農業高校出前授業の質問に答える🐮④
2025-02-10 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
今回は、農業高校の高校生から出た質問に、川上牧場の川上さんが答える回でした。乳量の話から品種改良、そして挫折との向き合い方まで、酪農のリアルと川上さんの哲学がよく伝わる内容でした。
この回の要点
- 牛の乳量はホルスタインの場合3産目がピークで、ベテランと若い牛のバランスが経営を安定させる
- 農業に向いているのは、AIを超えて型を壊せるような「ちょっと変わった人」だと川上さんは考えている
- 品種改良は遺伝子検査や受精卵を使い、体格も乳量もそろった均一な牛の群れを目指して進めている
- 挫折の乗り越え方は「20代のうちにたくさん失敗しておくこと」で、それがコロナ禍の餌の切り替えにも生きた
配信の全文(podyの記事より)
出産回数が増えると牛の乳量はどう変わる?
まずはお便りコーナーから。配信アプリ「Spoon」に届いた、スプーンネーム・レイニーさんからの質問です。牛は出産回数が多くなるほど乳量はどうなるのか、という内容でした。
川上さんによると、牛は生まれてから1歳ぐらいで種付けをして、2歳ぐらいで初めての出産を迎えます。そこからやっと牛乳が出始めるそうです。
川上 牛乳はずっと永遠に絞れるわけではなく、出産を繰り返してお乳が出るっていうのは人間と一緒ですね。
だからこそ、なるべく1年に1回のペースで次の分娩ができるように牛を飼っていくのが、酪農家の技術なんだと話します。
そして肝心の乳量の変化ですが、ホルスタインの場合、3産目が乳量のピークだと言われているそうです。ホルスタイン ── 白と黒のまだら模様が特徴的な乳用牛の代表的な品種。日本で飼われている乳牛の多くを占める。
4産、5産あたりで乳量は横ばいか少し下がるくらい、6産目ぐらいになると生産性が落ちてくると言われることが多いとのこと。ただ、今のホルスタインは品種改良が進んでいるので、健康なら10産以上飼うこともできるそうです。
川上さんはこの話を、スポーツチームにたとえて説明してくれました。
川上 新人ばっかりだとちょっと安定感がないし、かといってベテランばっかりだと体が動かないというか。
牛の牧場も同じで、牛群、つまり群れ全体でどう生産性を上げるかが目標になります。ベテランの牛と若い牛がバランスよくいる方が、経営が安定するというわけです。
牛群(ぎゅうぐん) 1頭ごとではなく、牧場で飼っている牛の群れ全体を指す言葉。酪農では群れ全体の乳量や健康状態をどう管理するかが経営のポイントになる。
農業に向いているのは「ちょっと変わった人」?
ここからは、先日の農業高校での出前授業で高校生から出た質問に答えていきます。最初は「農業に向いている人はどのような人ですか?」という質問です。
この質問をしたのは、川上牧場にインターンシップで来ていた子だったそうで、川上さんはあえて意外な答えを返しました。
川上 (農業に向いてるのは)狂った人がいいよって言って答えました。変わった人、狂った人がいいよって。
その理由は、農業の現場にも自動化やロボット化、AI化、DX化がどんどん入ってきているからです。規模を拡大して法人経営する農家も増え、雇われて働く農業者も多くなってきています。DX化 ── デジタル技術を使って仕事のやり方や仕組みそのものを変えていくこと。デジタルトランスフォーメーションの略。
川上 AIができるようなことを人間がやっても面白くないんですよね。
だからこそ、AIを超えるような、型を壊すような人がこれからの農業に向いているのではないか、と高校生に伝えたそうです。
一方で、川上さんは日本の農業の現状にも触れます。まだまだ愚直に同じものを安定的に作ることが望まれる面もあり、この先どうなるかはわからない、というのが正直な感想だと話します。
関税が下がって輸入品がどんどん入ってくれば、日本の農産物は付加価値でしか売れなくなるかもしれません。本当にいいものをとにかく作る、そんな勝負になる可能性もあると見ています。
牛の品種改良ってどうやって進めるの?
続いての質問は「牛の品種改良について、具体的な内容や進め方は何ですか?」というもの。川上さん自身、牛の交配や品種改良にとても興味があるテーマだそうです。
目指しているのは、体の形も食べる量も出す乳量もそろった、均一な牛の群れです。
川上 中程度の大きさの牛で、しっかりとした乳房で、脚もしっかりしているような、生産性が高い牛を揃えていくみたいなのが目標だよって。
そのために、まずアメリカに遺伝子検査のデータを送り、その結果に合わせて交配を組み立てるそうです。各種の販売会社が持つ交配システムに入れつつ、自分でも「これがいい」という種を選んでいく方法で進めています。ゲノム検査 ── 牛の遺伝子情報を調べて、乳量や体格などの能力を予測する検査。どの牛とどの牛を交配させるかの判断材料に使われる。
さらに、能力の高い牛から受精卵を作る取り組みも行っています。まったく別の牛より、姉妹同士の方が似ている可能性が高いので、そうした受精卵で同じような遺伝子の牛をそろえていくそうです。
今後はOPU、つまり体外受精の技術も広がりそうだといいます。牛の卵巣に針を刺して卵子を吸引し、受精卵を作る方法で、これが島根県でもできるように動いているとのこと。実現すれば改良のスピードがさらに上がるかもしれないと期待を寄せていました。
挫折を乗り越えるコツは「20代のうちに失敗すること」
最後の質問は「挫折した経験や乗り越え方は?」というもの。川上さんが一番落ち込んだ経験として挙げたのが、品種改良にまつわる出来事でした。
アメリカから30万円ぐらいで受精卵を買い、やっと受胎して分娩を迎えるという時に、逆子で子牛を死なせてしまったそうです。この記憶は今もトラウマとして残っていると話します。
その上で川上さんが伝えた乗り越え方は、とてもシンプルなものでした。
いろんなチャレンジ、いろんな失敗を20代のうちにやっておくと、それの乗り越え方が30代とかで確立していく。 ── 川上
若いうちに多くの失敗をしておくと、30代になる頃には乗り越え方が身についていて、同じ失敗を回避できるようになる、というのが川上さんの考えです。
実際、この経験は大きな危機のときに生きたそうです。コロナ禍で海外の餌が入ってこなくなり、餌の価格が急激に上がったときのことです。スエズ運河 ── 地中海と紅海を結ぶ、船の重要な通り道。ここが通れなくなると世界中の物流に影響が出る。
そのとき川上さんは、いい餌で牛に頑張ってもらうやり方から、地域で得られる安い餌へと一気に切り替えて乗り越えました。
すぐに方向転換できたのは、20代の頃にいろんな餌や添加剤を試し、たくさんチャレンジしていたからだといいます。だから読者や高校生にも、なるべく早くいろんなことにチャレンジして、いろんな失敗をしていくのがいいと勧めていました。
まとめ
今回は、農業高校の高校生から出た質問に、川上牧場の川上さんが答える回でした。乳量の話から品種改良、そして挫折との向き合い方まで、酪農のリアルと川上さんの哲学がよく伝わる内容でした。
- 牛の乳量はホルスタインの場合3産目がピークで、ベテランと若い牛のバランスが経営を安定させる
- 農業に向いているのは、AIを超えて型を壊せるような「ちょっと変わった人」だと川上さんは考えている
- 品種改良は遺伝子検査や受精卵を使い、体格も乳量もそろった均一な牛の群れを目指して進めている
- 挫折の乗り越え方は「20代のうちにたくさん失敗しておくこと」で、それがコロナ禍の餌の切り替えにも生きた