てくれません。
続くときは、本当に続きます。
牛にも、ちゃんと「性格」があります
今週もSNSや音声配信に、たくさんコメントをいただきました。
その中に、
「牛は個体差があるから面白いですよね」
というコメントがありました。
まさにその通りです。
牛舎を移動したとき、環境が変わったことが嫌で、気が狂ったように鳴き続ける牛もいます。
逆に、
「何か変わりました?」
くらいの顔で、のほほんとしている牛もいます。
人間と同じで、牛にもかなり個性があります。
新しい環境にすぐ慣れる牛もいれば、変化が大きなストレスになる牛もいる。
だから最近では、仲のいい牛同士をなるべく一緒に移動させたり、群れから完全に切り離さない牛舎設計を考えたり、牛のストレスをできるだけ小さくする飼い方も増えています。
「牛は全部同じように飼えばいい」
ではありません。
牛を毎日見ていると、むしろその逆だと感じます。
同じ牛という動物でも、一頭一頭かなり違う。
この違いをどれだけ拾えるかが、飼養管理の面白さでもあります。
AIには「全部任せる」のではなく、「気づいてもらう」
監視カメラとAIについて投稿したところ、
「AIに全部任せず、“気づく役”に絞る設計がいい」
というコメントもいただきました。
これは、言われてみて「ああ、なるほど」と思いました。
僕自身はプログラマーでもAIエンジニアでもありません。
コードもほとんど分かりません。
ただ、
「毎晩牛舎を見回る回数を少し減らせないか」
「発情や異常行動をカメラが教えてくれたら楽なのでは」
「人間がずっと監視するより、変化したときだけ知らせてくれたらいいのでは」
そんな現場の困りごとから作り始めただけです。
AIに牛を全部任せたいわけではありません。
最終的に牛を見るのは人間です。
でも、人間が24時間すべてを見るのは無理です。
だからAIには、
「いつもと違うよ」
と知らせてもらう。
これだけでも、かなり酪農は変わると思っています。
AIが酪農家の代わりになるというより、酪農家が見るべき場所を教えてくれる。
そんな使い方が一番現実的なのかもしれません。
瓶の牛乳がおいしく感じるのにも理由がある
TikTokには、
「瓶牛乳って、不思議と特別冷たくておいしく感じますよね」
というコメントもありました。
分かります。
あの、口に当たったときの冷たさ。
瓶そのもののひんやりした感触。
紙パックとは少し違う飲み口。
同じ牛乳でも、容器によって味の感じ方は変わります。
だから僕も瓶牛乳は好きです。
ただ、瓶には重い、割れる、回収が必要など、流通上の難しさがあります。
「おいしいから残せばいい」
だけでは続かない。
これも酪農や乳業の面白いところです。
味だけでは決められない。
コスト、物流、作業性、環境負荷など、たくさんの条件の中で商品が作られています。
もし旅館や温泉などで瓶牛乳を見かけたら、ぜひ一本飲んでみてください。
瓶牛乳が残る一番の方法は、結局「飲まれること」です。
そして来た、「これは黒字ですか?」
そして今週、一番紹介したかったコメントがこちらです。
黒毛和牛の子牛を市場に出す投稿に対して、
「これは黒字ですか?」
というコメントをいただきました。
すごくいい質問だと思います。
今回の子牛は88万円で買っていただきました。
税込では90万円を超えます。
数字だけ見ると、大きいですよね。
だから、
「1頭90万円なら、かなり利益が出るのでは?」
と思うのも当然だと思います。
ただ、ここで一度、時間を巻き戻してみます。
この90万円には「6年」が入っています
今回市場に出した子牛だけを見ると、生まれてから市場に出るまでの期間だけが目に入ります。
でも僕からすると、その子牛の物語は、もっと前から始まっています。
黒毛和牛を自分の牧場で増やしていこう。
血統を考えながら、少しずついい繁殖牛を残していこう。
そう考えて飼い始めた母牛が、今では6歳くらいになっています。
最初の牛を導入して、繁殖させ、子牛を産ませ、その中からまた次につなげる。
その積み重ねの中で今回の子牛が生まれました。
つまり僕の感覚では、
「90万円の子牛ができた」ではなく、「6年間続けてきた途中で、今回88万円という評価をいただいた」
なんです。
もちろん、その6年間ずっとこの一頭だけに経費を使っているわけではありません。
単純に「6年分の経費を引けば利益」という話でもない。
でも、少なくとも市場価格だけを見て、
90万円売上
=90万円儲け
とはなりません。
餌代があります。
人工授精や受精卵移植など繁殖にかかる費用があります。
獣医療費もあります。
敷料もいります。
牛舎も必要です。
機械も壊れます。
電気も水も使います。
そして何より、毎日世話をする時間があります。
しかも牛は、工業製品のように「計画通り」に生産できるものでもありません。
妊娠しないこともある。
流産することもある。
生まれた子牛が弱いこともある。
育成途中で病気になることもあります。
だから、売れた瞬間の価格だけ切り取っても、その牛の経済性は分からないんです。
40万円のときもあれば、90万円を超えるときもある
子牛市場には「相場」があります。
今回のような価格が、ずっと続くわけではありません。
少し前には、平均価格が40万円台という時期もありました。
同じように牛を育てても、売る時期によって値段は大きく変わります。
そして相場が下がったからといって、
「じゃあ今月から牛を作るのをやめよう」
とはできません。
牛は今日種付けして、来月売れる商品ではないからです。
妊娠期間があり、生まれて、育って、市場に出るまで時間がかかります。
繁殖牛そのものを作るなら、さらに何年もかかります。
だから畜産は、現在の相場を見ながら未来を作る仕事でもあります。
今日の価格を見て、今日だけで判断できない。
ここが株や日用品とは違う、牛という生き物を扱う難しさだと思います。
血統は「高い牛を付ければいい」ではない
今回の牛で、もう一つ面白いのが血統です。
黒毛和牛の世界は、競馬が好きな方なら少しイメージしやすいかもしれません。
父が誰なのか。
母の父は誰なのか。
さらにその前は誰なのか。
血統が脈々とつながっていきます。
そして、
「この牛は肉質が強い」
「この系統は体が大きくなりやすい」
「この牛は枝肉では評価されるけれど、子牛市場では小さく見えやすい」
など、それぞれに特徴があります。
だから僕は、単純に「今一番人気の種雄牛を付ければいい」とは思っていません。
今回も、僕なりに狙いがありました。
市場で分かりやすく評価される組み合わせだけではなく、
「この牛の良さを残したい」
「この血を次につなげたら面白いのではないか」
と思う交配をしています。
当然、判断を外すこともあります。
「あっちを使っておけばよかったな」
と思うことも普通にあります。
でも、それも含めて繁殖です。
答えが分かってから種付けすることはできません。
数年後の牛を想像して、今決める。
この時間軸の長さが、僕は黒毛和牛の面白さだと思っています。
「90万円」に興味を持ってもらえたことが、一番うれしい
今回、
「そんなに高いんですね」
「相場というものを知らなかった」
「これは黒字なんですか?」
というコメントをいただきました。
僕は、これがすごくうれしかったです。
なぜなら、最初は「90万円」という数字への興味でもいいからです。
そこから、
「なんでそんな値段になるんだろう」
「血統って何だろう」
「牛は何年かけて育つんだろう」
「農家には実際いくら残るんだろう」
と、一段深く興味を持ってもらえたら、牛の見え方が変わるからです。
僕が毎日発信している理由も、そこにあります。
酪農を好きになってください。
和牛を応援してください。
もちろん、そうなってもらえたらうれしいです。
でも、その前に、
「知らなかったものを、ちょっと知ってもらう」
だけでも十分だと思っています。
スーパーに並ぶ牛乳。
焼肉屋さんの和牛。
そこに値札だけでは見えない時間があります。
人がいて、牛がいて、失敗があって、選択があって、その積み重ねの最後に商品があります。
コメントがあるから、僕も自分の仕事を知り直せる
日曜日にこうしてコメント返しをしていると、自分では当たり前になっていたことを、もう一度考え直すことがあります。
「牛にも性格があるんですね」
「瓶牛乳ってなぜおいしく感じるんですか?」
「90万円で売れたら黒字なんですか?」
酪農家からすると当たり前の風景でも、牧場の外から見ると疑問になる。
その疑問に答えようとすると、
「あれ、そもそもなんでだろう」
と、僕自身が学び直すこともあります。
だからコメント返しは、単なる質問回答ではありません。
牧場の中と外をつなぐ作業だと思っています。
今回の記事を読んで、
「牛1頭90万円」という数字の見え方が少し変わった。
そう感じてもらえたなら、この長い話を書いた意味があります。
次にスーパーや焼肉屋さんで牛肉を見たとき、ほんの少しだけ、その牛が生まれる前の時間まで想像してもらえたらうれしいです。
そしてもし黒毛和牛の血統の話をもっと聞きたい方がいたら、今度は「なぜ人気種雄牛だけを使わないのか」「子牛市場で評価される牛と、肉になって評価される牛は同じなのか」といったところも深掘りしてみようと思います。
牛の世界は、知れば知るほど沼です。
でも、その沼が面白いんですよね。
今日も牛乳を一杯飲みながら、牛や酪農のことを少しだけ身近に感じてもらえたらうれしいです。
それではまた。
みんな、牛乳飲んでね。
情報|川上牧場🐮メンバーシップ|川上哲也
■どんなメンバーシップか 川上牧場を応援していただける方向けのメンバーシップです。参加費はすべて活動費に当てさせていただき
note.com
🐄📚『酪農未経験者のために: 川上牧場研修 〜遺伝改良と飼料設計編〜 』Kindleで絶賛発売中!📘
全ての酪農に興味がある方へ🐮数字で牛の声を聞こう!👇
酪農未経験者のために: 川上牧場研修 〜遺伝改良と飼料設計編〜
amzn.asia
780円
(2026年05月11日 21:02時点
詳しくはこちら)
Amazon.co.jpで購入する
毎日飲んでいる牛乳。
でも、
その牛乳がどこで、
どう生まれているかを知る機会はほとんどありません。
川上牧場のメルマガでは、
・牛舎で起きていること
・酪農のリアル
・牛乳の値段の裏側
・子牛が育つ現場
・SNSでは書きにくい話
などをお届けしています。
読むと、
スーパーの牛乳コーナーの見え方が少し変わります。
【牛乳の見方が変わる川上牧場メルマガ】はこちらから
牛乳の見方が変わる川上牧場メルマガ
kawakamifarm.net
川上牧場 lit.link
島根県出雲市にある小さな酪農場、One link to tell your story.
lit.link
今週もここまで読んでいただきありがとうございます。
毎週日曜日の記事では、
読んでくださった方への
応援スタンプを用意しています。
今週のQRはこちら👇
川上牧場公式LINEでスタンプを集めると、
川上牧場のNoteマガジン無料体験などの特典を受け取れます。
ただ読むだけではなく、
少しずつ一緒に参加してもらえたら嬉しいです。