農業高校出前授業の質問に答える🐮⑥
2025-02-12 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
農業高校生からの質問に答える最終回として、川上さんが業界の課題から飼育のこだわり、海外で働く選択肢までを語りました。担い手不足という重いテーマを、入り口を広げる工夫や若者へのエールとともに前向きに伝えているのが印象的な回です。
この回の要点
- 酪農の担い手不足は、周辺産業の撤退を通じて「やりたくてもやれない」状況を生みかねない
- 川上牧場は隙間バイトや研修、食育活動で酪農の入り口を広げようとしている
- 飼育のこだわりは「なるべく牛に関わらず」牛に合わせた飼養管理を目指すこと
- 海外なら高い給料で働ける場合もあり、農業高校で得たスキルは特別な武器になる
- 会議での対応など、無自覚に若手を潰す行動が担い手不足の一因になっているという実感が語られた
配信の全文(podyの記事より)
トウモロコシ作りで「白い目」?出雲の牧場の朝
配信は川上さんの一日の予定紹介から始まります。2月12日の水曜日、雨曇りで最高気温11度。急に暖かくなって体調管理が大変な時期だと話します。
この日の仕事は、繁殖検診の結果をもとに牛たちをもう一度見ること。あわせて、先日の寒波の際に圃場へ運んでおいた堆肥をロータリーで打ち込む予定だと語ります。
圃場(ほじょう) 農作物を育てる田んぼや畑のこと。ここでは牛の餌となるトウモロコシを育てる畑を指しています。
4月頭ごろにトウモロコシを播種する予定で、その2ヶ月前くらいに堆肥を打ち込みたいのだそう。ただ、近所はお米農家さんばかりなので、トウモロコシ作りは少し浮いた存在のようです。
川上 なんか異常なことしてるわって思われてるかな。ちょっと白い目で見られてます。
そう言いながらも、川上さんは「ごめんなさいね、トウモロコシ作るんです」と、やわらかく笑いながら作業を続けていく様子を伝えます。
保存できる古代チーズ、実は「あんまり美味しくない」?
お便りコーナーでは、Stand.FMネーム「アンコウ鍋くん」からのコメントを紹介します。1月31日の「保存できる牛乳」の配信を聞いた感想でした。
リスナーは、保存ができる古代のチーズを一度口にしてみたい、とコメント。これに対して川上さんの返答は正直なものでした。
川上 あんま美味しくないんですよね。あんま美味しくない。やっぱチーズうめえですよ。
保存できる古代のチーズ 牛乳を煮詰めて作る古代の保存食を指しています。かつては高級食品とされていました。川上さんによると、フライパンで長時間煮詰めて作ります。
作るならフライパンが1個ダメになる覚悟が必要で、少量から始めるのがおすすめだと言います。1リットルだと半日つぶれるので、200mlくらいで焦がさないように煮詰めていくとできるそうです。
担い手不足で「やりたくてもやれない」酪農の未来
ここからは農業高校の出前授業で受けた質問への回答です。最初は「今後の課題や業界の課題について」という問いでした。
川上さんが挙げたのは、少子高齢化と担い手不足の深刻化です。農家の平均年齢は70歳になっていくとされ、農家が減っていくと、それに関わる産業も縮小していくと指摘します。
種屋さん、資材屋さん、JAなど、農業を支える企業の収益が減れば撤退が増えます。しかもその業者自体も人手不足で、酪農がやりたくてもやれない状況になっていくのではないか、というのが川上さんの見立てです。
JA 農業協同組合の略称。農家への営農指導や資材の供給、農産物の販売など、地域の農業を幅広く支える組織です。
具体例として、牛乳を運ぶタンクローリーの運転手、牛乳の検査員、人工授精師、搾取師、JAの営農指導員などが挙げられます。こうした周辺の人手が欠けると、酪農そのものが続けられなくなるという話です。
担い手不足が酪農を止める流れ
農家が減る
平均年齢70歳、農家のパイが縮小していく
↓
周辺産業が縮む
種屋・資材屋・JAなどの収益が減り撤退が増える
↓
人手が足りない
運転手・検査員・授精師などが確保できなくなる
↓
酪農が続けられない
やりたくてもやれない状況が生まれる
酪農のハードルを下げる。「簡単に始めて、簡単に辞めれる」入り口づくり
この課題を解決するために川上さんが取り組んでいるのが、酪農への入り口を広げる活動です。
たとえばタイミーやデイワークといった隙間バイトを使い、サラリーマンが土日など本業の休みに副業として酪農を選べるようにする。そんな選択肢づくりを進めていると話します。
タイミー/デイワーク スマホから短時間・単発の仕事に応募できる「隙間バイト」のサービスです。空いた時間に働ける手軽さが特徴です。
ほかにも、酪農未経験の人が川上牧場で研修し、そこから酪農業界へ就職できる人材を育てること。小中高への食育活動も、その一環だといいます。
川上 簡単にこう始められて、簡単に辞めれる。そしたらまた次の人が入ってこれるみたいな。入り口をなるべく大きくするような活動をどんどんしていこうかなと思っております。
牛に「関わらない」のがこだわり?飼育スタイルの考え方
続いての質問は「どのようなこだわりを持って牛を飼育していますか?」というものでした。
川上さんの回答は少し意外なもので、なるべく牛たちに関わらないようにしているというものです。牛が勝手に餌を食べ、のびのび自由に過ごし、必要最低限の管理しかしない。牛に合わせた飼養管理を目指しているといいます。
そのうえで、品種改良によって同じような均一な牛を作っていくところにこだわっている、と飼育の考え方を語ります。
6月1日は「牛乳で歌おう」。牛乳をテーマにしたイベント
次は、牛乳をテーマにしたイベントや活動内容についての質問です。川上さんが紹介したのは、6月1日の牛乳の日に毎年やっている「#牛乳で歌おう」という取り組みでした。
各SNSで「#牛乳で歌おう」を検索すると、いろんなアーティストや配信者が上げた作品が出てくるそうです。授業でもそう紹介したと振り返ります。
今年もいろんなコミュニティに参加しているので、牛乳の日に向けたイベントや活動をやっていきたいと話します。聞いている人にも、ぜひ参加してほしいと呼びかけます。
海外なら年収1000万も夢じゃない?酪農スキルという武器
最後の質問は「海外で働くことや収入についての意見」でした。以前インターンシップに来た高校生が食育活動の場にもいたので、海外の話をほかの生徒にも伝えたそうです。
たとえば出雲市で働くと時給1000円くらいだけれど、海外なら3倍の3000円ほどで働ける場合がある。物価も高いけれど、それだけもらえる、という話です。
川上 ワーキングホリデーとか青年海外協力隊とか、そういうので海外行くきっかけがあれば、向こうでもう一日休みもなく半年ぐらい働けば、年収1000万も夢じゃないよみたいな。
ワーキングホリデー/青年海外協力隊 いずれも海外へ行くきっかけとなる制度です。ワーキングホリデーは滞在しながら働ける制度、青年海外協力隊はJICAが行う国際協力の派遣制度です。
川上さんは、農業高校に進んで動物に触れられること自体が特別なスキルだと自覚してほしいと語ります。海外には日本の技術や牛の飼い方を知りたい国もあり、資格を取って行けば給料が高くもらえる場合もあるといいます。
知り合いには、一日に何百頭も種付けするような大きな牧場で、半年ほどで1000万円ほど稼いだ人もいるそう。ただし情勢は1、2年前と変わっているので、同じようにはいかないかもしれないと補足します。
川上 狭い視野で考えずに、いろんなところに世界中に牛は飼われてるんで、世界中を視野にするともっともっと働けるとこがいっぱいあるよみたいな。若いんだからどんどん海外に出て行けよっていう。
若いんだからどんどん海外に出て行けよ。 ── 川上
無自覚に若手を潰す。会議で起きた「欠席にさせていただきます」事件
配信の終盤、コメント欄への返信から業界の構造的な話に広がります。トウモロコシ作りについては、うちの畑が空いているとブラジル人の方に声をかけたら「作る作る」となり、圃場を準備してあげる形でやっているのだそう。
続いて「戦後、農村から人を集団就職させてきた代償か、それとも少子高齢化だったのか」というコメントに対し、川上さんはさまざまな要因があると前置きしつつ、自身の実感を語ります。
いろんな会議に出ると、無自覚に若手を潰す行動がたくさんあると感じるといいます。その一例として、県知事に認定される指導農業士の会議での出来事を紹介します。
指導農業士 都道府県知事に認定される農業者で、地域の担い手を指導・育成する役割を担います。川上さんはこの会議の役員を務めています。
3月の会議の日程調整で、川上さんが「この日だけはダメです」とメールを返したところ、返ってきた答えは意外なものでした。
川上 その川上さんが出席できない日に決まりました。川上さんは欠席ということにさせていただきますので、よろしくお願いしますっていうメールが返ってきたんですけど、いや、明らかにヤバいだろこれ。
川上 出れない日なんてあるの?役員やで、私。
川上さんは、こうしたことが無自覚に起きるのが担い手不足の一因だと考えているようです。事務局に強く意見を言うとこうなることもあると、注意を促します。
高校生へ「無理しないでね」。オンライン授業もやっています
最後は授業を受けた高校生へのメッセージです。川上さんは、Instagramのいいねへのお礼を伝えつつ、気を使わせているのではと心配する様子を見せます。
川上 なんか気使わしてるのかなって思って。ちょっとおじさん心配だよ。大丈夫かな。無理しないようにね。
毎日配信しているので、学校で聞きたいことや牛のことなど、ちょっとした疑問でもコメント欄に寄せてほしいと呼びかけます。
さらに、全国の農業高校生や小中高に向けて、オンラインで学校とつないで話すこともできると案内します。各自治体の助成金を使えば、無料でできるとのことです。
川上 先生に、この人とちょっとオンラインで授業できるみたいよみたいなこと言ってもらったら、各種自治体の助成金とか使ってもらえれば、タダでできると思いますんで。
まとめ
農業高校生からの質問に答える最終回として、川上さんが業界の課題から飼育のこだわり、海外で働く選択肢までを語りました。担い手不足という重いテーマを、入り口を広げる工夫や若者へのエールとともに前向きに伝えているのが印象的な回です。
- 酪農の担い手不足は、周辺産業の撤退を通じて「やりたくてもやれない」状況を生みかねない
- 川上牧場は隙間バイトや研修、食育活動で酪農の入り口を広げようとしている
- 飼育のこだわりは「なるべく牛に関わらず」牛に合わせた飼養管理を目指すこと
- 海外なら高い給料で働ける場合もあり、農業高校で得たスキルは特別な武器になる
- 会議での対応など、無自覚に若手を潰す行動が担い手不足の一因になっているという実感が語られた