牛の品種改良が面白い!未来をデザインする酪農の科学

2025-02-23 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

今回は、リスナーの質問をきっかけに、牛の品種改良の面白さを酪農家の目線でたっぷり語る回でした。遺伝子組み換えとの違いから、60年分のデータ、国ごとの理想の牛、さらには鷹やハエまで、話は広がっていきます。

この回の要点

  • 川上さんがやっているのは遺伝子組み換えではなく、優れた牛を掛け合わせる「選択育種」による品種改良
  • 牛群検定による60年分のデータが、優秀な牛づくりの土台になっている
  • 乳量重視の日本、暑さに強いイスラエル、加工向けのニュージーランドなど、国ごとに理想の牛が違う
  • ゲップの少ない牛など、環境に配慮した品種改良の動きも進んでいる
  • 牛だけでなく鷹やハエ、蚊まで、動物と人が一緒に未来をつくることに川上さんはロマンを感じている

配信の全文(podyの記事より)

堆肥の悩みが動いた日と、今日のテーマ

配信の冒頭、川上さんは朝の牧場の様子から話し始めます。2月23日の日曜日、雪がパラパラ舞う雪後晴れ、気温は5度という寒い1日です。

この日の仕事は、子牛の乳舎の掃除と、堆肥の配達。前日にも堆肥を3台配達したばかりで、午前中はまるまるつぶれそうだと話します。

そんな中で嬉しい進展もありました。町内会の集まりで自分の牧場の堆肥を使ってもらえないかと持ちかけたところ、快い反応が返ってきたそうです。

背景には、資材価格の高騰があります。化成肥料 ── 化学的に合成された肥料のこと。近年は原料価格の上昇で価格が高くなっているが高くなり、堆肥を使いたいけれど自分では撒けない、という声が地域にあったのです。

川上 もう本当にホイールローダーで行っても撒きますよという話まで持っていったら、そこまでやったら任せてくれるというところまでこぎ着けてきたんで

動いてみるものですね、と川上さん。堆肥をめぐる長年の悩みが、少し軽くなりそうだと語ります。

そして今日の配信では、先日届いた質問に答える形で、牛の品種改良について話していくと予告します。

「遺伝子組み換えが好き」は誤解?まず整理したいこと

お便りは配信アプリのSPOONに届いたもの。スプーンネーム「多分大学生」さんからの質問です。

質問(多分大学生さん) 遺伝子組み換えをしているのが楽しいと言っていましたが、牛以外でやってみたい生き物はいますか?

この質問に対して、川上さんはまず言葉の誤解をていねいに解きます。

川上 遺伝子組み換えが好きってわけではないんですよね。品種改良が好きということで

自分がやっているのは牛の品種改良、遺伝改良であって、遺伝子組み換えではない。ここは一度注意してほしい、と川上さんは念を押します。

ホルスタインは一見みんな同じように見えますが、実は1頭1頭が違っていて、特長や個性があると言います。

川上 ここをこう自分の好みの牛に変えていったり、牧場に合った牛に育てていくっていうのが好きで

その面白さを伝えるために、この日はAIにまとめてもらった品種改良の解説も交えて話が進みます。

品種改良ってそもそも何をしているの?

川上さんがまず紹介するのは、品種改良の基本的な手法です。

一般的に行われるのは選択育種 ── すぐれた特徴を持つ個体どうしを掛け合わせ、より良い個体を選んでいく手法。遺伝子そのものを操作する遺伝子組み換えとは異なると呼ばれるもの。遺伝子組み換えではなく、優れた特徴を持つ牛を掛け合わせて、より良い牛を育てていく方法です。

選ぶ基準はさまざまです。何を重視するかで、目指す牛の姿が変わってきます。

・たくさんミルクを出せる牛

・乳脂肪が高い、体細胞が低いなど乳質の良い牛

・寒さや暑さに強い牛

こうした特徴を持つ牛を何世代もかけて交配し、より良い個体をつくっていく。それが品種改良です。

AIのまとめには「まるで未来の理想の牛をデザインするような感覚」とあり、川上さんも奥深いとうなずきます。

イメージしやすいのは育成ゲームかもしれない、と川上さんは例えます。ポケモンの個体値や、ウマ娘で速い個体どうしを組み合わせる感覚に近いと話します。

60年分のデータが語る、科学と農業の融合

品種改良の何が面白いのか。川上さんが挙げる1つ目のポイントは「データがすごい」ことです。

どの牛がどれくらいミルクを出しているか、どんな病気になりやすいか。細かいデータが何代にもわたって蓄積されていきます。

その基盤になっているのが牛群検定 ── 毎月、牛の乳を調べて乳量や乳質、健康状態などのデータを記録する仕組み。日本では長年にわたり酪農の改良に使われてきたです。川上さんはこれを、牛乳が血液からできていることから「簡易の血液検査のようなもの」と説明します。

毎月データを取ると、その牛が1年間でどれだけの乳量・乳質だったか、いつ病気をしたかまで分かると言います。

川上 それがもうその牛でデータが溜まっていって、牛群検定がやられて、もう60年ぐらいになりますか

つまり、日本で牛群検定をしている牛の60年分のデータが蓄積されている、ということです。

このデータを使えば、ある牛の子どもが優秀になる確率が高いかどうかも予測できます。総合指数の中で全国の酪農家の牛と比べて何位か、といったこともわかるそうです。

60年分の牛のデータが全部あるっていうようなことですね ── 川上

国ごとに違う「理想の牛」の姿

品種改良は日本だけの話ではありません。牛が飼われている世界中の国で、その土地に合った改良が進められています。

川上さんによれば、日本はアメリカから入れている遺伝子が多く、種も受精卵もアメリカ寄り。そのぶん乳量が多い傾向があると言います。

一方で、環境がまったく違う国では、違う方向の牛が目指されています。国ごとの狙いの違いは、品種改良の面白さそのものです。

国によって違う品種改良の狙い

イスラエル

平均気温が35〜40度になる暑い地帯。暑さに強く、それでも年間1万キロを超える乳量の牛が改良されている

VS

ニュージーランド・オーストラリア

チーズやバターへの加工・輸出が目的。乳脂肪などの成分が高い牛が改良されている

同じ牛でも、暑さへの強さを重視する国もあれば、加工に向く成分を重視する国もある。その土地の事情に合わせて理想の牛が変わっていくのが、品種改良の奥深さです。

さらに近年注目されているのが、環境への視点です。ゲップの少ない牛を目指す動きもあると言います。

育てるほどカーボンオフセット ── 温室効果ガスの排出を、別の削減活動などで埋め合わせるという考え方につながるような、CO2削減・温暖化ガス削減に貢献する牛づくりも進められているそうです。

鷹、ハエ、蚊まで。産業動物の改良に感じるロマン

ここで川上さんは、質問の本題「牛以外の動物なら何がいいか」に答えます。

川上 どの動物も産業動物っていう生き物は全部面白いなというのは認識ではあるんですよね

ニワトリ、豚、羊、ヤギ。コンテストに出るような個体は、川上さんにとって「芸術作品」だと言います。だからどの動物でも楽しい、と。

具体例として最初に挙がったのは、意外にも鷹でした。配信で知り合った鷹匠から聞いた話がきっかけです。

ドバイなどでは鷹のレースがあると聞き、川上さんは強く惹かれたそうです。

川上 競馬の鷹版みたいな。ああいうの聞くと、鷹の品種改良とかも面白いなって思ったり

さらに畜産まわりで挙がったのがハエです。家畜のフンを餌にしたウジがハエになり、その幼虫がニワトリや魚の餌になる、という循環の話です。

続けてミツバチ、そして蚊も。病原菌を広げる蚊を、人間に有益な蚊に変えようという動きにも面白さを感じると話します。

さまざまな動物で品種改良が行われていること自体が、川上さんにはたまらなく面白いようです。

品種改良は未来をデザインする仕事 ── 川上

動物と人が一緒につくる未来にロマンを感じる

配信の後半では、リスナーからのコメントに答えていきます。

「零度のなか公園でキンキンの牛乳を一気飲みしたらお腹がゴロゴロした、牛乳が苦手なのか」というコメントには、キンキンに冷えていたならお腹がゴロゴロしがちなのでは、と返します。

「鷹から蚊まで気になる」「未来をデザインするなどかっこいい」という声には、少し照れつつも自分の思いを語ります。

川上 人間と動物が共同してものを良くしているみたいな、便利な世の中にしてるってのはすごいロマンを感じませんか?僕だけですか?

しかもそれは近代だけの話ではなく、長い歴史を積み重ねながら一緒につくってきたもの。その積み重ねの感覚がたまらなくいい、と川上さんは話します。

マニアックですよね、と自分でも笑いながら、この日の配信を締めくくります。三連休の中日、寒波の中でも、仕事や学校に向かう人へ「みんな牛乳飲んでね」と声をかけて終わりました。

まとめ

今回は、リスナーの質問をきっかけに、牛の品種改良の面白さを酪農家の目線でたっぷり語る回でした。遺伝子組み換えとの違いから、60年分のデータ、国ごとの理想の牛、さらには鷹やハエまで、話は広がっていきます。

  • 川上さんがやっているのは遺伝子組み換えではなく、優れた牛を掛け合わせる「選択育種」による品種改良
  • 牛群検定による60年分のデータが、優秀な牛づくりの土台になっている
  • 乳量重視の日本、暑さに強いイスラエル、加工向けのニュージーランドなど、国ごとに理想の牛が違う
  • ゲップの少ない牛など、環境に配慮した品種改良の動きも進んでいる
  • 牛だけでなく鷹やハエ、蚊まで、動物と人が一緒に未来をつくることに川上さんはロマンを感じている