環境負荷を軽減するフードテックの進化
2025-01-27 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
今回は、国連環境計画のレポートを入り口に、代替プロテインの広がりが畜産・酪農にどう影響するのかを、酪農家の視点から考える回でした。前向きな期待と、日本ならではの難しさの両方が語られています。
この回の要点
- 代替肉・乳製品への移行は、温室効果ガス削減や森林破壊防止などに役立つと国連レポートは示している
- 移行には政府の支援と、影響を受ける農家への配慮による「公正な移行」が重要だとされる
- 日本は食に慎重で、昆虫食のように進め方を誤ると反発を招くと川上さんは指摘する
- 人間が食べられない草や残渣を食肉・牛乳に変える点が牛の価値で、その価値の出し方が酪農家の課題
- 紹介した記事は一年前のもので、AIがまとめたニュースも確認が必要だと川上さんは反省を語った
配信の全文(podyの記事より)
月曜の朝、確定申告に家畜保健所の調査で忙しい一日
配信はいつものように、島根県出雲市の小さな牧場からスタートします。今回は1月27日の月曜日、天気は晴れですが、午後から崩れそうだと話されています。
この日の川上さんは予定が詰まっていました。まず来るのが、家畜保健所による農場の聞き取り調査です。
家畜保健所 家畜の伝染病の予防や監視を担う行政機関です。鳥インフルエンザや豚熱(豚コレラ)などの流行を防ぐため、農場の防疫体制を確認する調査を行います。
この調査は毎年ある一方で、川上さんによれば内容の重い聞き取りは数年に一度ほど回ってくるそうです。防疫体制がしっかりしているかを確認されるとのこと。
午後からは確定申告に取りかかる予定で、今週は会議も入っていて忙しいため、仕事を全部片付けてしまいたいと話されています。前日には堆肥を3台運んだそうで、朝から働きづめの様子が伝わってきます。
牧場のお知らせと、牛乳で乾杯
乾杯の前に、川上牧場のお知らせが入ります。1つは、noteで運営しているメンバーシップの案内です。
note 文章や写真を投稿・販売できる日本のブログ系サービスです。メンバーシップ機能を使うと、継続課金でファンから応援を受けたり、限定コンテンツを届けたりできます。
このメンバーシップに入ると、オンラインや現地での牧場体験に参加できたり、有料記事が読み放題になったりするそうです。川上牧場を継続的に応援したい人や、一緒に新しいことをやってみたい人に向けた案内でした。
もう1つが、Instagramで展開している「#未来の牛乳」という取り組みです。リスナーの「こんな牛乳・乳製品があったらいいな」というアイデアを、AIアートにしてNFTとして販売しています。
NFT デジタルデータに「これは本物」という証明をつけて売買できるしくみです。ここではAIで作った牛乳のアート作品を、その証明つきで販売しています。
このNFTの売り上げは、子供食堂への牛乳支援や、小中高での食育授業の活動費に充てられるそうです。
皆さんの応援がですね、子供たちの食を支えていくという、そんなNFTになっております ── 川上
お知らせのあとは、恒例の牛乳で乾杯です。前日にホルスタインの雄が分娩して忙しかったそうですが、牛乳の質はどんどん上がっていると話されていました。
国連レポートが示す、代替プロテインへのシフト
ここからが本題のニュースコーナーです。この日はFramtidenというサイトの記事を、AIがまとめた形で紹介しています。テーマは「代替肉・乳製品へのシフトによって温室効果ガス排出を大幅に削減できる」という国連環境計画のレポートです。
国連環境計画(UNEP) 国連の中で環境問題を担当する機関です。気候変動や生物多様性などについて調査・提言を行っています。
このレポートは、ドバイで開催されたCOP28の期間中に発表されたものだと紹介されています。
COP28 気候変動対策を話し合う国連の国際会議の28回目です。2023年11月から12月にかけてドバイで開かれました。
記事によれば、牛を飼う畜産業は温室効果ガスの排出や、国によっては森林破壊、水質・土壌の汚染、生物多様性の喪失など、環境に大きな影響を及ぼしているとされています。
さらに、食肉の過剰な消費は、心血管疾患や糖尿病などの健康問題とも関連していると紹介されています。ここは、代替プロテインが注目される背景として語られています。
そのうえでレポートは、植物ベース・細胞培養・発酵ベースといった代替プロテインへの移行が、これらの問題の解決に役立つとしています。
代替プロテイン 肉や乳製品の代わりになるタンパク源のことです。大豆などの植物ベース、動物の細胞を培養して作る細胞培養、微生物の発酵を使う発酵ベースなどがあります。
代替プロテインの中身については、川上さんは一昨日と昨日の配信で説明していると触れ、詳しく知りたい人はそちらを聞いてほしいと案内しています。
代替プロテインへの移行がもたらすとされる効果
温室効果ガスの排出削減
畜産由来の排出を抑える
↓
森林破壊の防止
飼料や放牧のための開発を減らす
↓
水質と土壌の改善
汚染の負荷を下げる
↓
生物多様性の保全
環境への影響をやわらげる
↓
感染症リスクの低減
人獣共通感染症の広がりを抑える
移行に必要な政府の支援と、農家への配慮
レポートは、代替プロテインへの移行を進めるには政府の支援が欠かせないとしています。
具体的な政策提言として、研究開発の推進、補助金や税制優遇、効率的な規制認可プロセスの検討、消費者教育の強化などが挙げられていると紹介されています。
同時にレポートは、従来の農業や畜産に関わる人々への影響にも配慮が必要だとしています。経済的な損失に直面する農家や土地所有者を支援し、公正な移行を実現することの重要性を指摘しているそうです。
記事はこう締めくくられていると紹介されます。持続可能なフードシステムへの移行は、地球環境の保全と人類の健康にとって重要な課題であり、一人ひとりが食生活を見直すことで貢献できるのではないか、という内容です。
反対運動と昆虫食から見える、日本での難しさ
一方で川上さんは、記事の最後に触れられていた別の動きにも注目します。畜産・酪農関係者によるロビー団体が、植物性食品に肉やミルクの表示をさせないよう阻止しようとする動きが多く見られたという点です。
ロビー団体 自分たちの利益になるよう、政府や議会に働きかけて政策や法律に影響を与えようとする団体のことです。
イタリアでは培養肉の生産・販売を禁止する法律も承認されたと紹介し、川上さんは、新しいテクノロジーが生まれるとこうした反発が起こるものだと話されています。
川上 新しいテクノロジーが生まれると、こういうことがね、起こるかなとは思ったりしますけども、どうですか、配信を聞いてる皆さんは
ここで川上さんは、日本での過去の例として昆虫食を挙げます。コオロギ食が話題になったとき、世間で大きく取り上げられたことを振り返ります。
学校給食で子供たちに食べてもらい、安心・安全をアピールしようとした動きが、ニュースで総たたきになってしまったと川上さんは話します。その印象の悪さもあって、コオロギを生産していた会社は倒産してしまったそうです。
この経験から川上さんは、日本は他の国と比べて食に対して慎重なので、進め方をきちんとしないと難しいのではないか、と見ています。
日本でもかなり、進め方ちゃんとしないと、他の国と違ってね、食に対してちょっと慎重ですから ── 川上
牛の価値をどう出すか、これからの酪農家の課題
それでも川上さんは、新しい技術そのものは前向きにとらえています。人口が増える中でタンパク質が足りなくなることを考えると、こうした選択肢を進めていく必要があると話されています。
そのうえで、牛という存在の価値をあらためて語ります。牛は、人間が食べられない草や、捨てられる食品残渣を食べて、それを人間が口にするお肉や牛乳に変えてくれる、というのが牛のすごさだといいます。
人間が食べれない草とか、捨てられる食品残渣を食べてくれて、それを人間が食べるお肉や牛乳に変えてくれる ── 川上
川上さんは、そこがなくなったときに牛の価値をどう出していくのかが、これからの酪農家の課題だと話されています。この点を、むしろ楽しみだと感じているそうです。
一方でSNSを見ると、代替プロテインに対する反対の声のほうが大きい印象があるとも話し、リスナーの意見をコメント欄で聞いてみたいと呼びかけています。
一年前の記事だった!AIまとめニュースの落とし穴
ニュースを紹介し終えたところで、川上さんはあることに気づきます。最新ニュースかと思いきや、この記事は2024年1月1日付、つまり一年前のものだったのです。
川上 最新ニュースかと思いきや、2024年1月1日の、一年前の記事ですよ、これ。ちょっとAIさん勘弁してくださいよ
川上さんは最近、ChatGPTのタスク機能を使って、毎朝ニュースをお知らせしてもらうよう設定したそうです。ただ、その中身に間違ったものが混じっていたと明かします。
ChatGPTのタスク機能 決めた時間に自動で作業を実行してくれる機能です。ここでは「毎朝ニュースをまとめて知らせる」よう設定していました。
さらにリスナーからは、この内容に聞き覚えがあるという反応もあったようです。川上さんは確認不足を素直に認め、AIがまとめているからといって内容を鵜呑みにはできないと反省しています。
川上 最近アップデートして本当に調子いいじゃないか、東大の勉強も合格できるぐらいの技術があるみたいなこと言われたりしますけど。ちょっと確認をちゃんとしないといけないですね
ちなみにコオロギの話題については、去年5回、角度を変えて話したと川上さんは笑います。昆虫食はこの配信でよく取り上げるテーマだそうです。
一見すると酪農と関係なさそうですが、川上さんによれば結局はつながるといいます。豆腐や大豆など他のタンパク質が足りなくなると、牛乳やお肉の需要が伸びるからです。だからこそ、他のタンパク質の動きも見ておく必要があると話されています。
最後は、月曜日の朝らしく「いってらっしゃい、みんな牛乳飲んでね」と送り出して締めくくられました。番組ではリスナーからのお便りやアイデアを、コメント欄やDMで募集しています。
まとめ
今回は、国連環境計画のレポートを入り口に、代替プロテインの広がりが畜産・酪農にどう影響するのかを、酪農家の視点から考える回でした。前向きな期待と、日本ならではの難しさの両方が語られています。
- 代替肉・乳製品への移行は、温室効果ガス削減や森林破壊防止などに役立つと国連レポートは示している
- 移行には政府の支援と、影響を受ける農家への配慮による「公正な移行」が重要だとされる
- 日本は食に慎重で、昆虫食のように進め方を誤ると反発を招くと川上さんは指摘する
- 人間が食べられない草や残渣を食肉・牛乳に変える点が牛の価値で、その価値の出し方が酪農家の課題
- 紹介した記事は一年前のもので、AIがまとめたニュースも確認が必要だと川上さんは反省を語った