川上牧場研修Part1【牛群検定成績表(年間累計)】

2021-04-17 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

今回は、牛群検定成績表1ページ目の年間累計成績を題材に、成績表の数字と実際の牧場のリアルがなぜズレるのか、そしてその数字とどう付き合うべきかを研修の会話から追いました。数字を絶対視せず、書き方の背景まで含めて読む姿勢がポイントです。

この回の要点

  • 成績表の乳量や濃厚飼料の数字は、実際の給与量の100%ではなく「参考値」として捉える
  • 病気で捨てた乳や治療中の落ち込みは記録に残らず、検定日同士を標準的な曲線でつなぐ形になる
  • 濃厚飼料の欄に何を含めるかは牧場ごとに違うため、農場間の単純比較には注意がいる
  • 川上牧場はあえて配合給与量だけに固定し、後から見返しやすくしている
  • 「数字だから絶対」と思い込むと、他農場への指摘が的外れになることもある

配信の全文(podyの記事より)

搾乳前の休憩で始まる、ゆるい研修配信のスタイル

この配信は、川上牧場の川上さんが研修生に酪農を教える様子を、そのまま音声として残していく試みです。搾乳前の休憩にいつもやっている「研修生の質問に答える会話」を録音しているだけ、というスタイルで進みます。

川上さんは、研修生だけでなく、酪農に興味がある人や酪農を重視している人にも、自分が思う酪農を伝えていきたいと話しています。

川上 搾乳前の休憩にいつもやっている研修生の質問に答える会話をただ録音しているだけ。このスタイルでやらせていただきます。

今回のテーマは、牛群検定成績表の1枚目。3週間ほど前に乳脂肪やタンパク、乳糖といったバルク乳の項目を教えたうえで、いよいよ成績表の読み方に入っていきます。

牛群検定 乳牛1頭ごとの乳量や乳成分などを定期的に検査・記録する制度です。検定日に測定したデータをもとに、牛群全体の成績表がまとめられます。

成績表1ページ目「年間累計成績」の左上を見てみる

最初に見るのは、検定成績表の牛群成績1ページ目、左上にある年間累計成績です。ここには乳量や濃厚飼料費などが並んでいます。

ただし川上さんは、ここに書かれている数字が「検定成績表の結果の累積入量」であって、川上牧場が実際に出した分の100%ではない、と釘を刺します。

川上 これ牛群検定成績表の結果の累積入量なので。

研修生も、実際の牧場が出した分からすると100%ではなく、多くの場合はそうならない、と受け止めていきます。

なぜ成績表の乳量は「農場のリアル」とズレるのか

川上さんは、成績表と実際がズレる理由を具体的に説明します。バケットで搾ったぶんや、初乳で搾って捨てたぶん、治療のために抗生剤を打って捨てたぶんは、成績表には反映されないというのです。

たとえば検定日の翌日に牛が病気になって乳を捨てても、成績表の上では前後の検定日の間に「何もなかった」という記録になります。正常と正常のあいだをつなぐ形で計算されてしまうわけです。

川上 検定日の次の日に病気になって捨てたりすると、その検定成績上では、今日4月の検定成績と5月の検定成績の間に何もなかったっていう記録になるんだ。

初乳 分娩直後に出る、通常の生乳とは成分が異なる乳のことです。子牛に免疫を与える大切な役割があり、出荷用の生乳としては扱われず、搾って別に使われたり捨てられたりします。

実際の農場では、乳房炎で治療すれば乳量がガクンと落ち、そこから回復していく曲線を描きます。けれど成績表の計算は、検定日同士をつなぐ標準的な曲線で描かれるため、その落ち込みが見えなくなります。

川上さんは、この違いを成績表の乳量は「参考値」として捉えるべきだと整理しています。

成績表の乳量と農場のリアル

検定成績表上の乳量

検定日同士を標準的な曲線でつなぐ。病気で捨てた乳や治療中の落ち込みは記録に残らない

VS

農場の実際の乳量

乳房炎などで治療すれば乳量が落ち、そこから回復する曲線を描く。捨てた乳のぶんも含まれる

研修生は、この構造を学校のテストにたとえて理解しようとします。小テストでずっと満点でも、中間テストだけ悪ければそれが全てになってしまう、という感覚です。

研修生 いや俺小テストめちゃくちゃずっと満点できたんやけど、中間テストだけ悪かったらもうそれが全てで、あくまでその検定の時にいっぱい出てたらある意味出ているし。

完全な100%のデータではないけれど、概ねその牧場の8割9割方は正しいものとして受け止めていい、というところで2人は落ち着きます。

研修生 概ねその牧場の大体の8割9割方正解として受け止めるでいいんですよね。

濃厚飼料費も同じ罠——牧場ごとに意味合いが変わる

乳量の下にある濃厚飼料の項目も、まさに同じだと川上さんは言います。これも成績表上の濃厚飼料給与量の累積量であって、実際に買って与えた数字とは違うのです。

川上牧場の場合、この数字は濃厚飼料給与量のみになっています。つまり牧場によって、この欄が指すものの意味合いが変わってくる可能性がある、ということです。

川上 うちの場合だと、これ、うちの数字は濃厚飼料給与量のみの数字になってます。

濃厚飼料 穀類などを主体とした、エネルギーやタンパクの濃度が高い飼料のことです。牧草などの粗飼料に対して、栄養を補うために与えられます。

川上牧場では、トップドレスとして使うシナジーパワーという商品や、中間飼料はこの欄に入っていません。中間飼料とは、濃厚飼料と粗飼料の間に位置づけられる餌のことです。

中間飼料 濃厚飼料と粗飼料の中間に位置づけられる飼料の総称です。番組内では、ビートやヘイキューブ、デハイといった製品が例として挙げられています。

この中間飼料を成績表に入れている農場もあれば、入れていない農場もあります。だからこそ、成績表の濃厚飼料の数字だけを農場間で単純に比べることはできない、というわけです。

「見栄を張れる」構造と、あえて入れない川上牧場の選択

研修生は、飼料の情報を入れれば入れるほどリアルなデータになる一方で、そこに強制力はなく、検定員はあくまで申告された量を計算するだけだ、という点に気づいていきます。

つまり、書き方によっては数字を「いい風」に見せることもできなくはない、という話です。

研修生 見栄を張るというわけじゃないですけど。ということもできんことないというか。

川上さんは、つなぎ飼いの農場などでは濃厚飼料給与量を毎回書くのが面倒なので、1頭あたり10キロぐらいだろうと平均を取って一律で書いたりする例を挙げます。TMRでも同じように平均を取ることがあります。

TMR Total Mixed Ration の略で、濃厚飼料や粗飼料などをあらかじめ混ぜ合わせて与える飼料のことです。牛が餌を選り食いしにくく、栄養バランスをそろえやすいとされています。

そうやって一律で書くと、成績表上の配合給与量や価格が、実際の経営上の数字からどんどん離れてしまいます。

川上 牛群検定成績表と実際の経営上の配合の給与量とか価格とかは、あんまり離れた数字になってしまうなっていうものになります。

研修生は、牛群検定をやっている牧場でも、成績表はあくまで参考値で、本当に詳しいリアルなデータは別で持っているのではないか、と推測します。

だから、比率や導入費が2%下がった、5%上がったといった細かい変動には、そこまで一喜一憂しない、という見方です。

あえて「配合給与量だけ」に固定する理由

川上さんは、川上牧場ではあえて数字を配合給与量だけに固定していると説明します。餌を変えるたびに書き方を変えていくと、後から見たときに何が何だか分からなくなってしまうからです。

川上 毎回今回の検定はこれだけにしていって、ちょっと餌変えたからまた配合給料またっていう、その変わってしまうと、ここ見た時にもうわけわかんない。

明確に一つの基準へそろえておくことで、後から自分が見返したときや、他の人に見てもらったときに分かりやすくなる、という意図です。

だからもう明確にしたもの、うちは配合給与量だけに。 ── 川上

一方で研修生は、他の牧場の成績表を見るときは、リアルかどうかは分からなくても、そこに出ている数字でしか判断できない部分が多い、という現実も指摘します。

研修生 でもそこで出てる数字でしか判断できない部分は多いに。

「数字だから絶対」という思い込みが的外れになるとき

川上さんは、事業団などが出す冊子や方法誌を読んで、濃厚飼料給与量とはこういうものだと頭に入れておくと、農場ごとの書き方の違いによってズレが生じることがある、と注意を促します。

川上 教科書通り、そのまま濃厚飼料給与量っていうのは農場ごとにこういうものだって頭の中に入れておくと、ちょっとずれが生じるようなところでもありますね。

これを受けて研修生は、数字だからこそ「絶対だ」という感覚を持ちやすいけれど、その前提で見てしまうと、地区や組合から「低くて」と指摘するのが的外れになりかねない、とまとめます。

その数字だから絶対だ感がどうしてもあるけど、そういう見方しちゃうと、地区とか組合からしたら低くてみたいなこと言うのは的外れになり得ることもある。 ── 研修生

最後に川上さんは、濃厚飼料給与量、いわゆる飼料効果——1キロあたりに何%出たかという指標——が、乳脂費と同じように遺伝改良にも活用されようとしている、という展望に話を広げます。

飼料効果 与えた飼料の量に対して、どれだけ乳が生産できたかを示す考え方です。番組内では、乳脂費と並ぶ指標として、遺伝改良への活用が話題に上っています。

そこで搾乳の時間になり、Part1はここまで。川上さんは、酪農家の本業に支障が出ない程度に継続して頑張っていきたい、と締めくくっています。

まとめ

今回は、牛群検定成績表1ページ目の年間累計成績を題材に、成績表の数字と実際の牧場のリアルがなぜズレるのか、そしてその数字とどう付き合うべきかを研修の会話から追いました。数字を絶対視せず、書き方の背景まで含めて読む姿勢がポイントです。

  • 成績表の乳量や濃厚飼料の数字は、実際の給与量の100%ではなく「参考値」として捉える
  • 病気で捨てた乳や治療中の落ち込みは記録に残らず、検定日同士を標準的な曲線でつなぐ形になる
  • 濃厚飼料の欄に何を含めるかは牧場ごとに違うため、農場間の単純比較には注意がいる
  • 川上牧場はあえて配合給与量だけに固定し、後から見返しやすくしている
  • 「数字だから絶対」と思い込むと、他農場への指摘が的外れになることもある