アメリカ大統領交代で日本の酪農業界に何が起こる?

2025-01-21 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

大統領交代の影響は、関税・ガソリン・輸入飼料・為替がそれぞれ違う形で酪農に波及します。「餌の関税はもともと低い」「効くのはむしろ為替」といった具体的な整理が、この回のいちばんの持ち帰りポイントです。

この回の要点

  • 関税や自由貿易協定の見直しで、日本の農産物はアメリカへ輸出しにくくなる可能性がある
  • ガソリン価格が上がると、輸送コストや国産飼料づくりの燃料費に響く
  • 餌はもともとほぼ無関税なので、関税より為替(円高・円安)の影響が大きい
  • 中国など別の販路も広がる一方、一国依存は輸出停止リスクを抱える
  • TPPやグローバルサウスを活用し、販路を分散させることが酪農の安定につながる

配信の全文(podyの記事より)

今日の牧場と、堆肥が動き出す季節

この日の配信は1月21日火曜日。天気は晴れ、最高気温は12度で、前日は雨がパラパラする場面もあったそうです。

今日の仕事は堆肥の注文への対応です。春野菜やお米づくりが始まる時期で、堆肥の注文が増えてくるといいます。

川上 堆肥を今日は2台運んで、先日生まれた子牛に授乳をしたりとか。

配信はいつもどおり15分ほどの予定。牛の鳴き声が入るのは、分娩が近い牛を休ませる「乾乳」の準備で、お乳を絞ってほしいと吠えているからだと説明されています。

乾乳(かんにゅう) 出産が近づいた牛の搾乳を一時的に止め、体を休ませる期間のこと。次のお産と泌乳に備えて母牛のコンディションを整えるために行います。

お便り紹介:大統領交代で酪農にどう影響する?

今回のお便りコーナーでは、stand.fmネーム・れいりんさんからの質問が紹介されました。

質問(れいりんさん) アメリカの大統領が変わり、関税面で変化があると思います。酪農家としてはどのような面で影響しますか?ガソリンやトウモロコシ、輸入飼料の価格とかですか?

前日にトランプ大統領へ交代したばかりで、さっそくいろいろな政策が打ち出されている、と川上さんは受け止めています。

川上 (トランプ大統領に代わって)世の中ガラッとまた変わるんじゃないかなというところですけども。

この質問を軸に、関税、ガソリン、輸入飼料、為替という順で、酪農への影響を一つずつ見ていきます。

関税とTPP:日本の農産物は売りにくくなる?

まず関税の話です。トランプ政権は海外に高い関税をかけてアメリカを守る、という姿勢を豪語していて、農産物の輸入関税や自由貿易協定の見直しは酪農業界にも影響しそうだと話されています。

FTA(自由貿易協定) 特定の国や地域どうしが関税や貿易のルールを緩和し、モノやサービスを行き来しやすくする協定のこと。対象品目の関税が下がると、国内産と輸入品の競争環境が変わります。

前回のトランプ政権では、アメリカがTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱した経緯があります。

TPP(環太平洋パートナーシップ協定) 太平洋を囲む国々が関税引き下げなどで結ぶ経済連携の枠組み。アメリカは第1次トランプ政権時に離脱しました。

その結果、日本はカナダやニュージーランドなど他国からの輸入品への関税を削減する一方で、アメリカ産乳製品の競争力は下がった、という整理です。

今回の第2次トランプ政権については、再びTPPに入るのか、あるいはグローバルサウス側に寄っていくのか、まったく読めないと話されています。

川上 日本の農産物がアメリカに売っていってたんですけど、それの関税が上がることによって、輸出しにくいことにはなるんじゃないかな。

ガソリン価格:輸送コストと国産飼料づくりに響く

次はガソリン価格です。アメリカは産油国クラスにエネルギーを産出しているため、政策の方向転換が価格に効いてくる、という見立てです。

バイデン前政権が再生可能エネルギー推進を掲げていたのを、トランプ政権がひっくり返すのではないか、と川上さんは見ています。シェールオイルなどの推進に流れれば、ガソリン価格も動くという読みです。

シェールオイル 地下深くの硬い岩盤(シェール層)から採り出す原油のこと。アメリカで生産が拡大し、世界のエネルギー供給や価格に影響を与えています。

さらに中東情勢についても、イスラエルとガザの停戦のニュースに触れつつ、トランプ大統領がアメリカ有利になるよう介入すればガソリン価格は上がるのではないか、と話されています。

ガソリン価格が上がると、牛乳を運ぶ輸送コストも、牛の餌を運ぶコストも上がります。さらに、いま増やそうとしている国産飼料づくりの燃料費にも響いてきます。

川上 いろんなところで国産飼料、WCSとかトウモロコシとかもどんどん増やそうとしてますけども、そういうところの燃料費も増加するんじゃないかな。

WCS(ホールクロップサイレージ) 稲などの作物を実と茎葉ごと収穫して発酵させた飼料のこと。輸入に頼りがちな飼料を国内で確保する手段として注目されています。

輸入飼料と為替:値段が下がるとは限らない理由

続いて、質問にもあったトウモロコシなど輸入飼料の価格です。日本は輸入飼料に強く依存していて、牛乳は国産でも餌の多くは海外産、という構造があります。

一見、関税が下がれば牛の餌も安くなりそうに思えます。ですが川上さんは、餌にはもともとほとんど関税がかかっていないため、そこでの価格変動は大きくないかもしれない、と説明します。

牛乳は国産ですけど、餌は海外産、っていうですね。 ── 川上

では何が効くかというと為替です。トランプ大統領はドル安志向とされ、そうなると円高に振れる可能性がある、という見立てです。

円高になれば輸入飼料の値段は少しは下がるかもしれない、としつつも、アメリカの雇用が順調だという指標も出ていて、そう簡単にドル安になるとは限らない、と慎重に付け加えています。

川上 そうなってくると、輸入飼料はちょっとは値段が下がるかなとは思ったりしますけど、ここら辺もわかんないですよね。

国際情勢に振り回されない酪農へ:中国・インドの話も

ここからは、こうした不安定さとどう付き合うか、という話です。国内で需要と供給のバランスを取りつつ、アメリカ相手のビジネスが難しいぶん、中国向けなど別の販路も意識され始めています。

先日、黒毛和牛が中国向けに全面的に輸出解禁されたことにも触れ、農産物を少しずつ中国向けにシフトしていく流れになるのかも、と話されています。

ただし中国は、国内情勢が悪くなると日本産の農産物を全面禁止にすることがあり、ホタテなどの水産物で大きな被害が出た例も挙げられます。一つの相手に依存しすぎるリスクにも触れられています。

川上 そこに依存しちゃうと、また今度出口がなくなっちゃうんで。

だからこそ、TPPやグローバルサウスといった国際貿易の枠組みをうまく使い、いろいろな国に日本の農産物や乳製品を売れる形にすると安定するのでは、というのが川上さんの見立てです。

この日は就任翌日ということもあり、これからどうなるか、日本側では石破首相がアメリカとどう付き合うかも見えない、として、動きがあればまた紹介するとまとめています。参考として、JAcomに掲載されたコラム記事も紹介されました。

川上 国際情勢とかでなんか、ちゃんと面白いって思ってもらえたら嬉しいですけどね。

なお、次回はインドと日本の牛乳・乳製品の関係についてのニュースも紹介する予定だと予告されています。

まとめ

大統領交代の影響は、関税・ガソリン・輸入飼料・為替がそれぞれ違う形で酪農に波及します。「餌の関税はもともと低い」「効くのはむしろ為替」といった具体的な整理が、この回のいちばんの持ち帰りポイントです。

  • 関税や自由貿易協定の見直しで、日本の農産物はアメリカへ輸出しにくくなる可能性がある
  • ガソリン価格が上がると、輸送コストや国産飼料づくりの燃料費に響く
  • 餌はもともとほぼ無関税なので、関税より為替(円高・円安)の影響が大きい
  • 中国など別の販路も広がる一方、一国依存は輸出停止リスクを抱える
  • TPPやグローバルサウスを活用し、販路を分散させることが酪農の安定につながる